憧れは遠く。けれど追い続ける限り、いつでも道を照らし続ける
高密度の重力を封入された刀身が、元の鈍色から漆黒に変わり果ててその斬れ味を増大させる。
《重力制御》の用途の一つとして想定されているものだ……武器や防具をある種の"形あるブラックホール"のような状態にしてその性能をアップさせるやり方を、無意識的にアンジェさんは編み出していた。
そしてそこから放たれる竜断刀・奥義、その名をマリアベール。言うまでもなく彼女の祖母、マリーさんを由来としているネーミングだ。
刀から放たれた斬撃はブラックホールの力を具現化し、刀身の何倍もの長さとなってウーロゴスを直撃。袈裟懸けにする。
胴体の実に半分以上を切り裂いて、アンジェさんは難なく着地してスキルを解除。残心を怠らぬままに納刀した。
──彼女の技はこれまでにいくつか見てきたけどいずれも、神話に名だたる竜殺し、ドラゴンスレイヤーの名を付けられていた。
俺でも知ってるようなビッグネームばっかりだ、主にゲームでよく知っているし。
そんな統一性のある竜断刀の、それも一番威力が高い切札に自身の祖母の名を付ける。
意味するところは明白だった……アンジェさんなりの、マリーさんへの強いリスペクト精神の発露なのだとね。
「……幼い頃からずっと追い続けているあの背中、眼差し。私が信じる最強にして最高のドラゴンスレイヤーは、紛れもなく私の祖母マリアベール・フランソワ」
独り言つ。誰に聞かせるわけでもないが、たしかに世界に祖母の偉大さを語るようにつぶやく彼女。
生まれた時から当たり前に自分のすぐ近くにいた、世界最強クラスの探査者たるマリーさん。過去にはS級モンスターとしてのドラゴンを倒してみせた逸話もある偉大な祖母に、この人は探査者になる前からずっと、あこがれを抱いていたんだな。
そして探査者として上澄みになり、祖母の背中を実際に追い続ける今。
ドラゴン同様にS級相当と思しきウーロゴスを相手に、今の自分の持てる力すべてを出し切りたいと思い、今の技を放ったのかもしれなかった。
立ち上がり、こちらに近づきつつもアンジェさんの顔に浮かぶのは苦笑い。照れ隠しと、悔しさの入り混じった複雑な笑みだった。
「ごめん、ワガママしちゃって……通じもしないのに何してんのかしらね、私も。おばあちゃんの背中は遠いわ、さすがに」
「アンジェリーナ……いいえ。たしかにあなたの奥義はこの目にしました。見事な技の冴えだったと思います」
「ああ。ともに戦う友として、尊敬せずにはいられない一撃だった……だ、だ、だからアンジェちゃん! お、おおお落ち込まないでぇー……?」
「変なタイミングで素に戻るよな、ランレイ」
『ほとんど二重人格だね、千尋』
迎え入れる仲間達の言葉は温かく、そして敬意に満ちている。香苗さん、ランレイさんはその奥義を讃え、神奈川さんやステラも微笑みとともにアンジェさんを受け入れている。
もちろん俺もだ。斬り裂かれたウーロゴスにミュトスが飛びかかるのを見つつ、アンジェさんを見る。
少し離れたところで乱戦はまだ続くけど、こちらもウーロゴスを立て続けに二体も相手したんだ。少しくらいの小休止がてら言わせてもらうくらいは良いだろう。
今の一撃で、アンジェさんは自覚ないだろうけど偉業を成し遂げていたんだ。それを伝えないでは、彼女が報われない。
「お疲れさまです、アンジェさん。通じてますよ、今の奥義」
「公平、あんたもお疲れ様……って、えっ?」
「ほんの少しだけですけどね。あなたが放った最後の一撃は、次元を超えた威力を発揮しました────ウーロゴスのダメージの治りが遅い。概念そのものにダメージが入った証拠です」
『も……もしかして。あの最終決戦で、魔天戦でマリアベール・フランソワが最後に放った一撃と同じ、ですか!?』
「ああ。マリーさんが探査者人生の最後に放った奥義と同様の効果が、一欠片だけでも発動してたよ。アンジェさんは、あの人がいる領域に微かにでも足を踏み入れたんだな」
俺の言葉を正しく理解できたのは、精霊知能としてあの場面、三界機構は魔天との戦いを見ていたステラだけだろう。
キョトンとするみんなに、軽く説明する。
魔天を、その一刀にて殺しきったマリーさんの最大最後の一撃──《剣術》大断刀奥義グレート・ブリテン。
次元をも超えて概念そのものにダメージを与える、剣技としては間違いなく極限に到達した極みの斬撃。
その影を、たしかにアンジェさんの竜断刀奥義・マリアベールは踏んだのだ。
その証拠に、さっきの最後の一撃で受けたダメージだけウーロゴスの回復が極端に遅い。ミュトスが相手をしている今も、袈裟懸けされて割られた胴体が戻っていないんだ。
これが普通の斬撃ならば、少しのラグはあるとは言えすぐに完治してみせただろう。
概念存在どころか権能でしかないウーロゴスをもってしても再生に幾ばくかの支障をきたすダメージ。
それはまさしく魔天相手にマリーさんが放ったものと同様の斬撃によるものだった。
「アンジェさん。たしかに今はまだ、マリーさんには及ばないかもしれない。けれどあなたの歩みの先には間違いなく、あの人が最後に至った境地があります」
「…………そっかぁ。私ってば、ちゃんとおばあちゃんの背中を追いかけてたのね。探査者として鍛えれば鍛えるほどに遠ざかって見えたあの姿は、今でもちゃんと私を導いてくれていたんだ」
じわりと、滲むように笑う。
尊敬する祖母を目指した道のりの、その先にたしかに望む地点がある。それが分かった今の気持ちはどれほどのものだろうね。
ただ一つ、俺から言えることはある。
アンジェリーナ・フランソワ……彼女は間違いなく祖母を超える。今でなくとも、遠い将来であろうとも、いつか必ず。
祖母に追いつき、祖母を超えて。そして新たな伝説をきっと創り上げてくれるのだ。
そして今度は彼女の背中を追う、たくさんの人達が現れてくれる。
そうやって俺達は……探査者は、人間は成長していくんだ。それを今、ハッキリと実感したよ。
このエピソードが2024年最後の投稿になります。みなさま今年もありがとうございました!
来年も引き続きよろしくお願いしますー
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