救世の会チャンネル、登録者数84.2万人(6月現在)
楽しかったGWも終わって、しばらくすると梅雨がやって来た。
憂鬱な季節だ。休みの日なら雨音が心地良いんだけど、学校のある日は傘を差すのが面倒だし、それでもなお濡れる足やら身体やらが何かもう、テンションを下降させてくる。
そんな時には瞑想なんかすると、称号効果により心が落ち着き平常心になれるんだからずるいもんだよ。まったく、システムさん様々だね。
『美人に腕を組まれてあたふたして、瞑想どころじゃないんですけど怖ぁ〜とか慌ててた人と思えないですねー』
うるさいよリーベくん。今瞑想中なんだから黙ってて!
あと、慌ててませんー。むしろ温かみに心地よさを感じてましたー。
とまあ、やり取りをしているうちに何となく気も晴れてきた。瞑想関係ない。
今は6月中旬の朝、登校中のバスの車内だ。周囲には同じ東クォーツ高校の同級生やら先輩さんたちやらも多い。同じ格好ばかりだね。
「あ、救世主だ。相変わらず見た目はパッとしないよね」
「ドラゴン倒してさらに有名になったよね、あの人」
「例のチャンネル、登録者数80万人だもんな。すげえわ」
「いやそれ、彼より御堂さんのすごさじゃない?」
諸々、諸々。
学生の皆様が遠巻きに俺を見てひそひそ話しているのが、当たり前のように聞こえてくる。
好奇というのかね。別に敵意は感じないし、何ならミーハーな女学生さんには、有名人とお近づきになってみたい感じの好意さえ感じる。
まあ、関連しているのが例の宗教チャンネルなので、それ以上にカルトへの恐怖心が勝っちゃって、結局パッとしないとか何とか言われてしまうわけだ。悲しい。
──GW中に俺がマリーさん、香苗さんと組んでドラゴンを倒した話は、それはもう盛大かつ急速に広まっていった。
主犯は言うまでもなく香苗さんと望月さんなんだけど、二人とも自分のチャンネルどころか、事件を受けて取材にやってきたマスコミにまでいつもの調子で布教したのだ。
救世主、山形公平がドラゴンを倒した。
その力はかのS級探査者、マリアベール・フランソワが認め、しかも後見人に近い立場に収まっている。
既にWSOもその存在に注目し、接触を図ろうと目論んでいる。
こんなことを、全国のお茶の間に四六時中垂れ流されたのだ。何が質悪いかって、この辺の話に嘘がないところだよ。
ドラゴンを──まあ救ったんだけど──倒したのは事実だし、マリーさんには気に入られて、彼女がイギリスに帰ってからも毎日のように香苗さんも交えてやりとりしている。
WSO云々についてはあれだ。決戦スキル保持者を探す云々の話をマリーさんが議会に上げてくれた、そのことだ。
どうも聞いていると、世界各地の実力者やら権威ある探査者が気にしているらしく、そのうち接触してくることもあるだろうねって言われた。怖ぁ。
かくしてシャイニング山形の時同様、俺は全国区に盛大にその名を轟かせてしまったのである。前回みたいな半ば、ネタ扱いでない分なお悪く、例のチャンネルの登録者数は一気に増大。
使いたくない表現だけれども、信徒がいっぺんに増えて来たというわけだ。
と、バスが学校前の停車場にて停まる。学生が次々お金を払い、降りていく。もちろん俺も倣う形だ。
雨がしとしと降っている。学校は山の上、緑溢れる自然公園のすぐ隣りにあるもんだから、濡れ立ての緑の濃い匂いと、土の香りが芳しい。
あんまり良い匂いじゃないんだけど、何となく癖になる。
すんすんと鼻をひくつかせながら傘を差し、間近に迫る校門をさあ跨ごうか、という時に、俺にかけられる声。
「おいっすー公平くん!」
「あ、梨沙さん」
「ヤな雨だよねー。気分サガるし、メイクもノらないし! もう最悪じゃんよねえ」
「だねぇ〜」
見た目は金髪ハデハデギャル、しかしてその実はかなり育ちの良い疑惑が、俺だけでなくクラスの中でもあったりする。クラスメイトで結構仲の良い、佐山梨沙さんだ。
俺に追いつくとそのまま隣並んで歩く。下駄箱。
「公平くん、今日も探査行くの? またみんなで遊ばない?」
「ん……そうだね。昨日探査はこなしたし、今日は休む気でいたから良いよ。遊びに行こうか。カラオケ?」
「ボウリングとかどう? 探査者だし公平くんが断トツかもだけど、みんなでやれば楽しいよ?」
「良いね、ボウリング。行くよ、もちろん」
「やたっ!」
小さく跳ねる梨沙さんの、仕草が愛らしい。
思えばGWが終わってから、俺と仲の良いグループの人たちが、さらに頻繁に、俺を遊びに誘ってくれるようになった。
中でも梨沙さんの勢いはすごくて、学校でも授業じゃない時は大体俺を引っ張ってあちこちに連れ回してくる。
彼女は顔が広くて、別のクラスの人たちとか、何なら上級生のグループなんかにも知り合いが多い。
だからか必然的に、そういう人たちともやり取りすることになっていた。
なんで……? ってのが率直な感想なんだけど、梨沙さん的にはこないだのドラゴン退治からこちら、俺が探査者として名が広がっていることに何やら危機感を抱いたらしかった。
俺が、学生らしい生活をできなくなっていくんじゃないかと心配してくれているらしい。良い子すぎるだろ。
「んー? どしたー?」
「いやあ……梨沙さんには感謝することが多いなあって」
なんとはなしに眺めていた梨沙さんに問われて、そう返す。
彼女はすっかり頬を赤く染め、はにかんでいた。
今回から新エピソードです
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間3位、週間2位、月間1位、四半期2位
総合月間10位
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