酒ッ!飲みたくてももう飲めないッ!
今回の称号振り返り会は、前回前々回と異なる点が一つある。
トンチキ狂信者などでは断じてない、その道70年のベテラン探査者マリアベール・フランソワさんが参加していることだった。
「あんたら折に触れてこんなことしてるのかい。つくづく面白いねえ、ファファファ」
面白がっている彼女は、その様子の通り完全に興味本位での参加だ。
元々アイの様子を見に行く予定だったのが、香苗さんと望月さんも付いてくることになったのが発端だったかな。アイの保護観察者であるマリーさんと合流してこの談話室に落ち着いたあたりで、じゃあせっかくなのでやりませんかと香苗さんが提案してきたのだ。
俺としては悪くないな、というのが正直なところだった。称号もかなりの変遷を経ており、効果も多種多様なものを得ている。
それらについて大御所の所感を得られるというのは、香苗さんや望月さんともまた異なる視点という意味で、とても興味を惹かれるものではあった。
毎度のように司会進行は香苗さん。人もまばらな談話室にて、持ち込みのノートパソコンを用いてのスライドショーと共に会は始まった。
「さて、今回の獲得称号は……前回がクラスメイトの女の子とのデートで得た称号が最後でしたから、それ以降のものですね」
「おやおや、隅に置けないねえ。というか本当に、ダンジョン以外で手に入れるもんなんだね、公平ちゃんの称号は」
「システムさんのテコ入れを存分に感じますよ、正直……というかデートがどうのまで言う必要ありますぅ!?」
「ありますね、うふふ。公平様、今度私とも遊びに行きましょうね」
「ぜひ私ともお願いしますね公平くん」
いきなり脱線させるのやめろや! ていうか何でだ、佐山さんとのデートは関係ないだろ!
マリーさんまで面白がって、望月さんは俺を誘ってきているし。いや、望月さんの話は普通に乗りたいよ? こんな可愛いおねーさんとデートとか、一生ものの自慢になるよ。
そしてこの状況を生み出した香苗さん、さり気なくこちらも乗っかってきてるよ怖ぁ。
「と、とにかく! 始めましょうか、一個目なんです!? 教えましたよね、たしか!」
「むう、いけずですねえ……まあ、後で話は詰めましょう。それでは早速一つ目の称号です」
話を強引に変えた俺に、渋々ながら頷き。
香苗さんはスライドショーを開始した。佐山さんとのデート以来、得た一つ目の称号だ、どん!
称号 輝ける日々、楽しめる君
解説 遊び、学び、勤め、食し、寝る。そうして過ごす日々こそが、あなたの何よりもの宝
効果 日常生活時、肉体的な状態異常を完全に無効化する
「この称号を得たときにも思いましたけど、ラップかな?」
「また率直なご感想ですね。しかし、効果は破格の一言です」
「肉体的な状態異常……ってのが、どこまでの範囲を含むかによるね。たとえば老化や死さえも状態異常とするなら、公平ちゃんは日常生活において不老不死も同然だ」
「……えっ」
思いもよらない、だけど気付いて当然のマリーさんの指摘。
そうだよ……状態異常ってめちゃくちゃざっくりしてないか? 異常ってなんだよ、逆説的に何が正常なんだ?
全然思い至らなかった。え、そこんとこどうなの、リーベさん?
『老いること、死ぬことのどこが異常なんですかねー……ありとあらゆる命において、老化も死も、あって然るべき正常な状態そのものですよ? 大丈夫、その称号効果で無効化できる範囲はあくまで、いわゆる体調不良と呼ばれるものに限ります』
不老不死ってのはさすがにないか。いや、正直その、興味がないって言うと嘘にはなる。
未だに老いることや死について真剣に向き合う経験がないもんだからつい、漫画とか創作物の不老不死なんかを結構、スーパーパワーみたいに思っちゃう節はあるんだよね。
いや、もちろん大体の作品だと否定的に描かれてるから、良くないっていうか、ろくでもないものなんだろうなって想像はつくし理由も理解できる。それにいつまでも生き続けるなんて、自分の身に置き換えると中々に背筋も凍る話だし。
でも何か、フィクションの世界だとやっぱり、不老不死ってものの魅力みたいなのはある気がするよね。古来から色んな権力者が躍起になって求めるの、何となく分かるよ。
『その辺は、正直リーベには肯定も否定もしかねますねー……ですが少なくともこの世界において、肉体が老いて死に、そして魂が次なる輪廻に向かうことは正しいルートですよ』
だろうなあ。まあ、それはそれで良いんだと思う。
でもそうなると、称号効果で言うところの状態異常って、具体的にどんなんなんだ?
『満員電車での急な下痢とか、お酒を飲みすぎた後の不快感とかですねー。もっと言うと劇薬とか猛毒を摂取してもへっちゃらですし、睡眠不足もなければ風邪とかウィルスとか、免疫不全等もまるで無縁ですよー。寿命が尽きるその時まで、公平さんは健康体ですねー』
そっかー。大往生するまで健康体、ねえ?
とまあ、こんな感じのやり取りを、システムさんに聞いてみた風にアレンジしてみんなに伝える。
意外や意外、でもないのか? マリーさんがやたら、反応していた。
「羨ましいねえ。私もそんな効果が、スキルでも称号でもあったら。酒だって断たずに済んだのにねえ」
「えっ……お酒、飲まれてたんですか」
「若い頃にね。身体ぶっ壊すまで飲んじまったのさ、ファファファ……あーあ、話ししたらなおのこと飲みたくなっちまったさねえ」
「怖ぁ……」
どんだけ飲んだんだよこの人。
健康って大事、お酒って怖い。そんなことを思い知る俺ちゃんでした。
この話を投稿した時点で
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