顔も赤けりゃ拳も赤い、血塗れ司祭の神谷美穂
「認定式の日、アレクサンドラを逃す形に終わった我々ダンジョン聖教は、すぐさまやつの追跡を始めました。私とて日本政府にこれ以上睨まれたくもありませんので、なるべく迅速にことを済ませたかったというのが本音のところです」
アンドヴァリへの殺意を明確にしたシャルロットさんは、それを引っ込めてなお滲ませる強い敵意とともにそう語った。
S級探査者認定式の日からこっち、愛知さん同様に独自に敵を追った彼女の、組織人としての本音さえもここに詳らかにしていた。
「あなた方はおそらくこう思っているのでしょう……"シャルロット・モリガナはWSOであれ日本政府であれ構わず噛みつき己の我儘を通そうとする身の程知らずの浅はかな小娘だ"と。その評はええ、たしかにそう思われても仕方ないことをしてきたのですからもちろん受け入れます」
「いや、別にそんな……ただ、ソフィアさんに対してはずいぶん辛辣だったようには思いますけど」
「はっきり言えば私としてはそのように受け取ったぞ、シャルロット・モリガナ。今さらいかなる弁明があろうと関係ない程度には、お前とダンジョン聖教はやりすぎたと私は判断している」
「お好きにどうぞ。私にもそうするだけの理由、想いというものがあるのですから言いわけも撤回もしません」
自分の暴走具合を、やはりというべきかある程度自覚した上であえて行動を起こしていたみたいだ。
語るシャルロットさんは無表情で感情を伺わせないけれど、何やらやむを得ない事情がありそうなのは俺にも分かる声色ではあった。
ただ、日本政府側でありいろいろ振り回された愛知さんからすれば、知ったことかと言うのも当然のことだ。
敵意こそないにせよ、隔意はありありと感ぜられる彼女の視線と言葉を受けてシャルロットさんはそれでも、なんら反応なく毅然とした態度で受け止めた。
その上でなおも続けて言う。
「とにかくこちらとしましても、認定式でアレクサンドラを殺せなかった以上はそれでも短期決戦の形にしたかったのです。それゆえ連れてきていた騎士達をすべて動員し、首都圏全域に網を張って過激派の動きを捉えました」
「その結果、愛知さんと神谷さんが訪れていた件の山村に辿り着いた……と。そういうことですね、シャルロット・モリガナ」
「そうなります、御堂香苗。ただ、先々代様がいらっしゃったのは完全な誤算でした。いるにしても愛知九葉だけかと思っていた上に、かの方は完全に制御不能だったのですから」
「制御不能」
なんだろう、とても聖女経験者に対する評価とは思えない語彙が出てきた気がするんですけども。
シャルロットさんはシャルロットさんなりの行動原理でもって、愛知さんとは別口にその山村に辿り着いたらしいんだけど、そこに神谷さんまでいたってのはまったく寝耳に水だったんだな。
まあそりゃそうだ、神谷さんってばもう70歳超えの方だよ。探査者としてもマリーさんじゃあるまいにとっくのとうに引退済みの方だ。
それがアンドヴァリ粛清のためって言って単身、やつを倒すために独自行動に出てるんだからお茶目とか暴走とかそういう領域を超えている。ましてやそれで敵側の構成員を何人か半殺しにしてるんだから、シャルロットさんをして制御不能と言わしめるのも無理もないよと思っちゃうよね……
「私は即座に先々代様の保護を提案、実力行使も辞さない構えでしたが……あの方はまったく耳を貸さず、やはり単身でどこぞかへと姿を消してしまい」
「神谷さん保護については私もシャルロットとまったく同意見でしたから同じく止めたのです。しかし何と言いますか、さすがは歴戦の探査者なだけあって物理的な意味でパワフルでしたね。手にしたメイスで強引に我々を突破していった姿は、とてもすでに一線を退いた方のそれとは思えませんでした」
「S級探査者とダンジョン聖教の聖女が揃って止められなかったと言うのですか……? 神谷美穂さん、かつての二つ名は"血塗れ司祭"だったなどとマリーさんから聞いた覚えもありますが、まさか」
「怖ぁ……」
困ったふうに語るシャルロットさんと愛知さんと、それを受けて神谷さんについて語る香苗さんの話の内容が荒れすぎててヤバい。
血塗れ司祭ってなんだ、荒廃した世界観のバトル漫画とかか! たしかにマリーさんもちょくちょく若き日の神谷さんが大分こう、武闘派だった的なことは仰ってたけれどもそこまでか。
何がアレって心当たりというかうなずけなくもないのか、シャルロットさんからさえも否定の声が出てこないところだよ。
この人も大概過激だろうに、それでも神谷さんに対してはドン引きめいた反応をせざるを得なさそうなのが余計に真実味が持たれてきて怖いよ。
「何処かへと消えた神谷さんですが、行き先はおそらくあの村で掴んだアンドヴァリの行き先を追ってのもの──関西のとある山間でしょう。そうしたことから成り行きで、シャルロットともこうして一時共闘している次第です」
「本来であればダンジョン聖教だけでこと足りる、いえこと足らせるのですが先々代様の保護まで加わるとなると話は変わります。愛知九葉だけでなく御堂香苗、シャイニング山形。あなた方にこうしてコンタクトを試みたのもつまるところ、そうした理由からなのです」
「アンドヴァリを追うためだけじゃなく、暴走しちゃった神谷さんに追いついて保護するためでもあるんですね……関係者の中でも俺達はこの近辺に土地勘がありますから」
すっかり見えてきた経緯に、俺はなるほどと得心した。
つまりは暴走していたはずのシャルロットさんさえ抑えにかかるほど暴走しちゃった先々代がいて、アンドヴァリを追うだけでなく神谷さんを止めるためにも俺達にまでお声がかかったってことだった。
……すっかり大事ですね!
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