決戦!ウーロゴス─黎明時の強襲─
黎明の空、朝日が静かに大地を照らし始める頃。舗装されていない乾いた土地は、もはや大乱が起きる直前とばかりに争いの空気が蔓延している。
辿り着いたその位置は、たしかに市街地からはずいぶん離れた開けた土地で、写真で見た通りにバリケードがコレでもかと設置された掘削現場の様相を呈していた。
そしてそれを囲む探査者のみなさんとおまわりさん。バリケード内外含め、多くのオペレータとモンスターの気配を俺は、読み取っていた。
倶楽部の拠点に攻め入った時もこんなふうにわちゃわちゃしていたな。2ヶ月でもう一度味わうことになるとは思いも寄らなかった光景を前に、仲間達に告げる。
「採石場の地下、間違いなく能力者なりスレイブモンスターなりいるはずですが何一つ感知できません。やはり話にある迷宮ってのはどこか別の次元……概念領域の端っこに存在しているんでしょうね」
「つまりは敵の本丸、私らが目指すべき地点は三途の川だかお花畑かってわけね! まだまだ死ぬつもりはないんだけど、死後の世界を下見するにはちょうど良いかしら?」
採石場地下に広がっているという迷宮。そこにいるスレイブモンスターやプレーローマ・アンドヴァリの気配を何一つ感じ取れないあたり、間違いなくそこは実際には地下になく、概念領域にあると断言できる。
アンジェさんが不敵に笑って、腰に提げた刀を撫でながら茶目っ気めかしたことを言う。たしかに位置的には生死の境目とも言うべき場所だから、ある意味下見と言えば下見なのかな?
言っている間にも互いの戦意、敵意は膨れ上がっていく。味方側、迷宮攻略チームは言わずもがな敵のサークル側もすでに状況がのっぴきならないのは分かっているんだろう。
後は何か一つのきっかけで、いつでも戦闘が始まる。ぴりついた空気、張り詰めた緊張。迫る開戦の時を、静かに固唾を呑んで待つ。
薄暗闇の向こう側。空と大地の境界から陽光がかすかに漏れ出た瞬間。
──バリケードから一気に膨れ上がった気配の質と強さを感知して、即座に俺達は叫んだ。
「ミュトス! ウーロゴスだ、来たぞ!!」
「《イミタティオ・トリニタス・コスモス》ッ!! 魔天さん、私に力をお貸しくださいっ!!」
権能が目に見えて発現する。認定式の日に何体も現れて以来、完全に温存されていたやつらの罪の証、ウーロゴス。
本来ミュトスの下になければならない彼女の権能を、利用し尽くす悪意の召喚スキル。大勢のオペレータを電池替わりに使用する、どこまでも無慈悲かつ非人道的な権能兵器だ。
山のような大きさのそれが、俺達の前に現れる。
それも一体だけでなく立て続けに二体、三体、四、五。ちょっと待て、いくらなんでも多すぎる!
五体ものウーロゴスを一度に出してきた! この時点ですでに、採石場から飛び出されたら止めようがないぞ!?
「に、認定式の時の化物だ!! それも五体も!?」
「いかん、一旦下がれ! 緊急だ、周辺住民の避難は済んでいるな!?」
「それは抜かりなく! し、しかし……こ、この規模では」
「少し動けば、それだけで……市街地に、出られてしまうぞ……!!」
迷宮攻略チーム達の動揺が目に見えて伝わる。いきなりS級モンスター相当の化物が五体も現れたんだ、当たり前の反応だ。
そして動揺させられたのは俺達も同じことだった。現れるウーロゴスを前に、すぐさま対応を強いられる。
「こんなことをいきなりしてくるのか! ここに至るまでこんな数を温存していたんだな、プレーローマ・アンドヴァリ!」
「いきなり全力を投じてきたのか……!? 選抜チームは総力をもってウーロゴスを叩け! 採石場から出るのは止められんがそれでも、絶対に市街地へと向かわせるな!!」
「すでにミュトスが一番外にいるやつをめがけて行った、あっちはアイツにまかせて後はオレ達で相手するぜェ!」
「ミュトスちゃんじゃないとアレにトドメは刺せません! なるべく弱らせて、ラストの一撃は彼女にしてもらってくださいー!!」
システム領域の存在たる俺や精霊知能達をして、仰天せしめる狂気の運用。
ここまでの数、やつらはウーロゴスを温存していた……それ自体はまだ想定できていたけど、このタイミングで一気に使ってくるなんて。
とっさに方針変更を叫んだヴァールと、すでに魔天の力を借り受けて飛び立ったミュトスに倣い、俺達も即座に動き出す。
手つかずのウーロゴス四体に向け、何人かに分かれて殴り込んでいったのだ。ミュトスでなければ倒しきれない性質上、あくまでも弱らせるに留まるがそれならこの面子ならできるはずだ。
「やるわよランレイ、千尋にステラ! デカブツでもタネは割れてんのよ、引き裂いて蹴り倒して中の電池役を取り除く! 召喚役の馬鹿を殴り倒すのも忘れずにね!」
「葵、シャルロットくん! まずはここを切り抜けるよ、今ここでウーロゴスを食い止める!」
「シャーリヒッタと後釜はワタシとともに動け! 残る一体は!」
「俺と香苗さんでやるぞ! 行きましょう!」
「緊急事態です、出し惜しみはしません!」
アンジェさんチームが一体。エリスさん葵さんコンビにシャルロットさんを加えたトリオでもう一体。そして精霊知能三姉妹で一体を相手して、残る一体は俺と香苗さんで受け持つ。
今この場にいる最大戦力をものの見事に分断させられる形になったが、こうでもしないとウーロゴスがすぐに市街地にまで足を伸ばしかねない。
まずはとにかくこの場をどうにかしなければ!
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