お前が時間を停めるなら、私は世界を停めるだろう
悪魔が止めた時間の中で、俺が悪魔の世界を止める。マトリョーシカみたいな話なんだが、要は時間停止をカウンターしたってところかな。
ピタリと止まる半透明の悪魔。こいつが何者か、についてはとりあえず後回しにして、俺はワームホールを開いた。
「異なる次元、時も流れぬいやはての地へ繋がれ……セーレ同様お前も話は後で聞く。じゃあな、ナニモノか」
『今聞けば良いだろうに。そんなに学校が大事なものかい?』
「俺にとってはな。それにこのまま時間を長いこと止めさせてるわけにもいかないだろ、世界停止を解除した時点で消滅しちゃうよ」
脳内のアルマさんも、さすがに元ワールドプロセッサなだけはあり時間停止の影響など受けておらず普通に話しかけてくる。
時間の流れ、なんてスケールは結局のところ現世領域と概念領域にのみ適応される理でしかないからね。それより上位にあたるデータ領域やシステム領域にはそもそもそんなの関係ないから、今だってワールドプロセッサあたりはことの顛末を見ているんだろうさ。
さておき質問に答える。そもそも始業式だというのもあるが、それ以上にこの状態が続くといかに権能由来の時止めとはいえ悪魔の体力がもたない。
今、俺は"時止めの権能を行使している状態"の悪魔を停止させたからな。世界停止とはすなわちそういうことなんだ。
時間を停止させただけだと、限界が来れば時止めの権能は勝手に収まる。
この悪魔ほどの格であってもそう長いことは止められなかったろうから、下手したら今頃には唐突に現れた引きつった笑みのお兄さんの腕と首元に手を当てて、なんか不審な行為に及んでいるシャイニング山形の姿が衆目に晒されていたかもしれない。
そうなったら始業式どころか俺の二学期ってか学生生活が終わるよ。怖ぁ……というわけで俺はより上位の因果操作を行ったわけだ。
すなわちこの悪魔自身"だけ"の、時間や状況を含めたありとあらゆる状態、状況を強制的に固定させて封印する。この悪魔が認識している"世界"そのものを停止させたんだね。
これによりこの悪魔の権能使用状態が強制的に固定されるから、時間は停止したままなのである。
ただ、そうするとそうしたで仮にこのまま長期間放置した後に俺が世界停止を解除した場合、たちまちこいつは消滅する。
俺が止めたのはあくまで悪魔の世界だけで、現世領域の時間を止めているのは変わらずこいつだからね。悪魔の認識する世界がまた動き始めれば止まっていた間に止めていた時間分、権能を使用していた負荷が一気に来て塵も残さないことになりかねないわけだ。
なので早々とワームホールの中に放り込む。つなげた先はセーレもいるデータ領域のとある層、とあるフォルダ内。セーレも同様に放り込んでいる俺専用の物置空間だ。
そこには時間など流れていないし現世との因果も存在していないため、概念存在による権能での働きかけなど即座にリセットされる。つまりは時間停止が切れるんだね。
そら、現世の時間が正常なものに戻るぞ。
俺は神魔終焉結界から学生服に戻り、時が流れる瞬間に備えた。
「────公平くん、放課後どうする? 久々だし時間もあるし、商店街に繰り出して遊んじゃう?」
「…………んんー、どうしよっかなあ。なんかしたくはあるよね、さすがに」
「カラオケ行こーぜカラオケ!」
「ファミレス! ファミレス行って山盛りのフライドポテト食べたい!!」
「真知子あんた……それカラオケ行っても食べれない?」
当たり前だけど、止まっていた時間のことなどクラスメイトはじめ、この世の誰にも分かるものではない。当たり前に話をしていて、当たり前にやり取りしているだけなんだ。途絶感などあるはずないよね。
ただ、受肉した上で現世にいる精霊知能達なんかは異変を察知しただろう。リーベ、ヴァール、シャーリヒッタにミュトス。あとステラもか。
下手したら泡食ってこっちに連絡をよこすか直接やって来るかもだ。始業式のタイミングは止めてほしいなー。
────そう思ってたらステータスが更新された。称号、久しぶりでもないワールドプロセッサからの直メールか。
名前 山形公平 レベル1024
称号 止まりし時ごと世界を停める、その力こそは因果の業
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
名称 神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─
称号 止まりし時ごと世界を停める、その力こそは因果の業
解説 気づきしモノ達への説明はこちらでしておきましょう、コマンドプロンプト
効果 なし
《称号『止まりし時ごと世界を停める、その力こそは因果の業』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……世界停止、見事なものでした。ですが神魔終焉結界あったとて、その負担は無視できないもののはず。どうかご無理はなさらぬよう》
お、お気遣いの淑女……!
説明までしといてくれるとはなんという優しみ。さすがワールドプロセッサ、話が早くて助かる。
あと体調について心配されているけど、実のところ今回に限ってはそこまで負荷もないんだよね。
時が流れている状態で一方的に世界を停めたらそりゃしんどかったろうけど、さっきは悪魔のほうが時間を止めていてくれたからね。
元から止まっていたものの中、一人だけズルしてるやつを追加で止めたってだけの話だ。
因果的にはそう無茶でもなし、それゆえ比較的負担にはなっていないのだった。悪魔的には皮肉な話だろうけど、ね。
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