──そして限りない星空よ、流星のごとく降り注げ
魔導系、魔法系スキルによって顕現する現象は基本、人それぞれによって異なる。
香苗さんの虹。葵さんの雷、サウダーデさんの全身を包む炎。あるいはランレイさんのように、己の分身めいた影をも生み出す人もいる。
これって言うのはスキルの仕様上、その使用者ごとの心象つまりは心の在りようを投影しているからだ。
具体的な意味は見る人の解釈次第に委ねるとして、各人それぞれが持つ精神性、本質を色濃く映し出すがゆえに現れる現象なわけだね。
だから本来、そうしたスキルでの現象がガラリと変わる、なんてことは滅多にないことだ。その人の在り方が根底から変わるレベルの出来事があってようやくってところだろうか。
……それゆえに目の前で起きた事象は、まさしく滅多にないレアなケースだと言えた。
「と、鳥籠が砕けた！？ 何これ、大丈夫なのあの子！？」
「は、破片が飛び回ってシャ、シャルちゃんの周囲を飛び交ってるよ……！？ こ、これって一体」
「だが嫌な感じはしないぜ。シャルロットを護るように、衛星みたく漂ってるみたいだし」
「魔導系スキルの発動で起きた現象に、さらに先があるのか……！？ そんな話は聞いたこともない！」
後方から成り行きを見ていた仲間達の、困惑の声が上がる。
無理もない、俺だって驚いてるよ。まさか心象風景をも変化させるほどの影響がシャルロットさんに起きているなんて。
それだけアレクサンドラの呪縛はこれまで強く彼女を縛り、そして解放されたことによる反動がすさまじいということか。
鳥籠。一度入れば外部から開かれるまで出ることのできない、閉塞した空間。望んで入ったのでなければきっと、牢獄にも似るソレ。
そんなものが心象風景として顕現していたこれまでの彼女の心持ちとは、すなわちそういうことなのだろう。アレクサンドラによって歪められ、すべてを摘み取られ。余命さえ削られてやりたい放題されて閉じ込められてきた人生。その象徴が鳥籠だったんだ。
だけど今、シャルロットさんはそうした枷から逃れた。身体の傷を、余命ごと復活させたことで……もはやありえないと思っていた希望が、夢が、未来が再び目の前に現れたんだ。
鳥籠を砕くだけの、自由を手にするだけの衝撃はあったはずだ。それこそ彼女の内面をも変えてしまうほどに。
ゆえにプリズンブレイカー。ゆえにオールフリーダム。
折られた翼を取り戻した鳥が、今こそ鳥籠を壊してすべての自由を精一杯に受け止める時が来たんだ！
煌めく鳥籠の破片が、シャルロットさんの周りを飛び交う無数の星になる。
その威容たるや、相対するモンスター達をも思わず後退させるほどだ。
「ぐぎぇぎぇがごががががが！？」
「……私はもう、鳥籠にはいない。どこまでも広がる空に飛び出た、ただのシャルロット。鼓動一つを頼りに風に乗る、自由を知ったシャルロット」
つぶやきながら前に出る。シャルロットさんの声は、驚くほどに透き通っていた。
虚無でなく、虚空。怒りと憎しみも、殺意もすべてを内包してなおそれらを通り抜けた先にある、無我の境地。精神的解放。
間違いなく、壁を越えた証だ。探査者としての実力以上にこの人は、人間としてあまりにも大きな壁を超えた。
どれだけの艱難辛苦だったろう。きっと、俺が想像するよりもずっとずっと辛く苦しい日々を送ってきた果てに辿り着いた今。ある種の超人めいた境地に達するのも当然のことかも知れない。
七代目聖女として十分すぎるほどの威容。もはやS級探査者にも匹敵するほどの力をもって。
彼女はそして、己の腕をモンスターへと差し向けた。
「鳥籠の欠片よ、星となりなさい。胸の鼓動が高鳴る限り、私の翼はもう誰にも折れない」
「シャルロット・モリガナさん……！」
「そしてこの力で、必ずやアレクサンドラを止めます──降り注げ！！ スターライトリバティ・ミーティアサジタリウス！！」
新たなる境地に至りしシャルロットさんの技。輝ける星々が彼女の意志に従い、流星のごとく敵へと突き抜ける。
ざっと100ある輝きのうち、80が部屋内を縦横無尽に降り注いで爆撃する。凄まじい轟音、ド派手な範囲攻撃！
自身にさえ届き得る危険な技だが、そこはさすがに考えている。待機させている残り20の輝きでもって自身の周囲にバリアを展開。
彼女はそうして無差別大破壊の中、一人自由に佇んでいた。怖ぁ……思わず口にする。
「や、やりたい放題……」
「全身の傷が治って、パワーアップも果たしたとは聞いていたけどこれおかしくないかしら……！？ いくらなんでも強すぎでしょ、香苗ばりにドカドカやるじゃないの！」
「こ、これがシャルちゃんの真の力。ほ、本気を出せなかっただけなんだ、今までは」
アンジェさんやランレイさんも唖然として、轟音と閃光に塗れる部屋の中をおっかなびっくり覗き込む。
信じがたいだろうな、これまでA級下位からB級上位くらいだったシャルロットさんが、怪我の完治とかって言っていきなりS級の下位くらいには躍り出たんだもの。
それだけこれまでデバフを食らってたってのもあるけど、この二人からしてみれば釈然としないものはあるかも知れない。
でも、言ってこの人達も全力だったらシャルロットさんに負けてないからなあ。
レベルやスキルの習熟度の関係でまだA級トップランカーくらいだけれど、総合的な実力面ではS級昇級も時間の問題だし。
……そう考えるとこのパーティやばいな！ 将来間違いなくS級トップ層に食い込めそうな人達だらけだ！
今のうちにサインもらっちゃおうかなと一瞬考えつつも、部屋の中を眺める俺ちゃんでした。
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