大都会狂想曲
高速道路を軽快に走りながら、他愛もない話をして。
時折大きなサービスエリアで休憩がてら、美味しそうなものを買って食べる。
俺と香苗さんの、首都への道のりは概ねそんなもので、言ってしまえば気軽な旅行そのものだった。
「香苗さん、お弟子さんとか取らないんですか?」
「私がですか?」
「はい。望月さんにとっての逢坂さんみたいな。結構あるんですよね、そういう関係」
「まあ……無くはないですが……」
サービスエリアで買った、玉こんにゃくを頬張りがてらの会話。以前から気になっていたことなんだけど、香苗さんはその実績や立場にも関わらず、弟子らしいものを一人も取ったことがない。
精々が俺や関口くんにしていたみたいな、新規探査者への教育とか指導くらいのものなのだそうだ。
年齢問わず、探査者歴が5年くらいを過ぎてくると、そこそこの人が弟子を取ろうとするらしい。
別に義務じゃないし、組合的にも何の言及もしてないんだけど……それこそ昔からなんとな~くで続いている、一種の慣例みたいなものなんだとか。
ベテランで教育上手な探査者なんか、名伯楽扱いでセミナーとか講座も開いている。
もちろん実際のところはピンキリなんだけど、あのマリーさんも世界各地にお弟子さんがたくさんいて、通信講座をしてもいるらしい。
それを踏まえると香苗さんは、弟子とか取らないのかなーって思うのだ。
何か理由があってのものなのか、差し障りなければと問うたところ、いまいち煮えきらなくとも答えは返ってきた。
「その……別に弟子を取るのが嫌、というわけではないのですが」
「あ、一応そうなんですね」
「ええ、まあ。私だって師匠がいるにはいますから」
そうなんだ。何というか、意外なようなそうでないような。
この人、一人で勝手に強くなったイメージもあるんだよね。何ていうか天才肌というか。あのマリーさんも、そういうイメージはあったみたいだし。
「ですが今は、弟子より信徒です……え、あれ?」
「どうしました?」
「……伝道師の弟子であれば、これはむしろ取るべきでは? 救世主山形公平様の偉大なる光明神話をより良くより早くより正確に伝えるためには、使徒望月のような幹部を多く、育成するべきなのでは!!」
「おかしいですよ香苗さん!?」
探査者としての師弟関係の話をしているのに、どうしてそうなる!
油断するとすぐアッチの方向に話が向かう、香苗さんに俺はもう、何も言えなかった。ああでも、運転しながら突如興奮するのは止めてください。怖いです。
そんなこんなでさらに数時間、もうそろそろ昼時って頃かな?
俺たちは首都圏に到達した。高速道路もかなり混んでて、渋滞こそしてないけど交通量は多い。
今日はWSOに直接出向きはせず、香苗さんが予約してくれたホテルに到着したら、ゆっくり過ごすと決めている。会談場所のWSO日本支部のある場所からさほど離れていない、一等地のホテルだ。
せっかく初めての上京だというので、とウキウキの香苗さんに押された形だ。母ちゃんは申し訳ないと彼女に頭を下げていたけど、俺としてはすごく楽しみだ。
高速を降りる。さすがこの国一番の都市だけあって、整備された町並み。ていうか人が多い! ツアーの時に見た、隣県の繁華街も大概だったけど、こちらは輪をかけている。
「まあ、基本的に車で町中を移動するのはオススメしませんね……泊まるホテルは駅も近いですから。徒歩と公共交通機関での移動が無難でしょうね」
「ですよねー。しかし、すごいなあ」
「最後に私がこの辺に来たのは、たしか2年前でしたか……変化に激しい街と聞きますが、この人の多さは半永久的に変わらなさそうです」
うんざりしたような顔で、赤信号にて停車する香苗さん。目の前の横断歩道一つ取っても、行き交う人の数が尋常ではない。
下手するとうちの県で見る光景の、10倍くらい規模あるんじゃないかな。歩く速度もみんな、やけに早い気がするし。忙しそうだ。日曜なのに。
これが都会か〜。何もかもが初めて見るもんだから、もうこの時点で圧倒されている。
隣でクスクスと香苗さんが笑った。おのぼりさんすぎたか……と頬を熱くして口を噤む。
青になった信号。走り出す車と共に、彼女は愉快げに言った。
「すみません。ですが、公平くんのそういう姿が、私にはとてもかわいくて」
「子どもっぽくて恐縮ですね。いや、子どもなんですけど」
「良いことですよ。ただでさえ公平くんはどこか、子どもらしからぬところがおありですから。はしゃいでくれると、私としても嬉しいんです」
はて、言うほど子どもらしくないだろうか、俺?
基本的に元気いっぱい、産地直送チャイルド山形のつもりなんだけど。
「自分では、子どものつもりなんですけど……」
「もちろんそうですね。でも、あなたは本当に救世主らしい、慈愛の心ばかりを私に見せてくれるものですから。尊くもあり、時折心配にもなります」
「心配?」
「いつか、他の誰にも到達できないところに、あなたは一人ぼっちで到達してしまうのではないか、と。そんな、寂しさをたまに感じるんです」
変な話ですよね。
そういう香苗さんの、笑顔はどこか悲しそうだった。
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