いざゆかん、大都会へ
翌週の月曜、昼。
ご飯時に、俺が来週中ずーっと関東に出ずっぱりなことを伝えると、友人たちからは盛大に羨ましがられてしまった。
「マジかよ、良いなあ!」
「土産はあのなんか、バナナっぽいのでよろしく!」
「テーマパークの年間パスおねが〜い」
「バナナっぽいのはともかく年間パスは無理!」
とりあえず土産を要求してくるのが何とも。というかテーマパークの年間パスって、そんなものは土産のレベルじゃないだろ!
一方でやたら、心配してくる人もいる。言うに及ばずかも知れないが、俺のことになるとやたら心配性になるきらいのある、梨沙さんだ。
「御堂さんが一緒だから、大丈夫だと思うけど……変なセールスとかオッサンとか、誘われたからってついてっちゃダメだかんね、公平くん」
「5歳児かな? さすがにそういうのに引っかかりはしないよ」
「どうかな〜……妙に子どもっぽいトコあるっしょ、公平くん。おっさんじゃなくても美人に飴玉渡されたらついていきそう」
どんなイメージだよ、梨沙さんの中の俺。というか彼女がなんだかお母さんみたいに見えてきた。これが……バブみ……?
さておき、どうにかみんなを宥めすかせる。土産はクラスみんなに向けても買うし、変な人にはついていかない。美人のおねーさんからお茶を誘われても、うん、俺が反応するより先に香苗さんが応対しそうだ。
「そんなわけだからさ、来週はちょっといないけど、よろしく頼むよ」
「オッケ任しとき、ノートは取っとくから」
「何かあったら電話しろよー」
「寂しいからって御堂さんに甘えるなよなー」
「するかそんなこと!」
香苗さんは頼れる人だけど、母性的なものを感じたことは実のところ、あんまりない。
出会った時点で既に狂信者の様相だったため、バブみどころか厄みを感じていたんだ。甘えたいより怖い的な意味でオギャりかけたのは、まあそうね。
とまあ、クラスメイトたちにはこんな感じで快く送り出してもらったわけだ。持つべきものは友、名言ですね。
ちなみに意外だが、関口くんにも気を付けろよって言ってもらえた。助けてから名前を間違えられることもなくなったし、やっぱり関係性は改善していると思う。
かくして、俺は着々と首都に向かう準備をしていたわけだった。
そして、その週の日曜日の朝早く。俺と香苗さんは一路、関東に向けて出立しようとしていた。
「母ちゃん、倅が、倅が旅立つぜぇ……!」
「一週間ぽっち関東に行くだけで、大げさねえ」
家の前、車で迎えに来た香苗さんと並ぶ俺と向き合い、父ちゃんが咽び泣く……フリをしている。
母ちゃんがそれに呆れ返りつつも、俺に向けて言った。
「何か偉い人に呼ばれてるんなら、粗相の無いようにしなさいよ。あと、御堂さんにご迷惑をおかけしないこと」
「分かってる、分かってるって」
「御堂さん、すみませんねこんなボンクラ息子がご無理をお願いしてしまって。どうかうちの子を、よろしくお願いいたします」
「お任せください、御母堂様」
俺ってそんなにヤンチャなはずじゃないんだけど、やたらと振る舞いについて心配されている。なんで?
ともかく、俺がやらかさないようにと頼み込む母ちゃん。それに対して、香苗さんは自信満々に胸を張って答えた。
「御子息……公平くんは私が責任を持ってお世話いたします。決して悪いようにはいたしません」
「お世話ってか! かぁ〜公平お前、幸せもんだなぁ、こんな美女に世話されるって、えぇ!? 羨ましすぎるだいててててててて」
「いつもいつも世話してやってんでしょうが私がァ!!」
「いらんこと言うくらいなら黙って咽び泣いとけよ!」
余計な茶々を入れたばかりに案の定、お母様に痛い目に遭わされている父ちゃん。香苗さん相手に変なこと言うなよ頼むから。
ふと、妹の優子ちゃんを見る。さっきから静かなんだが、どことなく不安げに俺を見ている。
もしかして、もしかすると……
「優子。また俺が入院とかしないかって、心配してくれてる?」
「ううん。今度は死ぬんじゃないかって心配してる」
「死ぬの!?」
大変な恐れを抱いていらっしゃる。うちの妹ちゃんはどうしてしまったんだろう。
いや、まあ。考えてみれば俺、探査者になってからああいう、怪我でないにしろ倒れて病院送りなんてこと、したことなかったもんな。
身内が入院している姿を目の当たりにして、もしかしたら優子ちゃんは、探査者が命がけの仕事なんだっていう認識をようやく得たのかもしれなかった。
兄貴のことでも実感なんか、湧きづらいものなぁ。
俺はそっと、妹の頭を撫でた。
「死なないよ。いざとなったら逃げるから」
「そうだよ、逃げてきなよ? 兄ちゃん死んだら、嫌」
「……ありがとな」
こんなにストレートに言ってくれるんだ。死ねるわけがない。っていうか死ぬような用事に今のところ、出くわすつもりがない。
何なの、予知夢かなんか見たの? 怖ぁ……
そこはかとなく不吉なことを言ってくれた妹ちゃんには、何か美味しいものでも土産にしてあげよう。
そんな思いで俺は、香苗さんの車に乗り込んだ。
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