S級を師匠に持つS級
走り始めたバスに揺られる道中、決して和やかでない緊張の空気が流れる。いよいよと迫るダンジョン聖教過激派、およびサークル残党との決戦を前なのだからさもありなんだ。
とはいえ張り詰めすぎているものでもない、多少なりともどこからでも雑談の声は聞こえるし、さっきから我らが伝道師さんも気炎を吐いていたりするしね。
俺としても、さすがにバスのなかで今からガチガチに緊張しているつもりもない。
なるようになるさと背もたれに身を預け、さっきからスマホをしきりに確認している隣のヴァールへと声をかけた。
「めずらしいな、そんなスマホに熱中するなんて。ゲームかな、ガチャ引けてる?」
「ん? いや、熱中というよりは事務的なものだよ……スマートフォンは便利なツールだがゲームなどはしていないな、ワタシは。もっぱら業務上のことで使うばかりだ」
「そ、そうなんだ? なんかごめん……」
何やら夢中な様子なのでゲームでもしてるのかな、最高レアリティのキャラでも引いてるのかなとちょっぴり気にしたら、なんとも簡潔に業務一筋な答えが返ってきた。
思うにこの子、若干ワーカーホリック気味な気がして心配になってくる。うまいリフレッシュ法とかないのかな、などとついいらぬ不安を抱きそうになっちゃうよ。
ていうか手にしているスマホ、いかにもゴツくて大きくて相当性能が良いやつだなコレ。めちゃくちゃお高いだろうそれを、仕事でしかろくに使わないってのはなんだかもったいない気もするなあ。
いやまあ、それをどう扱うかは本人さん次第だし。とやかく言う筋合いでもないから言及は控えるけども、もうちょい遊びとかに使っても良いかもね、とは個人的に思うかもだ。
ソシャゲは良いぞ……と、そこはかとなく同じ沼に落ちなよと邪な視線を送っていると、ヴァールは首を傾げつつも応じた。
スマホの画面、時計だけが表示されたホーム画面を見せながら語ったのだ。
「ソフィアが手配した、対AMWにおける助っ人……S級探査者ロナルド・エミールについてのやり取りを、他ならぬ本人とな。すでに日本にはいるのだが、合流するまでは多少なりとも時間はかかるようだ」
「エミールさん……! もう日本に滞在中なんだな、戦いに参加してくださるんだからそりゃそうなんだけど。合流って、別途バスなりタクシーなりで来るのか」
「いや、愛知九葉を遣いに出している。我々の宿泊しているホテルからはかなり離れた、空港近くのホテルに泊まっているからな。その分ラグがあるようだ」
先日からちょくちょく話題に挙がっていて、いよいよ今日には参戦してくれる予定らしいS級探査者のロナルド・エミールさん。
位置関係の都合から合流するのはちょっと時間がずれ込むみたいだけれど、すでに動き始めてるってんだからテンション上がるよね。何人目かにもなるS級……しかもあのベナウィさんも認める、彼らの世代の顔だという名探査者さんを見られるんだもの。
そしてそのエミールさんを迎えに行っているのが、同じくS級の愛知さんらしい。そう言えば朝から見かけてないな、あの人の姿。
タイミング次第だけど、決戦の直前か只中には合流できそうだな。首都高速神話生物ジョッキーだもの、問題なくエミールさんを連れて現場まで到着してくれるだろう。
そのへんの話を耳にしていると、第七次モンスターハザードからの知り合いらしいヴァールに加え、エリスさんやマリーさんも話を聞いていたようでにわかに反応を示した。
この人達からしても旧知の仲の方なんだ、当然だね。
「ロナルドくんかあ。去年の暮れの百年祭の時に会いましたけど、共闘となると25年ぶりですねハッハッハー」
「この局面でロナ坊と来たかえ! わざわざ太平洋からご苦労というべきか、あの子まで呼ばないといけない敵連中に見事というべきか、だねえ」
「うむ……何よりやはり本人としては、かつての愛銃をテロ組織に使われているのが我慢ならんようだ。連絡するや否や一も二もなく動き出したとのことだ」
どうやら去年にもお会いしてるんだね、この三人はエミールさんと。百年祭……世界中で行われた、大ダンジョン時代100周年記念祭のことだろう。
もちろん日本でも結構デカデカと式典やらお祭りやら催していたみたいなんだけど、まあ結局のところ探査業界を中心に政界やら財界などの上流階級のみなさまが主導のイベントではあったしね。
はっきり言ってパンピーからしてみれば、ワイドショーの話題が一つ増えたくらいのものでしかなかった。
そんな百年祭に、しかも統括理事や特別理事の友人知人として参加していたんだろうエミールさんは、今回の件で敵の手に渡っているマキシムとミレニアムを取り返すつもり満々みたいだ。
かつての相棒を取り戻す、なんて意気込みに燃えているのかな。
「"アイオーン"ロナルド・エミール……現代大ダンジョン時代においてもマリーさんやサウダーデさん、ベナウィさんにも匹敵するS級トップ層の一人ですね。同時に彼は、あのアラン・エルミードの弟子でもあると聞きます」
「"ハザードカウンター"、アラン・エルミード! 大ダンジョン時代史上最高の探査者として知られる、英雄の中の英雄! そんな方の弟子なんだよね、かのエミールさんは」
「……S級を師匠に持つ、S級。どのような方か、多少は気になります」
香苗さんやセーデルグレンさんがエミールさんについて軽く触れるものの、その時点でもう肩書がとんでもなくて震えそう。
大ダンジョン時代史上最高とまで呼ばれる探査者がいて、そのお弟子さんらしい。しかもその実力たるや、アイオーンとか二つ名がついていて、あのサウダーデさんやベナウィさんにも匹敵する、と。
怖ぁ……
ここに来てまた、えらいチート探査者が来そうだ。味方としての参戦で心から良かったと思うよ。
力強い助っ人さんに想いを馳せて、バスは俺達を乗せたままさらに軽快に首都圏の郊外へと向けて走っていくのだった。
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