炸裂!竜断刀奥義!!
神奈川さんとステラのために、率先してウーロゴスへと斬りかかるアンジェさんとランレイさん。
すでに彼女達を止めるものは何一つ誰一人としていない。地上では未だ乱戦状態なものの、対ウーロゴスにおいては独壇場が形成されつつあった。
「《剣術》竜断刀GRAVITY・シグルドォッ!!」
「双魔星界龍極拳ッ!! ──ちいっ、中にいる者達は傷つけるわけにもいかんか! 《念動力》サイキックハンドウェーブ!!」
《重力制御》を刀に収束させて威力を高めた斬撃で、ウーロゴスを羊羹でも切るようにすっぱり捌くアンジェさん。
その近くではランレイさんがドッペルゲンガーと二人、見事な鋭さの蹴りを放っては同じくウーロゴスの体内を引き裂いていっている。
そうしていると当然、中にいる仮死状態のオペレータも見つかるわけで、そこはランレイさんが自前のスキル《念動力》で空中に固定、取り除いていた。
エリスさんと同じスキルを元々、ランレイさんも持ってるんだよね実は。それでもって人命救助をも行うわけだけど、彼女の負荷が多くなりすぎるな、これでは。
こんな時こそ山形くんの出番だ。スレイブモンスターはすでに消え去ったし、《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》は解除されている。
問題なく手持ち無沙汰な状況で俺は、取り除かれたオペレータをワームホールで地上に運搬した。同時に次元を隔てて開いた穴から、アンジェさんチームに呼びかける。
「アンジェさん、ランレイさん! ウーロゴスの体内にいる連中は外に放りだしてくれれば、俺が地上まで送り届けます!」
「公平!? ……サンキュー、助かる!」
「謝謝!! ならば後顧の憂いなく、全身全霊をもって蹴り裂けるというもの!! 行くぞアンジェ、正念場だ!!」
「分かってるわよランレイ! S級モンスター・ウーロゴス……相手にとって不足はないわ!!」
ウーロゴス周りのサポートは俺が受け持ち、ますます戦闘に専念できるようになった二人が気炎をあげる。
これでこちらは問題ない。後に残るのは神奈川さんだけど、彼は彼で重要な役割を帯びてウーロゴスの頭上に移動していた。はるか上空すぎてもう、俺の肉眼でも微妙に見えなくなってきているほどの高さだ。
そう、そこにいるはずのウーロゴス召喚者を彼は仕留めに行ったんだね。電池役として体内にいる連中同様にミュトスの権能を現世に維持させている者を、倒しに行ったんだ。
こちらも多少、時間がかかるかもしれない。実力的に疑いがあるわけではないけど、それでもアンジェさんランレイさんほどの強さではないのも事実な神奈川さんゆえ、もしかすると手間を食う可能性もあるかもしれないからね。
……だが、俺の予想に反して動きはすぐにあった。
乱戦から少し離れたところでサポートしている、俺と香苗さんのすぐ近くにワームホールが展開され。
そこから神奈川さんが、人間相手に聖剣を振り抜きながら飛び出してきたのが見えたからだ。
「────これでっ! 終わりだァァァッ!!」
「うぐぉおおあああああっ!?」
「神奈川さん! それにステラ!?」
『失礼します山形様! ウーロゴスの召喚者を、お届けに上がりましたっ!!』
精神体のステラが開けたワームホールに、どうやら倒した召喚者ごと駆け抜けてきたみたいだ。切り裂かれたローブ姿の女は、認定式の日に俺も相手した手合と似た格好をしている。
そのまま死なない程度の負傷をして気を失う女はさておき、神奈川さんと寄り添うステラを見る。
二人も大丈夫そうだな……瀬川戦に向けて温存させるという思惑通り、ほとんど消耗していない。パス・オブ・ヘヴンを使ってないんだ。
ウーロゴス内のオペレータも取り除かれきったようで、最後の一人が地上に送られてきた。であればと、香苗さんがウーロゴスを相手している二人に呼びかける。
「聞こえますかアンジェ、ランレイさん! ウーロゴス召喚役、電池役揃ってすべて取り除かれました! 今、あなた方が相手をしているウーロゴスは無力です! 後は使徒ミュトスに任せて離脱してください!」
「了解! ……無力化できても倒せはしないか。聞いてはいたが歯がゆいな、アンジェ」
「…………そうね。でもせっかくだし一発、思いっきり良いのをくれてやることにするわ、私」
「何?」
維持役のオペレータがすべていなくなったことで、目の前のウーロゴスはすでに風前の灯だ。
このままミュトスが来ればすぐに取り込めるし、来なかったとしてもしばらくすれば概念領域の何処かへと還っていく。
つまりは完全に勝負アリ。この世の因果がない存在ゆえ、ミュトス以外ではどうあがいても倒しきれないことにランレイさんが歯噛みするけれど……翻ってアンジェさんは、小さくつぶやいて構えた。
何か、攻撃を仕掛けるつもりだ。なんだ?
「アンジェさん?」
「千尋に温存しろって言った手前、悪いんだけどね……ことをここまで大きく荒らしてくれたコイツに、せめて奥義の一つも叩き込まないと気がすまないのよ。ごめんね勝手なこと言って、これさえできれば後は大人しく動くから、さ」
「…………いえ。アンジェさんのお気の済むままに、お願いします」
「やってしまえ、私の分までな。アンジェ」
「ありがと。やっぱ素敵よ公平、ランレイ」
押し殺したように意志を示すアンジェさんの、深いところにある怒りを感じ取り、俺は静かにうなずく。
いろんな、複雑な色をした怒りだ。一点だけでない、今回の騒動で起きた様々なことに対する憤怒を、今、アンジェさんはウーロゴスに叩き込もうとしている。
瀬川との決着を神奈川さんに委ねる以上、せめてここで思いの丈をぶつけたいんだろう。気持ちが理解できるからこそ、思う存分にしてほしいと言うほかない。
この数ヶ月、サークルと戦い続けたチームのリーダーとしてそのくらいは許されて当然だと思うから、ね。
そうして後押しをする俺やランレイさんに軽く礼をしてくれて、アンジェさんは刀を構えた。正眼の構え。
練り上げられる呼吸、闘気。かつてないエネルギーが彼女の中で渦巻き、そして外に放たれる。
ミュトスがこちらに来るまでもう少し。ゆえに一撃にすべてをかけるだろう、彼女が放つは竜断刀の奥義!
トン、と軽くステップとともに天高く飛んだアンジェさん。合わせてランレイさんがワームホールを潜って俺達の近くにまで避難する。
彼女がこうするほどの威力を秘めた技ということだ……《重力制御》さえフルパワーで込めているだろう刀を振り上げた、A級探査者アンジェリーナ・フランソワの渾身の叫びが響き渡る!
「《剣術》、竜断刀GRAVITY・奥義────マリアベール!!」
ベイオウーフ。
シグルド。
スサノオ。
そして、マリアベール。
世に名だたる竜殺しの名を冠する竜断刀の極み、奥義に付けられていたのは……誰あろう当世随一のドラゴンスレイヤー。
祖母の名を継いだその技とともに、超高威力の刀はアンジェさんごとウーロゴスに突撃し、そして振り下ろされた。
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