鳥籠の聖女─生贄の羊─
アンドヴァリによる攻撃から、神谷さんを庇うことで致命傷を負ったシャルロットさん。そのダメージの深さは誰もが知る通り、片腕片足の切断という即死級のものだった。
俺なり、リーベでしか間に合わせられなかっただろう極めてギリギリのタイミングで治療できたから良かったものの……もうあとわずかに1分でも遅れていたならば。
きっと、この場にシャルロットさんはいなかったのだ。
そう考えると寒気がするよね。危うくっていうかほぼ九割手遅れだったわけだし。
これには一同、なんとも言えない複雑な面持ちでシャルロットさんを見るしかなかった。
「シャルロットの介抱に誰もが意識を割かれるなかで、ワタシは逃がすまいと鎖で攻撃したが……やつはワームホールでどこかへと転移した。そしてあなたが間に合ってくれたのだ、山形公平」
「七代目様、なぜですか。こんな、老い先短く聖女も引退した私などのためにあんな無茶をされたのです。現役の聖女たるあなた様が失われては、元も子もありません」
かくして俺が到着するまでの経緯が語られたわけだけど。とりわけ、庇われた当の神谷さん自身が一番微妙な感情を抱いているようだった。
当然だろう。孫くらいの歳の子に、しかも自分の後輩にあたる子に庇われっぱなしで死なせるところだったんだものな。
さりとてシャルロットさんは一切の感情を見せぬまま、淡々と応える。
「五代目様。歳も、立場も関係ありません。敬うべき尊き方を命を捨てて助ける、これは人の道というものです」
「それで君が死んでいては仕方なかろう。遺される者の身にもなったほうが良いとは思うがな……無論、その志は立派だが」
「一理ありますが、それでも私に迷いも悔いもありません。アレクサンドラによって仕立てられた、半ばスケープゴートのような身ではありますが私は七代目聖女シャルロット・モリガナ。聖女たらんとする者、時には命を捨てて目の前の護るべき命を護ります」
「……スケープゴート?」
ヴァールの言葉に理解を示しつつ、なおも己の強靭な信念を吐露するシャルロットさん。
単純に心が強い、精神力や使命感がすさまじいように思えるが一点、スケープゴートなどと気になることを言ったのが俺の耳に引っかかった。
犠牲の羊。すなわち生贄。アレクサンドラによってそう仕立てられたと語る彼女は、一体やつに何を仕込まれたんだ?
なんだか嫌な予感がする。そもそもおかしいんだ、シャルロットさんのあり方はいくら聖女だからって常軌を逸している。ここまで自分の身を、命を擲つ精神性が元からのものとも思い難い。
何かある。アンドヴァリとこの人の間には、単なる師弟関係に留まらないとんでもない因縁が。
ことここに至り薄々それに気づいてきた俺や、ヴァールの困惑の視線を浴びつつも……決して口を割らないとでも言うかのように、彼女は次いで俺達へと投げかけた。
「私についてのことなどどうでも良いはずです。それより今は、あのウーロゴスと一体化しさらなる力を得たであろうアレクサンドラをどうやって追い詰めるか。そこに尽きるでしょう」
「……むう。それは、そうだな」
「不可思議な力、シャイニング山形が扱うワームホールとやらと同質のソレへの対策も含め、改めてサークルや過激派一味についての対抗策を各々、練り直すべきかと考えます」
「なんとまあ、冷静というかなんというか。真っ直ぐな嬢ちゃんだねえ……」
一切ブレることのないアンドヴァリへの執念。
絶対に追いかけて追い詰めて、そして倒してみせるという意気を静かに放つシャルロットさんに、さすがのヴァールもマリーさんも言葉少なにならざるを得ない。
すごい、と言うべきなのか? 讃えて良いのか、この人のこの状態を? 何か、とても深いところにある闇を見ているような気がしている。
次、アンドヴァリと出くわしたら一度は問いかけなければならないだろう……シャルロットさんに何をしたのかについて。その答えによってはたぶん、ウーロゴスのこともあるし俺は本気でやつと戦うことになるだろう。
それだけのことをあの女がしているような、そんな気がした。
「…………ともあれ、昨日の顛末については各人これで情報共有ができたな。ここからは今後についての話だ。と言っても、やることは変わらず虱潰しの捜索しかないが」
「隠し拠点にはすでに警察の捜査が再度、入っています。捕縛した構成員達への取り調べも順次行われていますし、首都圏で私達が捕らえたサークルの連中からも、いくつか新たな拠点候補が出てきていますね」
シャルロットさん自身にまつわる問題点は、彼女の言う通り今は話の筋としては逸れる。
理解して今後について話し始めるヴァールに、アンジェさんが追従して報告した。
これまでに首都圏でも17箇所ものサークル拠点を潰してきたんだけど、さらにプラスしていくつか出てきたか。
それじゃあ引き続いてアンジェさんチームはそっちの捜査に取り組むだろうし、協力者である俺や精霊知能達も同行することになるな。
後は……やはり俺が捕らえた悪魔達からも、話を聞く必要がある。
ことの核心により近い連中だろうから、何も知らないってこともないはずだし。今日のところはなんやかやもう夜になりかけてるのでまたの機会にってなるけど、近々頃合いを見て関係者で集まり、質疑応答をするべきだろうね。
「加えて山形公平が捕縛してくれた悪魔への取り調べか。これについてはまた後日、近いうちにまとまった時間を作って行おう。ダンジョン聖教には直接立ち会うことはさせられんが、共有すべきと判断した情報については随時教えるのでそのつもりで」
「…………感謝します、統括理事」
ヴァール的にももちろんそこについては念頭にあり、時間を作ってみっちり取り調べするつもりみたいだ。
ダンジョン聖教にも聞き出した情報をできる限り渡すみたいなのはさすが、確執とか蟠りを二の次にして世界の安寧を考える統括理事らしい振る舞いだ。
それに対してシャルロットさんが頭を下げるのを、俺はなんだかホッとする心地で見ていた。
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