鳥籠の聖女─たとえ地獄に落ちようと─
首都圏から1秒とかけず、合流に至ったヴァールとアンジェさんチーム。
事前に愛知さんとシャルロットさんが睨み合う中で、談話室から人気がなくなっていったのが幸いした……俺も遠慮なくワームホールを展開できたからね。
「これは……これもシャイニング山形の能力? スキルですか? 面妖ながら、異様に便利な力を使いますね」
「認定式の日にも見たな、この瞬間移動スキル。関西から首都圏までをもつなぐことができるのか……!」
初めて空間転移を見るシャルロットさんに、認定式の日に一度味わったことがある愛知さんも揃って驚愕している。まさか関西と首都圏を直通できる能力とまでは思わなかったのだろう。
できるんだなーこれが。なんなら俺の空間転移はシステム領域までさえ直通させられる特別製なのだ、このくらい朝飯前ってなもんなのですよ。
まあ嘘なんだけどね。神魔終焉結界抜きの、素の俺の状態でワームホール開いたもんだからちょっぴり具合が悪い。
うーん頭痛に腹痛、目のかすみに震え。典型的な体調不良が怒涛の勢いでやってきた。勢い任せでやる前に神魔終焉結界を発動させておくべきだったよ。
「大丈夫ですか公平くん!? 神魔終焉結界もなしにそれは、負担が大きいのでは!?」
「無茶をするな、山形公平……! 今すぐ結界を展開してくれ。そしてすみません、本来であればワタシが先んじて動くべきでした……!」
「き、気にしない気にしなーい……神魔終焉結界」
俺の様子が若干不審なものに変わったのを目聡く見つけ、香苗さんとヴァールが慌てて心配してくれる。
特にヴァールは、俺に促されるより先に自分から空間転移を使うべきだったと後悔しているみたいだ。
まあ負荷で言えばスキルとしての《空間転移》を持っている彼女のほうが、コマンドプロンプトとしての権能でワームホールを作るよりも身体に優しいのは間違いないのはたしかだからね。
でもまあ、こればかりは勢いで展開しちゃった俺のミスだ。平謝りするヴァールを宥めつつ、俺はここでようやく神魔終焉結界を展開した。
一言つぶやけば即座に変わる、俺ちゃんの服。蒼いコートのいつものスタイルだ。
この服には因果操作補助機能がついていて、因果操作にまつわる負担をかなり軽減してくれる便利な効果をも組み込んであるのだ。
もちろん因果操作後の消耗をも多少カバーしてくれるので、発動して着込んでおくだけで体調が結構楽になってきた。
はあ、助かるー。
「今度は早着替えですか。噂で聞いていた以上にエンターテイナー的ですね」
「…………私と同じ? いや、服だけだから少し違うか…………」
「えぇ……?」
いきなり私服から蒼コートに変わった俺に、これまた反応する聖女様とS級探査者様、なんだけどシャルロットさんはともかく愛知さんがなんだろう、すごい小さな声でものすごく気になる言葉を口走っている。
同じ? 少し違う? 神魔終焉結界を指してそう言うってことは、もしかしてこの人、今の見た目は本来の姿じゃないのか?
一応、変装系のスキルもたしかいくつか存在していたとは思うけど、認定式の時に見せてもらった探査者証明書にはそんなスキルは記載されていなかった。
ああでも申請すれば証明書にはスキルを記載しなくても良いんだ。香苗さんの横顔を見る。
この人も《奇跡》と《究極結界封印術》についてはあえて証明書には記載してなかったしね。愛知さんも何やら事情があり、そういう変装系のスキルを隠しているのかも知れない。
だったらあまり反応するのも悪いな、お口チャックお口チャック。
華麗にスルーして回復に努める俺の視線の先で、シャルロットさんにアンジェさんとランレイさん、神奈川さんが結構な勢いでまくし立てていた。
こっちはこっちで一触即発である。怖ぁ……
「くぉらシャルロット! あんたってばずいぶん手を焼かせてくれたわね、この不良聖女!」
「アンジェリーナですか。それにランレイも神奈川も、元気そうで何よりですね。ステラもそこに?」
「ああ、いるのはいるがよ……シャルロット、お前どうしちまったんだ。認定式からこっち、ちょっと暴走が過ぎるぜ」
「し、シャルちゃん〜……良い子のシャルちゃんに、戻って〜……」
主に一人でキレているアンジェさんに、困ったように、けれどたしなめる兄のようにも見える神奈川さん。そして涙目でオロオロするランレイさんの三人で、シャルロットさんに詰め寄っている。
ステラも神奈川さんの隣に相変わらずひっついてるね、今は完全に透明状態だけど。
あっ、こっち見てお辞儀してきた。軽く手を振る。そんな仕草にも構わず、相変わらずの冷淡さでシャルロットさんはそうした追及に一つ一つ、答えていった。
「誰が不良ですか。私は常になすべきこと、言うべきことをしているまでです。そして神奈川千尋、ランレイ」
「おう」
「シャルちゃん……」
「……アレクサンドラが絡む以上、私は絶対にこうなります。こうなるしかない過去があるのです。誰にも語る気はありませんが、誰しもにそうした事情があるものです。あなた方にもきっと、それはあるように」
重々しく語る彼女の放つ空気が、どこか悲愴なものにも感じられる。なんて雰囲気をするんだ、俺とそう歳の変わらない女の子が……
こうなるほどの何か、とてつもない過去がアンドヴァリとの間にあったんだな。だからシャルロットさんは頑ななまでに強硬な姿勢を崩さないんだ。
たとえWSOや日本政府に嫌われても、睨まれてもなお、貫くしかないもの。
それはダンジョン聖教聖女としてでない……シャルロット・モリガナ個人の本音でもあることは、俺にも分かるよ。
「シャルロット・モリガナ。君の事情についてはワタシからはどうとも言えんが、ことここに至れば一時共闘すべきだろう。ともに神谷は重要人物だ、そこについて異論はないと思うが」
「……そうですね、統括理事。先日は失礼しました、ですがダンジョン聖教聖女として、今後もあのスタンスを翻すつもりもないことは予めご承知おきください」
「それは、そこについては今は置いておこう、お互いにな。とにかく、事態は喫緊なのだから」
「はい。何よりも先に、まずは先々代様を」
こうなるとヴァールも難しい顔をして彼女を見るしかないよね。複雑な表情を浮かべつつ、一週間前に比べて大分ソフトな対応を見せる統括理事。
この子も結局、他人に対してひどく優しい子だから。まだまだ少女と言ってもいい子供が何かを背負い、歯を食いしばるように歩く姿にはどうしても想うところを抱かざるを得ないんだろう。
あるいはそれは、かつての歴代アドミニストレータ達にも通ずるものがあるからかもね……
そんなことをふと思いながらも、ひとまずの共闘関係を結んだWSOとダンジョン聖教のトップを俺は見ていた。
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