悪の組織あるある:裏切者にやけに厳しい
もうなんか怖いよ! ってなるくらいしつこくねちっこく瀬川聡太に絡む悪魔、セーレ。
俺相手に再度、契約を持ちかけてまで瀬川の終わりを見届けたいと願う美しくも妖しい悪魔に、さすがにげんなりとしたものを覚えつつ応える。
「別に、概念領域からでも見られるだろ、そんなもの。わざわざ契約を結ぶことじゃない。俺としても、別にお前にしてほしいことなんて何もないしな」
『かもしれません。ええ、私の提案はさすがに常軌を逸しているのでしょう。ねえ、オノスケリス、アガレス』
『うーん、気に入った人間に力を与えて生温い目で終わっていくのを見守るのは悪魔あるあるだけどー……』
『悪魔らしいと言えば悪魔らしくはあるな。しかし……よほどあの男が気に入ったのか知らんが、にしたところでこのような得体の知れない怪物に生殺与奪を委ねてまで執着しようなどと』
同業の悪魔達からしたら、瀬川への執着そのものはともかくそれをもって俺相手に契約を持ちかけるのはなかなか常軌を逸しているみたいだ。
アガレス曰くの"得体の知れない怪物"認定を食らった俺としてはいやその評はおかしいと抗議したいところだが、今はそれどころでもない。
いよいよおかしいな、悪魔セーレ。一体なぜ、そこまで瀬川に執着している?
契約者に優しい悪魔だとしても、根底にあるのが自分自身の満足や納得、愉悦のためだとしても。こればかりはいくらなんでも度が過ぎている。
全員、この場の誰もが理解できないと彼女を見る。
あまりに理解されないことに自嘲したのか、困ったように笑みを浮かべてセーレは、その胸中を明かし始めた。
『むしろ義務的な側面もあるんですよ、実際……彼に力を与えたのは私で、その契約は今も生きている。私が退場しようがしまいが、彼は依然として悪魔憑きのままです。契約を果たし切るまでは』
「敵意シャットダウンのバリアね……ていうかアンタさ、公平と契約したとして"瀬川との契約を打ち切れ"とか言われたらどうするつもりなのよ? それこそ瀬川の終わり時じゃない?」
『打ち切れませんからね、そこは。概念存在が絡む契約とは、双方ともに一方的な破断などできないものですから』
「? そういうものなの、よく知らないからアレだけど」
質問を投げるも、返答が要領を得ないことから首を傾げるアンジェさん。
気になるよね、契約の破棄について……今この場で実行できるかも知れない、瀬川弱体化への一番の近道に見えるだろうから。
けれどそれは不可能なのだ。セーレがどうの瀬川がこうの以前に、概念存在における約束、誓い、契約にまつわるそれはシステム上のルール。世界レベルの制約の話だ。
詳しく話し出すと長くなるから、簡単に説明する。
「アンジェさん。端的に言うと概念存在の言う"契約"は、双方の意思に基づいた相互破棄か、契約を履行し切るか。そのどちらかでない限り永続的に続くんですよ」
「へえ……それじゃあ、一方的に踏み倒すとかできないんだ?」
「片側が契約を履行する意思を失うとか、そういう形での踏み倒しに近い行為はできます。ただその場合、無視された契約は呪いに代わり自身の、あるいは周囲の者達に致命的な危害を加えるペナルティが発生しますね。これは悪魔側も人間側も同じですが」
「各地の神話でも時折、概念存在との契約にまつわる話があるが……契約の踏み倒しを行った者は、そこに記されていようがいまいが必ず後日、ペナルティを受けているはずだ。世界における契約とはそれほどまでに重く、深く、強い」
ヴァールの補足も交えて、それなりにスマートに解説できた気がするぞと内心満足。
ま、要は契約ってのはある種のシステムだからいかなる立場にも依らず、護らないやつには罰を与えるよって仕組みなわけ。
もっとも、神話とか伝説に出るような神や悪魔と人との契約ってのは、そこまで強固なやり取りじゃないのもあるはずだからそのへんはなんとも言えないけどね。
後世の人から見れば崇高で厳正な契約の場面も、実は単なる口約束でめちゃくちゃライトなノリでした、なんてのもあり得るかもだし。
『私は聡太に力を授け、その見返りに彼は走り抜けることを決めました。《悪魔の権能を得る代わりに、委員会の傘下組織として指示に従う》と契約してくれたのです。私には、それを最前線で見届けたい。概念領域から高みの見物というのは、あまりに彼に失礼でしょう?』
「なら別に、独立して現世をうろつけば良いんじゃないのか。そこまでは禁止されてないんだから何も、俺と契約を結ばなくても」
『半ば強制的とは言えサークルを抜けた以上、単身で現世をうろついていてはアドラメラクなりに捕捉されて粛清される可能性もないとは言えませんから。その点、あなたの近くなら大丈夫です。時間停止の権能さえ一蹴するような存在に、さしもの概念存在も完全に手出しを控えているでしょうから』
『……癪ではあるが。停めたはずの時の中で動く貴様の姿は恐ろしかった。悪魔たるこの身が、戦慄で震えるほどに』
粛清を恐れての、ある種の庇護を求めたわけか。理屈は通るが、いっそ潔いほどに俺を利用しに来ている。
アガレスも怯えた様子で俺を見てくるし。時間停止の中で、動くはずがないと思ってたところにカウンター極められたんだからさぞかしホラー体験だったんだろうけど、はっきり言ってそれはお前の想定不足だと言いたい。
停めた時の中で好き勝手できる自分がいるんだから、同じようなことをするやつも中にはいるかもって思っておくべきだったな。
後の祭りだけどと考えていると、何やらオノスケリスがカタカタ震えているのを見る。
なんだ、寒いのか? 常温のはずだけど、ここ。
『あ、あわわわはわわわ、粛清のことすっかり忘れてた……! ヤバいんですけど詰んだんですけど終わったんですけど! げ、げげ現世でめっちゃ遊びたいのに遊んだ瞬間終わるんですけど!?』
「えぇ……?」
お前も何も考えてなかったのかよ、そこんとこ。
すっかり顔を青くして頭を抱える少女悪魔に、俺は思わず呆れ返るのだった。
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