山形公平はすべて終わらせた組と未来を生きていく組、両方の性質を持つ
「私らと同年代で、しかも同じ能力者犯罪捜査官……実力だってあんた自身は謙遜してるけどちゃんとA級だし、私らより年季入ってるから経験豊富! いやー葵、あんたみたいな探査者と縁が結べたのは私的にもラッキーだったわ!」
「はっはっはー! それを言うならこっちのセリフですよ、今をときめく捜査官コンビ、アンジェリーナさんとランレイさんのお噂はかねがね伺ってましたからねー」
にこやかにテンション高く話す、アンジェさんと葵さん。お互い能力者犯罪捜査官同士ということで結構意識し合っていたみたいで、和やかムードで友情を育んでいる。
なんていうか、びっくりするほど明るく眩しい陽の者二人だ。もう夜明けかと思って目が眩みそうになったよ。怖ぁ……
側にいるランレイさんも俺同様、ぴぃぴぃ鳴きながら目を覆って眩しそうにしているし。ほとんど初対面だろう捜査官トリオの、やり取りをヴァールやエリスさんと並んでひっそりと眺める。
彼女達三人、それそのものは今回の件が初対面だろうけれど。彼女達それぞれにまつわる人々は、古くからの付き合いがあるのだ。
アンジェさんも意識しているようで、感慨深そうに話す。
「なんならランレイまで含め、血縁や師匠同士に繋がりがあるじゃない。幻のS級にして伝説の捜査官、存在だけがまことしやかに囁かれていたエリス・モリガナさんのことはお婆ちゃんからたまーにだけど、話聞いていたわ」
「わ、私も……あの、一族の伝承で、二代目里長シェン・ラウエン様がダンジョン聖教初代聖女とともに戦ったって、聞いていはいた、かな……うううう差し出口はさんでごめんなさい眩くて目が見えないぃぃぃ」
「師匠からはマリアベールさんのお話をよく聞いてました! シェン・ラウエンさんについては……ええと、お爺ちゃんの光太郎が生前、第三次モンスターハザードの時にものすごい蹴りを放つ中華系の先輩探査者がいたって思い出話をしてました。たぶんその方のことでしょうね! はっはっはー、奇縁ですねー!」
アンジェさんのお婆さん、マリアベール・フランソワさん。
ランレイさんの一族の二代目里長、シェン・ラウエンさん。
そして葵さんの祖父の早瀬光太郎さんと、師匠のエリス・モリガナさん。
これら四人の縁者は互いに、過去に起きたモンスターハザードを通じてともに戦い絆結んだ、戦友だってことはすでに俺も聞かされている。
ていうか、そのいずれもにソフィアさんとヴァールが絡んでいるからね。エリスさんも同様に当時を知る方だし、今まさに時代を超えた縁が集っている構図になる。
ホテルのフロント、煌びやかな灯りに照らされた深夜3時前。探査者達がぼちぼち集まってはホテル前のバスに乗り込んでいくのをなんとなし見ながらも……まさしく大ダンジョン時代の生き字引たる彼女達もまた、感心しきりに若人三人を見守っていた。
「壮観な顔ぶれですねえ、ヴァールさん……マリーのお孫さん、ラウエンさんの里の末裔」
「そして早瀬光太郎の孫娘にしてお前の弟子、か。フェイリンも含め、時代の流れというものをどうにも意識する。500年の悲願を成し遂げた後であるから、なおのこと」
「そこまでではないですけど、私も似たような思いです。"あの頃"から始まったものが、連綿と続いてきて今、名残を継いだ人達へと繋がっている。ハッハッハー、お互い年を取りましたねえ」
「ふっ……そうかもしれんな。マリアベールにも言って聞かせてやりたい言葉だが」
どこか遠いところを見る眼差し。きっとこれまで辿ってきたもの、過去を幻視しながら話しているだろう二人の声色は、あまりにも温かくて優しい。
ここに至るまでに様々な艱難辛苦をそれぞれ経てきた。邪悪なる思念を倒すための決死の現世介入と、望まず得た不老体質に振り回されながらの旅路と。
当然ながら苦しいことのほうが多い道のりだったろう。
けれどその果てに、彼女達にはこんな光景が──かつての仲間達の末裔が集い、友誼を結ぶ瞬間が待っていてくれた。
間違いなくそれは救いであり、報いだ。いよいよ差し迫る決戦の前に、彼女達は改めて自分達のやってきたことの結実を目の当たりにしているのだと思う。
「…………これからは、彼女達のような若い力が世界を、時代を牽引していく。ワタシやソフィアのような特殊個体による独占的な体制ではなく、多くの者達がより積極的に参画し、運営していくネクストジェネレーションが始まるはずだ」
「葵達だけでなく香苗さんやフェイリンさんのように、かつてなく実力派の若手が台頭してきていますからね」
「うむ。まあ、筆頭は間違いなくそちらの方。今ワタシ達を妙に優しい目で見てきている方だろう。まるで他人事のようだが、どう考えても時代の中心だからな、山形公平は」
「えぇ……?」
急に刺すやん。さっきまで思い出話してたのがなんでいきなり俺に振るんだよ。他人事だよはっきり言って、俺だってぜんぶ終わらせた組なんだぞう。
唐突な話に目を白黒させる俺に、クスクス笑って微笑む見た目は美少女、中身は超大御所のお二人さん。なんだかからかわれているような、変に照れくさい心地を覚えて俺は頬をかいた。
そんなやり取りをしながらもホテルの入口前、用意されている大型バスへと向かう。すでに大方の探査者は揃っているみたいだ、他のみなさんもきっといるだろう。
アンジェさんにランレイさん、そして葵さんの有望若手三人娘もこちらに気づいて手を振りながら。俺達はそして、決戦に向けて動き始めた。
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