お前重いんだよ!
じめっとした日だからか、授業中のクラスの風景も雰囲気も、何となくしっとりしている感じがする。
気怠いというのかな? 眠たいわけじゃないし疲れてるはずもないんだけど、やけに気が重いのはなんでなんだろうね。
『苦手科目だからじゃないですかー? 相変わらず理数系になると公平さん、思考があちこちに行きがちですもんねー』
痛いところを突かれてしまった。
そう、今は4時限目で数学の時間。因数分解がどうのこうのと黒板にいろいろ、方程式が書いてある。
こないだの中間テストにおいては、香苗さんと望月さんによる強制家庭教師二人の教えもあり、特に問題なく平均点以上を確保できた。
俺自身、ちょっとは理数系への苦手意識も薄れた気すらしているのだが……それはそれとしてやっぱり、黒板に書かれているミミズの巣みたいな光景はうんざりする。
とはいえ称号効果の一つ、勉強効率のアップがあるおかげでそれなりに理解できるのは幸いというべきだろう。
目と耳に入ってくる情報を、かなり正確な形で俺は身に付けることができている。
これ、下手すると一番のインチキ効果じゃないのか……? などと若干の後ろめたさを感じつつも、日頃、一応は命がけの探査に精を出しているのだし、どうかこのくらいは勘弁してほしいなあとか思ったりもする。
俺も大概、自分勝手だなあ。
「……山形、ちゃんと授業受けろよ」
と、不意に密やかな囁きが聞こえた。なんぞやと声の方を、わずかに視線だけ向ける。俺の席から二つ、斜め後ろ。
関口くんだ。探査者として養われた聴覚にしか拾えない程度の音量で、呟いている。
「分かってんのかお前。香苗さんが崇拝してるお前がそんなんだと、香苗さんの評判も落ちるんだよ。くそ、言ってて腹立ってきた」
うわ、面倒くさいの来たわ。
ドラゴンの一件以来、彼とは友好的でないながらも和解したわけだけども。こうしてたまに、ちょっかいをかけられるようになってきている。
ちなみにまだダンジョンにはご一緒してない。誘ったらすげなく断られてしまった。まあ、こないだまでからの今で無理はあるよね。
元々、彼は香苗さんに想いを寄せていたみたいで、そんな香苗さんが祀り上げてる俺がへんてこりんだと、香苗さんまでへんてこりん扱いされると思っているみたいだ。
俺としては、あの人がへんてこりんなのは元からなんだから諦めてくれ、と言いたいんだけれども……俺を祀り上げてるってあたりは例のチャンネルという、物的証拠があるわけだからなあ。
肯定も否定もしづらく、はぐらかす対応に終始しているわけだ。
「関口くんこそ、ちゃんと授業受けなよ。もしかして君も数学苦手なの? 同好の士発見?」
「ざけんな、俺は全教科トップクラスの成績だよ。お前が成績悪いと香苗さんが悲しむだろうが、そんな姿を見たくないんだよ。あんな、その、なんだ、アレだったとしても探査者として、人として憧れてた人だからな」
「……そ、そっかあ」
返答に困る。いや本当に、どう答えりゃ良いんだよ。
アレってどれぇ? みたいな茶化しをする気にもなれない。香苗さんはうん、ちょっと過激だよね。
そんなやり取りをしているうち、チャイムが鳴った。先生も切りよく授業を終わらせて、教室を出る。
はあ、お昼だ。やっと半日経ったよ〜。
関口くんとの会話も適当なとこで終わったし、俺はいつものようにグループのみんな──松田くん、片岡くん、木下さん、遠野さん、そして梨沙さん──と寄り合って、弁当をつつく。
母ちゃんの、ご飯と卵焼きとウインナーとその他、冷凍食品で彩られたご飯がうまい。
冷凍食品のおかずも俺的にはピンキリで、やっぱり肉系は大当たりだ。たまに魚系も入ってたりするんだけど、男子高校生としては肉の方がありがたい。野菜? はい、食べます……
まあ、どうあれ全部美味しくいただくんですけどね。命をいただく、ゆえにいただきます、だ。
『あ、公平さん。称号変わりましたよー』
リーベがそんなことを言ってくるから、なんじゃらほいと小さくステータスと唱える。
ドラゴンを倒してから概ね一月ちょっと。その間もダンジョンはそこそこ踏破してたんだけど、その間もいくらか称号は変化していた。
ただ、スキルに関してはピタリと獲得できなくなっていたんだが……曰く、『アドミニストレータとして必要なスキルは概ね得たため』とのことだ。
ほんとうかー? ほんとうにこれで必要条件満たしてるかー? とシステムさんに直接問いただしたい。まあとにかく、俺はステータスを見た。
名前 山形公平 レベル262
称号 間もなく継承は行われます
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
称号 間もなく継承は行われます
解説 及ばずともあがき続けた。その報いは今、すぐそこに
効果 任意で暗闇の中でも視界が確保できる
《称号『間もなく継承は行われます』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……決戦の刻は近付いています。もはや私は、信じるばかりですが。どうか、どうか知ってください。戦い続けた者たちの想い、切なる祈りを》
「えぇ……?」
学校の昼飯時にこんなもん送ってくんなよ……
あんまり切実なメッセージ称号に俺の、戸惑う声が微かに漏れた。
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