ふーん、また山形が有名になってるじゃん
いってきますと声をかけ、精霊知能達に見送られて家を出る。俺の出発は優子ちゃんよりか若干早い。
まあ栗律中学は比較的近所にあるんだけど、東クォーツ高校は電車に乗ってさらにそこからバスでの登校になるからね。
これが猛者になるとこの距離からでも自転車一本で通う人も少なくないからすげーってなる。
入学前に一回だけ試しにやってみたけど、当時は探査者でもないごく普通のインドア陰キャだったもんだからこれ無理もう帰る! ってなったんだよなあ。
たぶん今なら普通に通えちゃうんだろうけど、もうすっかり公共交通機関を使っての行き来が常態化してるから引き続きこのままで行きたいかなー。
なんてことを考えつつ歩くいつもの国道沿い。まだまだ暑くて日差しはきついものの、時折風には涼やかなものが混じって空気の匂いもどことなく秋めいた独特のものがほんのり感じられる。
「どっかのタイミングで一気に気温が下がるからなあ。そうなると本格的に夏も終わって秋の始まりだ。過ごしやすくなるぞお」
『天高く馬肥ゆる秋……食欲の秋。良いねえ、食べるに適した季節があるなんてこの世界は実に素晴らしい。しっかり食ってしっかり肥えろよ、公平』
「えぇ……?」
食うことしか頭にないやつが頭の中にいる。脳内のアルマさん、登校初日から飛ばすねー。
他にもいろいろあるだろうに。芸術の秋スポーツの秋、読書の秋に行楽、音楽、中には登山の秋なんて言われ方もするんだぞ。
厳しい夏を終えて、過ごしやすい気候になる中で人々は日々の暮らしにより娯楽を取り入れやすくなるんだ。やりたいことを、暑さを気にせずやれるようになるんだね。
素晴らしいことだと思う。文化的にしろ体育的にしろ、何かしら自発的に活動するってことは活力が生まれるんだ……俺もこの秋、いろいろな活動を試していけたら良いなーって思うよ。
まあ、さしあたっては探査者活動が主だったものになるだろうけどね。
今日は始業式ってなもんで授業もなく半日で終わりって話だし、友人達と遊ぶのは遊ぶとして余裕があれば夕方にでもダンジョン探査しようかな? 変な犯罪組織の絡まない探査も継続していかないと、感覚をそっち方面に持っていかれそうな感じがして怖いしね。
そんなこんなで駅に到着、改札抜けてホームにて電車を待つ。
ああ、やっぱ夏休みの頃とはまるで様相が違うや、すごい人だ。学生服の同年代男女が結構いっぱいの光景に、俺は思わず息を呑んだ。
これでもまだ、大学生さんがいないから少ないほうってのが怖い。東クォーツ高校に向かうのに最寄りの駅からは、龍虎大学のキャンパスに通うのにも最寄りだからね。
同じく龍虎大学の学生さんである宥さん曰く、今はまだ夏休み真っ最中でなんと9月下旬からのスタートらしいんだけれど、そこからはさらに人も多くなることが予想されるのだ。
怖ぁ……パンクしちゃうんじゃない? 電車の中。
想像され得る満員電車地獄に戦々恐々としていると、ふと周囲の人達が俺をチラチラ見ていることに気づく。
なんだ? とはさすがにもう言えないし言うまい。直近で全国放送でさんざんやらかしたんだし、ネットでも伝道師が連日興奮してハープ弾いてるんだ、注目を浴びないわけがない。
「おい、シャイニング山形だ……!! ほら、S級探査者認定式で大活躍した、あの!」
「本当だ……え、見た目普通すぎん? なんか蒼いコートとか着てて派手好きなのかなって思ってたけど、地味じゃね?」
「一学期の頃から話題にはなってたけど、認定式で完全に有名人になったよなーシャイニング。御堂さんの伝道動画とかも併せてワイドショーで扱われてるし」
「なんならこの夏休み中だってほら、シェン・フェイリンさんとの模擬戦闘とか隣県でのS級モンスター騒動とかでバズってたし」
「ふーん、学ランの襟から見えるうなじが眩しいじゃん」
なんやらかんやらあれこれかれこれ。案の定ひそひそ話が飛び交うホーム。なんならスマホ弄ってる人がいるけど、SNSとかで"シャイニング山形がホームで電車待ってて草"とか書いてるんだろうか? 珍獣ハンターかな?
そしてうなじ眩しいとか言ってる人は怖いから止めてほしいじゃん。いくらシャイニングでもそんなところピンポイントで光らせたりしてないじゃん。
うーむ、最初はそりゃ話題になるよね。今をときめくってほどでないにしろ、目立ちはしたものね。
加えて香苗さんの伝道動画だっていよいよバズり始めているっていうかテレビで取り沙汰されだしてるし、一部界隈が喜んでそうな怖い展開ですよこれは。
まあ私生活においては結局一過性のものだろうし、素知らぬ顔してたらなんとでも落ち着いていくんだろうけど。所詮は見た目普通すぎて地味なパンピーですし。
「人の噂も七十五日、と……」
「────すごい注目浴びてるね、公平くん。あんなことがあったから、そりゃそうなんだけど大変だね。大丈夫?」
「んっ……ん、んん?」
自分を落ち着かせるべくつぶやいて軽く瞑想。称号効果により気分をフラットにしたところ、背後から声をかけられて俺はおやと振り向いた。
俺に声をかけてくる上、名前で呼んで来るなんて探査者関係以外ではそうはいない。そしてその中でも女の子の声となると、これはもうほとんど一択なわけで。
俺はすぐさま、彼女の名を呼んだ。
「梨沙さん。おはよう」
「おっはよー! えへへ、今日は登校から一緒だね!」
入学直後から仲良くさせてもらっていて、夏休み中にも何度も一緒に遊んだりしたクラスメイトのギャルっ子ちゃん。
佐山梨沙さんがそこにいたのだ。
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