サークルという組織─大義の名の下に、罪を犯す者達─
「海方陸か……! 出てきた、バリケードの上だ!」
現れた男の姿にすかさず叫べば俺の周囲、仲間達は即座に戦闘態勢に移行してそれぞれ武器を構えた。
サークル副幹事長、海方陸。今回の事件を引き起こした首謀者の一人とも言えるだろう大幹部が、とうとう姿を見せていた。
そしてその手に握られているのは、変わらず二丁拳銃AMWのマキシムとミレニアム。そこに宿るスキルの力は、俺から見ても異様に強いものだ。
ウーロゴスを大量投入しての奇策さえ考え実現させたのはおそらくこの男だろう。そう思わせるだけの悪辣なる策謀家が、悠然と戦況を確認していた。
同時に各地に散開して戦場を、乱戦を構築していたサークル構成員の少なくない数が後退し、海方のところにまで集まってきた。
いずれも消耗していて、このまま抵抗したところですぐに決着がつきそうなほどには弱々しい。悪魔憑きが多いけれど、与えられた権能も相当使い果たしているな、これは。
そんな、今にも倒れそうな部下達を見て海方は嘯く。
耽美めいた長髪の男前が、いかにも妖しげな吐息を交えての……やけに芝居がかった声色だった。
「────とりあえず意表は突けたが、ここまであっさり突破されるか。虎の子のウーロゴスってもこの程度とは、アレクサンドラめ。やっぱり自分の取り分を多めにしてたんじゃねえだろうな、ったく」
「副幹事長! すみません、やつらはやはり強すぎます!!」
「いいさ、気にすんな。遅かれ早かれどうあれこうなるってのは最初から織り込み済みだ。元より勝ち目のねえ戦いだが、それを承知で俺達は功さんの志に集ったんじゃねえかよ、なあ」
「……はい! "いつの日か、人の手に時代を取り戻すために"! ヒトならざる支配者を打倒するための礎に、我々がなるんです!!」
変に気障ったらしい素振りで構成員達に話しかける海方。激励というにはあまりにも諦念の篭った、それでいて納得ずくといった感じだが。
部下達が叫んだ言葉に、俺は耳を傾けながらもやはりどうも閉口するものを覚えて、頭をポリポリと掻いた。
人の手に時代を取り戻すため。ヒトならざる支配者を打倒するための礎となるため。
以前のサークルとの決戦や、藤近への取り調べから得られた情報からもすでに分かっていることの追認でしかないんだけれど──やはりこいつらにとって大ダンジョン時代は、WSOはソフィア・チェーホワの玩具だという認識なんだな。
そして、その支配から逃れるためにやつらは一矢報いようと蜂起した。いや、一矢にすらなれずとも後に続く誰かが報いてくれると信じているんだ。
事情を知らなければ、そう考える人もいるんだろう。そこについては俺は肯定も否定もできる立場にない。
……だけど。だからってこんなふうに思い詰めて犯罪に走っていいわけ無いだろう。
俺は、ニヒルな笑みを浮かべている海方に向き直った。
「フッ……そういうこった。やれるところまでやるぜ俺達は。功さんの掲げたモンは、はるか未来じゃなくても今、俺達が受け継いでるのさ……!!」
「……どんな志を掲げていようが。その実現のためにやっていることが犯罪なら、その行いは法と秩序の下に止められなければならない」
「! シャイニング山形」
明らかに自己陶酔している様子の伊達男に、俺から言葉を投げかける。
隣りにいる香苗さんやアンジェさん達、仲間やサークル構成員。そして何より水を向けられた海方が視線を集中させる中、俺は静かに、けれど力強く輝き始めた。
ここまで至った者達に、もはや言葉で降伏を促せるとは思わないけれど。せめて俺の言葉が少しでも、その心に残ってくれることを期待したい。そのための輝きだ。
そう、俺から彼らに向けるのは敵意ではない。敵意など、抱くにもあたらない。
……たしかに。本来あるべき現世に、仕方ないとはいえど介入して有りうべからざる大ダンジョン時代を構築させたのはシステム領域だ。
断じて玩具扱いなんてしていないけれど、現世からするとそう思ったとしても不思議じゃないのかもしれない。ソフィアさんを、大ダンジョン時代を創り上げた支配者だと誤認するのも無理からぬことなのだろう。
だから藤近の理念や海方の決意も、俺としては理解できるものではあるんだよ、理屈としてはね。
だが、実際に行動に移した時点でそれはもう間違っているんだ。思想の是非とか主張の正否以前の問題、ことに移れば単なる犯罪で、言い逃れできないテロリズムだからな。
「たとえ未来でお前達の正しさが証明されるとしても。それが今この時、社会を乱し世界を脅かして良い理由には絶対にならない。ここで捕縛するぞ、お前たち全員一人残らず」
「……突然力を得ただけのガキが、ナマ言ってんじゃねえよ。世間知らずの天才は、救世主だのなんだの持て囃されて天狗になってんのか、ああ?」
「そんな世間知らずの目から見ても、お前達に道理はないと言っている。そして、海方陸……いいやサークル。断言するよ、たとえ何があろうとお前達に"後を継ぐ者"なんて絶対に現れない」
「……………………!!」
淡々と、彼らサークルへと指摘する。
いい加減、言うべきだろう……藤近功の志とやらは、たとえこの先どうなろうと絶対に後継者が現れることはない。
山形公平としてもコマンドプロンプトとしても、そこだけは確信を持って断言できることだった。
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