出張版・狂信者の宴
予期せぬ出来事に、見舞われっぱなしだったツアーも終わり、華のGWも残り数日。
残り僅かな自由時間を精一杯楽しもうと俺は、この数日、ひたすら遊び倒した。ゲームして漫画喫茶行ってネットして、ポテチ食ってコーラ飲んでピザ食べて。もうめちゃくちゃに楽しんでやったのだ。
ダンジョン探査はお休みだ。ドラゴンなんて倒した日にはあなた、このくらいのお休みはあったって良い気がするのよね。
実際、家族も許してくれたし。優子ちゃんなんて、なんだかんだ言いつつも俺が入院したことがショックだったのか、前よりいくらか引っ付いてくるようになったし。兄として嬉しい。
さてそんなこんなで楽しーくGWを過ごした俺の、今日は最終日だ。つまりは明日から学校が始まるわけであり、俺のテンションはすこぶる低い。
GWはやはり、初日こそが一番楽しいものなんだ。あとは減っていく残り日数に併せて、テンションが下がっていくものなんだ。
俺は悲しい。
「きゅうー?」
「ああ、何でもないよアイ。心配してくれてありがとうな、優しい子だよ」
「きゅう! きゅう、きゅーう!」
どうしたの? 元気ないよ? と、聞くかのように俺の頭に乗ってそこから、俺を覗き込んでくるアイ。
大丈夫だよと手を伸ばして撫でてやると、くすぐったそうに、嬉しそうに鳴き声をあげた。可愛いの結晶かよ。
俺は今、探査者組合からそこまで遠くはないところにある、WSO管理の研究施設の中、談話室にいる。ここに引き取られて研究対象として飼われているアイと、朝からふれあいに来ているのだ。
マリーさんが中々に強権を振るってくれたみたいで、アイの扱いはすこぶる良いと思う。ほとんど放し飼いみたいな感じで、飼育担当の研究者さんはじめ、特に女性スタッフからめちゃめちゃ可愛がられている。
アイの方もすっかりここが気に入ったみたいで、研究や実験──痛みや危険の伴わないものばかりだ。そこもマリーさんのおかげだな──にも従順に協力しているそうだ。
今の時点で分かっていることはそう多くはないが、そもそもダンジョンの外で自由に暮らすモンスターという時点で相当に希少なのだから、一挙手一投足が価値ある資料とのこと。
まあその辺はよく分からないし、アイが楽しいならそれで良いかなと思う。
「ファファファ、馴染んでくれたようで何よりさね。このチビスケ、純粋で人懐こいからすぐ人気が出るとは思っとったが……こりゃあWSOのマスコットに決まりかねえ」
「え。国際機関のマスコットキャラですか、こいつが?」
「少なくとも所員のウケはよろしいわけで、となれば一般ウケもするだろう? どこの国も国ごとの探査者組合が幅を利かせてるから、WSOとしても人気取りはやっときたいのさね、ファファファ。馬鹿な争いさ」
そう言って愉快げに──結構皮肉っぽくも見えて怖い──笑う老婆はもちろん、S級探査者のマリーさん。
WSO特別理事でもある彼女は、ツアーが終わってからもアイの扱い云々でしばらく、日本に滞在するらしい。今のところアイの保護監督者でもあるわけなので、事実上、このミニチュアドラゴンの正式な飼い主なわけだな。
もっとも、ある程度研究が済んだ時点でアイは施設から解放され、正式なWSO所属の探査者、ならぬ探査獣として登録され、何でか俺を正式な保護者として寄越してくるそうだ。
「チビスケは生まれたての赤ん坊。だったら親は必要だろう? そこを考えるとやっぱり、公平ちゃんが面倒見るのが一番良いと思うのさ、ファファファ。救った責任は取ってやりなよ?」
「あっ、はい」
「きゅー! きゅっ、きゅー!」
などという、やり取りをして俺の元にアイは来る予定となった。
研究以前にアイそのものの生態とか安全性、危険性に関しての調査があるので今すぐにとはいかないけれど、その辺にひとまず目処が立つのがだいたい、半年かそこらとのことなので、冬前くらいには我が家に来ることになるな、この子。
優子ちゃんが狂喜乱舞しそうな気がする。こないだもちょっと触っただけで溶けたチーズより顔が蕩けてたものなあ。
「救世主様が引き連れるドラゴン……まさしくそう、神獣とでも呼ぶべきなのでしょうね。あるいは精霊?」
「伝道師御堂、やはりアイちゃんも神話に?」
「もちろんです、使徒望月。我らが『救世の光』の象徴として、このドラゴンには動画に出演していただきましょう」
「さすがです、伝道師!」
と、俺とマリーさんに加えて同じテーブルに座っていた香苗さんと望月さんが、アイに何やら良くない目を向けつつ怪しげなことを口走っていた。
ていうか伝道師はまだ分かるが──本当は分かりたくなかったけど──使徒ってなんだ。いつの間にそんなものになったんだ、望月さん。
なになにー? と、好奇心も顕に彼女らへ、無邪気に近付こうとするアイを優しく止めて、俺はさすがに彼女らに言った。
「こらこらこらこら、そこ。勝手に怪しげな団体の象徴にこの子を据えない!」
「WSOと同じことせんでくれるかえ? さすがに私ゃ、御堂ちゃんのカルトっぷりを国連総会で説明したかないよ」
「そ、そんな!?」
「し、しかし!」
そんなもこんなもしかしもかかしもないってばよ。
もう話題を変えようと、俺は強引に切り出した。
「さ、良いから始めましょう。えーと何でしたっけ、狂信者の宴?」
「出張版! 救世主、山形公平様の所持称号について! です!!」
ああ、そうそう。
そんなわけでもう三回目となる、俺の称号振り返り会が始まるのだった。
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間3位、週間2位、月間1位、四半期2位
総合月間6位
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