億単位の部下を持つ男、シャイニング山形
「にしてもまさか、マジモンの神様が家に来るなんてなあ。いやいまいち実感はないけど」
歓談から流れるように夕食に移行して、俺やリーベ、シャーリヒッタやミュトスが買ってきたおつまみをもおかずの一品にして美味しくいただいてから、少ししてのこと。
ミュトスがリーベとともにお風呂に入りに行っている間に、俺とシャーリヒッタに向けて父ちゃんがどこか不思議そうな顔をして言ってきたのだ。
ここに至るまでに、ミュトスの正体というか来歴についてはザックリ簡単にだけど家族には伝えている。
異世界云々は混乱と誤解の元になりそうなのでそこは省いて、元神様の現精霊知能ですとだけ教えておいた。無論ながら他言無用だと念を押した上でね。
うちの家族はそもそもシステム領域について、話は知っているもののそこまで深入りする気もないからかほへーなるほど? みたいな、分かったような分かってないような曖昧な感じに頷いている。
それでもミュトスがかつて水の女神だったってことだけは理解したようで、だからどことなく感慨深げなわけだ。
神様がやってきた家、だなんていかにもご利益ありそうな話ではあるしね、たしかに。
「あの人……あの神? あの精霊知能? さんもアンタの部下の方、ってことになるのかしら? とてもそうは見えないけど」
「間違いなく直轄の部下だぜ、由紀サン! っていうか父様はシステム領域における最高存在だから、現状百億ゆくゆくは千億もの精霊知能達にとって親であり上司である方なんですぜ!!」
「ひ、百億……それみんな名前覚えられてるの、兄ちゃん?」
「部下をぞんざいに扱うと下剋上とか食らうから気をつけろよ公平……間違ってもハラスメントはするんじゃないぞ」
「俺のことパワハラ上司みたいに思ってる!?」
怖ぁ……家族からの信用がない。まあ百億とか千億とかって冗談の極みみたいな数字を出されるとそんな反応になるのも分かるけども。
ちなみに名前については150年前、つまりコマンドプロンプトたる私が輪廻に乗る前までの精霊知能達なら全員の名前も顔も記憶、というか記録しているよ。
ヌツェンのような、俺が輪廻に乗って以降に発生した子についてはさすがに把握しきれてないけど、それでもほぼ九割方は個々の認識はできているはずだ。
ていうか一度、コマンドプロンプト本体にアクセスして俺と向こうのアーカイブを同期しなきゃな。俺のデータは元より、本体側にこの150年蓄積された情報を参照できるようにしといたほうが何かと便利だろう。
新規精霊知能についてもこれでカバーできるだろうしね。もしも新しい子達の顔や名前を間違えでもしたら、それこそ父ちゃんからの忠告にぐうの音も出せなくなっちゃう。
ハラスメント駄目、ゼッタイ。そんな誓いを内心にて立てながら、俺は家族に話しかけた。
「とにかく。こないだも話した通り、そんなわけでしばらくミュトスもこの家に留めたいんだけど……大丈夫?」
「全然良いぞー。まあこれ以上の受け入れとなると部屋の数的にちょっときついけどな」
「こないだ家に泊まったヴァールさんみたいに、またリーベちゃんやシャーリヒッタちゃんと相部屋になる形になるわね。ええと、それでも良いの?」
「オレやリーベのほうは全然問題ないぜ! っていうかむしろ、リーベに現世のことをいろいろ教わるならそっちのがありがたいです!」
ミュトスの身元証明とか社会的立場の確保が、ヴァールによってなされるまでの間。いきなりこの世に現れた彼女の居場所を提供しなくちゃいけないわけで。
そうなるとやはり俺の家しかないからということで、そのへんのフォローについて家族には相談していたのだ。それゆえミュトスがしばらく滞在することについては快く許可がおりたものの、やはり人数に対してさすがに家の間取りにも限度はある。
リーベ、シャーリヒッタと並んで三姉妹扱いされがちなヴァールはともかく、ミュトスは見た目も大人で三人並ぶと年の離れた姉妹だしな。
父ちゃんの言うことに賛意を示しつつ、俺は今後のミュトスの展望を説明する。
「今、ヴァールがあの子の社会的身分を用意してくれてる。それが終わったらどこかこのへん近くのマンションなりアパートなりに引っ越す形になると思うよ。まあ一か月は見てもらいたいかな……諸々必要な資金については俺のポケットマネーから全部出すし」
「え──い、いえ父様!? ヴァールによる精霊知能共同基金もありますから、父様がそのような負担を背負うことなんてないですよ!」
「良いから良いから。ヴァールが頑張ってこの100年、溜めてくれたお金は大事に使わないと。それにミュトスについてなら俺でも少しは金銭的援助もできるわけだし、このくらいするよ。あ、もちろんリーベやシャーリヒッタについてもな。どうか遠慮しないでほしい」
やがて受肉して現世に来るだろう精霊知能達のためにと、ヴァールがずっと収入をプールしておいてくれた精霊知能共同基金。
アレに頼るのはもちろんアリなんだけど、俺としても俺にできることがあるなら何かしらしてあげたい思いはある。
せめて、自分の身の回りにいる子達の分くらいはね。ヴァールの血と汗の結晶は大事に使わなくちゃいけないって気持ちもあるし、なおのこと俺で賄えるなら賄ってあげたいと思うのだ。
そんな思いを告げてシャーリヒッタの頭を撫でると、彼女はくすぐったさに身を捩りつつも甘えるように俺にハグしてきた。それに負けじと机の上に寝転んでたアイもまたすり寄ってきて、なんだかすごく温かいぞー?
「ありがとうございます、父様……!」
「きゅう! きゅうきゅーう」
「はは、いやいやまあまあ。ええと、えーとだからその、そういうわけだし一か月ほどだけ頼むよ、みんな」
どうにも照れくさくなるほどのスキンシップに、それでも微笑みながら。
俺は家族にそう言って、ミュトスのことをお願いするのだった。
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