天覇!カンフー美少女
しばらく街を走り、俺たちは件のホテルに到着した。
大きい。ツアーの時に泊まったところ以上だ……しかもなんか、めっちゃホテルマンとか整列して出迎えてくれる。
ロビー、こちらもびっくりするほど大きい。俺の家の何倍だ? いやさ、何十倍?
思わず圧倒されかける俺だったが、瞬時に思考を切り替えた。称号効果であるところの、スキル保持者感知が引っかかりを覚えたのだ。
それも複数、かなりの数だ。見てみると黒服に身を包んだサングラス姿で、何かSPっぽく配置されている。何だ?
「……? スキル持ち、多いですねこのホテル。それに護衛みたいで、誰かVIP的な人がいるんですか?」
「ふふ、そうですね。さすがは公平くん、たやすく彼らに気付きますか」
やたら嬉しそうにする香苗さん。あ、ちょっと。俺の手握らないですごい。柔らかぁ……
チェックインの受付をしてから少し、支配人らしい壮年のおじさんがやって来た。香苗さんと知り合いなのか、下にも置かない態度で接してくる。
「御堂様、ようこそおいでくださいました。一週間の滞在中、私ども総出でご対応させていただきましょう」
「こちらに世話になるのも何度目でしょうね、支配人。こちらはお話ししておりました、山形公平様です。揃って世話になります」
「や、山形です。よろしくお願いします」
さすがは有名探査者、こういうところでも凛とした佇まいで見惚れかける。けれど俺も、新米だけど香苗さんに並び立ちたいくらいのプライドはある。
冷静に、おのぼりさんに見られないように礼儀正しく挨拶する。おじさんは心得ているばかりに微笑み、頷いてきた。
「WSO日本支部局様、ならびに全日本ダンジョン探査者組合協会様より連名でお話を伺っております、山形様。本日お会いできて、まことに光栄の至りでございます」
「えっ」
聞いてない、なにそれ。
香苗さんを見ると、なぜだかドヤ顔だ。
「WSOと全探組には、泊まるホテルについて知らせてあります。さっきSPに気づいたでしょう? ふふ……あなたが護衛対象です。さあ来いと呼びつけるだけ、なんて向こうもしませんしさせませんよ、私が」
「ええ……? 俺がぁ?」
いきなりそんなこと言われても……ていうか烏丸さんも荒川さんも、だいぶ話を大袈裟にしてきたなあ。
俺としちゃ正直、極秘に話をするくらいの感じだろうなと思っていたんだ。だってアドミニストレータ云々なんて、どう考えても裏側の話であって表舞台で堂々とやる話じゃないし。
それを、VIP扱い? やたらいるスキル持ちのSPって、俺の護衛ってこと?
静かに混乱する俺に、香苗さんが優しく言う。
「あのSPたちはWSO専属の、対スキルテロリズム訓練を受けた者たちです。ダンジョン探査よりスキル保持者を相手取る方が得意という、何とも特殊な鍛えられ方をしています」
「は、はあ」
「WSOの統括理事が絡んでいる、というのもあるのでしょうが。公平くんに護衛するだけの価値があると、両組織が認めたということでもあります」
「い、いやいやまさかそんな」
「これはあまりに意義深いことです……! 公平くんという、この世の救世主をっ。WSOという国際機関が少なくとも、トップを会談させる価値のある存在だとみとめたのですからっ!」
あれ? 話していて、香苗さんの瞳が段々と怪しい光を帯びてきた。語気も何だか、荒くなってきているし。
これやばくないか。こんな立派なホテルのロビーで、香苗さんまさかやらかすのか?
「ちょ、ちょっと香苗さん、落ち着きません?」
「救世の光にとって大いなる一歩です! あのWSOさえ認めた救世主山形公平! これは配信の方でも盛大に取り上げますし、教団の宣伝広告に大いに役立ちましょう! 教徒が……信仰が、広まっていく……!!」
「香苗さーん!?」
「チャンネル外でもそんなテンションなんですねえ」
「支配人さん!?」
あなたもアレ見てるんですか!?
ヒートアップする香苗さんに対して、何とも呑気というか、冷静な支配人さん。オロオロするだけの俺。
何だこの空間は……
思わず頭を抱える俺に、横合いから声がかけられた。
「…………大丈夫?」
「え?」
「頭痛? 病院、行く?」
幼い声にそちらを振り向く。えらい美少女がそこにはいた。
チャイナ服──際どいスリットの下にはもちろん、ズボンを履いている。俺と同年代か、少し下くらいかな。
中華系の女の子だ。長い黒髪を後ろにまとめ、団子にしている。そして、たどたどしいけどしっかりした日本語で、俺を心配してくれていた。
慌てて返事する。
「あ、ああいや、大丈夫だよ。ありがとう」
「ん……元気、良かった。にへ」
か……かわいい!!
何だこの子、天使かよ! 無邪気で無垢な笑みに、ひどく癒やされる。
ていうかこの子、スキル保持者感知に引っかかってる。つまりは探査者か。
美少女で探査者で良い子。天よ、どんどん与えていいぞ。この子はそのくらい良い子だ。
「わたし……あなたの、山形公平さんの、案内役」
「え。き、君が?!」
「うん。名前、シェン・フェイリン。リンって、呼んでほしい」
彼女、リンちゃんはそう言って微笑んだ。
「決戦スキル継承予定……並びに流派・星界拳正当継承者。天覇のシェン・フェイリン、です。ニーハオ」
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間3位、週間3位、月間2位、四半期1位
総合月間12位、四半期13位
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