復讐を超えて、未来のダンジョン聖教のために
姿は変わらずとも、放つエネルギーはまさしく見違えるようだった……あらゆる軛から解き放たれたシャルロットさんを見て、この場にいる誰もが驚いていた。
本人の感覚的にもこれまでの倍以上に思えているようで、実際さすがにそこまではいかないものの、出力的には1.5倍くらいにはなっていてもおかしくはない。
ぶっちゃけ、あの香苗さんにも匹敵しているかもしれない。すなわちシャルロットさんは一気に、S級探査者クラスの実力を発揮するようになったんだ。
それに誰よりも自覚的でかつ、信じがたいと思っているのは他ならぬ御当人だろう。呆然とした顔で、涙に濡れつつも自分の両手を見つめている。
「こ……こんな力が、私に。これが、傷が完治した状態?」
「凄まじいな……! ボロボロの体でなおもA級に至っていたのだから、こうなるのもおかしくはないが。エリスの血縁なだけはあって、探査者としての素質は莫大なものだということなのだろうな」
「は、ハッハッハー。お、驚いたよ。傷が治っただけでここまでのことになるなんて」
「それだけ、アレクサンドラはシャルロット様を痛めつけていたということなのですね……お労しや、お労しや……!!」
「怖ぁ……」
ヴァールやエリスさんさえもが驚きに浸る中、神谷さんが相変わらずプレーローマ・アンドヴァリへの怒りを露わにしているのが怖い。ホント怖い。
でも仕方ないとも思うよ。俺も今回ばかりはあの女、本気で赦せないし。
あの女の現状や来歴に同情し憐憫する心はもちろんある。
火野の娘として生まれ、母によって委員会への道と復讐を定め付けられた過去は、そしてその果てにプレーローマ・アンドヴァリに成り果てた現在は痛ましくもおぞましいものだ。
やつが完全にヒトでなくなってしまう前に、必ずウーロゴスを剥がしたいと思っているよ。ミュトスのためでもあるし、何よりアレクサンドラ自身のためにも。
でも。だけど……それとはまた別にやつがシャルロットさんをここまで追い詰めたことは事実であって、そこのところが俺には絶対に許せなかった。
どんなに辛く苦しい道を歩んだとしても、だから他者を踏み躙って良い理由になんて絶対になりはしないんだ。夢や野心、あるいは親からの遺志によるものであっても、そのために自分勝手に無垢な命を脅かした行為を俺は断じて認めるつもりはない。
だから捕まえる。人間としての火野アレクサンドラを必ず打倒し、法の裁きでもって己の罪科を自覚させ贖罪を促したい。
そしてその果てに、どうかやつが改心してくれることを願いたいから。だから、俺はやつを止めるんだ。
とはいえ神谷さんはちょっと怒りすぎで、これはこれであんまりよろしくない気もするぞ。
まあまあ落ち着いてともう一発輝くしかないかと身構えるところ、シャルロットさんが俺のほうに近づいてきた。
どしたの?
「シャルロットさん?」
「……ありがとうございます、山形さん。リーベさんに、統括理事も。何がどうなったのか正直理解が追いついてはいませんが、私は……私の体に、奇跡が起きたのだと理解しています。あなた方が起こしてくださった、奇跡なのですね」
「あ、いえ。その、奇跡といいますかスキルと言いますか」
「あなたがなぜ、救世主と呼ばれているのか。統括理事や特別理事、初代様や五代目様から厚く信頼されているのか。ようやく私にも分かりました」
めちゃくちゃ神妙に感謝してくる。これまでにないほどに柔らかく、優しく温和な表情でだ。
張り詰めていたものが緩んだ、完全に素の少女の顔つき。今までは絶え間なく走る苦痛や余命のこと、何よりアレクサンドラへの憎悪と殺意もあってこんなふうにはなれなかったのだろうと思うと、ここでこの人を救えて本当に良かったと心から思える。
そんな優しげな彼女はひとしきり俺やリーベ、ヴァールに感謝を伝えたかと思うと、すぐに真顔に戻って俺に手を差し出してきた。
握手を求めているんだ……七代目聖女らしい、厳粛たる威厳を見せつつも告げてくる。
「散々ご迷惑をおかけしておいて、それでも恥知らずを承知でお願いします。どうかアレクサンドラ討伐のため、私どもにその奇跡のお力でもって我々にご助力くださいませんか。もはやあの女を殺すとは言いません。ただ、どうしてもやつを捕らえなければならない事情がこちらにもあります」
「《聖女》の称号。アレクサンドラが保持したままの、それを引き継ぎたいんですね」
「はい。私怨よりも果たすべき使命……この出来損ないの私が、それでも次代にダンジョン聖教を繋いでいくためにも、プレーローマ・アンドヴァリを倒さなくてはならないのです。けれどそれを為すには、私一人ではきっと力が足りない」
ダンジョン聖教七代目聖女としての、それは正式な同盟の打診だった。
殺すためではなく捕らえるため。復讐のためでなく大義のため、ダンジョン聖教の未来のため。やつが持ち逃げした称号を取り戻し、今こそ自身が真に聖女となる、と。
自らをどうしても出来損ないなどと言ってしまう哀しいこの人は、それでも自分の後に続く者達を想ってプレーローマ・アンドヴァリを止めようとしているんだ。
シャルロット・モリガナという少女の気高さ、そして誇り高さと敬虔さ──心から感服しつつも、俺はその握手に応じた。
「あなたは出来損ないなんかじゃない、立派な聖女です。少なくとも俺は、あなた方に協力しますよ。ヴァール、どうする?」
「問われるまでもない。元より敵は同一なのだから対立する必要などなかったのだからな……シャルロット。今までよく、たった一人で孤独に戦ってきた。もう大丈夫だ、君は一人ではない」
「ハッハッハー! そうだよシャルロットくん、みんなで一緒にアレクサンドラと戦おう!」
「統括理事……初代様。ありがとうございます……っ!!」
ヴァール、エリスさんも続いて賛同してくれる。ここに来てついに、ダンジョン聖教とWSOが共闘することになったんだ。
これでなんの憂いもない。真っ向勝負でプレーローマ・アンドヴァリとの戦いに臨めるぞ……!
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