水の女神ですから!酒も飲めますから!
当たり前だけど勝手知ったる我が家はやはり落ち着く。一週間ぶりに戻ってきた実家のリビングにて、荷解きを終えて日常モードに戻った俺達は家族みんなと集い、しばし歓談を楽しんでいた。
家族に囲まれ、抱きつくアイを優しく胸元にて抱きしめて和やかに過ごす。いやー、帰ってきた感じするね。
まあ、滞在中も割とお土産とか渡しまくってたからそんなに留守にしてた感じもないんだけど。
生鮮食品とかお酒とか、持ち帰るには難儀しそうなものについては片っ端から空間転移で送ってたからね。
今も父ちゃんが、俺とベナウィさんの二人で見繕ったお酒を呑んでほろ酔い気分でいらっしゃる。
肴に買ったお土産のお菓子とかおつまみなんかもみんなでつまみつつ、話はやはり認定式周りの騒動についての質問と応答が中心になっていた。
「ビックリしたよ、ホント……テレビ見たら兄ちゃんが空飛んで光って叫んで、挙句の果てにビームまで放つんだもん。逢坂さんや新島さん、宮野さんとかクラスメイトのみんなもグルチャでシャイニングだ山形兄だ妹だって騒いじゃってもう、恥ずかしいのなんのって!」
「ご近所の奥様方の間でもすっかり人気者よーアンタ。いつも虫取り少年みたいな服装の子が、なんかコスプレしてるけどテレビに映って大立ち回りしたーって。本当に探査者なのねーって」
「会社でも若手女子がめちゃくちゃ反応してたぞ。目の色変えておいくつですか彼女いますかとか聞いてきたから、とりあえず高一だよって伝えたらしょげてた。ありゃワンチャン玉の輿ってやつを狙ってたのかもなあ」
「怖ぁ……」
案の定、うちの家族の周りでもざわつきがあったみたいだ。妹ちゃんのクラスメイトからご近所の奥様方から、果ては父ちゃんの会社の若手女子社員さん達まで。
いや待て最後のはおかしいだろ、目の色を変えるな反応するなと言いたい。そもそもあったことも喋ったことさえないような高校一年生男子を視野にいれるのはいささかホラーじゃないでしょうかね……
ともあれどうにもご迷惑をおかけしちゃったみたいで、こっちとしてはいやーもうしわけない! と平謝りするしかない。
お仕事だから仕方ないんだけどね。それでも空中にて生放送中のテレビに映り込んだシャイニング山形イントゥ・ザ・スカイについては想定外だったし、それがここまで変なウケ方したのも想像を遥かに超えている。
こえー、何が原因でバズるかわかんない情報化社会こえー。
「あははー! でもでも、たしかにテレビの公平さん、カッコよかったですもんねー! 絶体絶命のマスコミのヘリを鮮やかに救い出して、避難を呼びかける姿は本当にプロって感じでしたー」
「ニュース番組とかワイドショーとかでも大絶賛だぜ! ……まあ一部にゃイチャモンみたいなこと言うやつもいたけどよォ」
「人それぞれに受け止め方が違うのは仕方ないですよ、シャーリヒッタさん。どんな物事も、良いようにも悪いようにも解釈できてしまうものですから」
精霊知能達も、当時の俺の映像についてはもちろん把握済みでなんなら、テレビ番組とかを逐一チェックして評判をたしかめているみたいだ。熱を入れすぎである。
シャーリヒッタが若干不満げなのはあれだね、あの時の俺の対応が間違っていたとか、マスコミから仕事を奪ったとか情報隠蔽だとか、そもそも若手が出しゃばったとかって意見を述べていた方を見たりしたからだろう。
それを柔らかに諭すミュトスに内心、俺も同意した。
いろんな意見はそりゃあるからね。ヘリに退避を促した俺の判断の是非は人によって異なるだろうし、若手というか新人が出しゃばったと見る人もいておかしくない。
なんなら俺の一挙手一投足が気に食わない、いわゆるアンチ的な人達だっているだろう。逆に俺に対して好意的な人達だってたしかにいてくれるんだろうから、そのへんはもう個々人のスタンスの違いであって俺が気にすること、気にできることではないのだ。
というかミュトス、さすがに威厳ある物言いをするよなあ。
かつては水と豊穣、調和と協調を司る神だっただけはある、物腰穏やかで平等に公平な態度だ。
もっともすぐに、いたずらげな笑顔を見せて頭なんて掻いて、今にもへっへっへ! と笑いそうな顔に戻るんだけど。
「へっへっへ、なーんつっちゃったりなんかしちゃったりして! それにしてもこのおつまみ美味しゅうございやすね、さすがはコマンドプロンプト様特選の酒肴です! なんか呑みたくなってきましたよ、お酒!」
「おっ! じゃあどうです一献。うちじゃ呑む人が他にいないから、若干気まずいんですよミュトスさん」
「良いんですかやったー! うひぇひぇー、水と豊穣の神だったもんで、どーも向こうにいた頃からお酒は好きな方でして、でへへへ!」
言うのか……そして呑むのか。一人きりで飲んでた父ちゃんが楽しそうにミュトスさんに空のコップと酒を渡す。
彼女はさっそくそれを注ぎ、豪快に一気飲みをした。いや一気飲み!? 嘘だろこれウイスキーだぞ!?
グイッと勢いよくグラスを空にする戦慄の瞬間。誰もが、なんなら酒を飲んでた父ちゃんさえも驚きで酔いが冷めたみたいだ。静まり返ってミュトスを見る。
ぷはー、と深く息を吐き、彼女はまったく普通のテンションのまま、そして目を輝かせるのだった。
「……良い水使ってますねー! 水系統の女神だった者としてなんか、ニヤけちゃいますよむへへへ!」
「そ、そんな強い酒を一気飲みして平気なのか……すごいなあ……」
「きゅ、きゅきゅー……」
水の神だったがゆえだろうか、どうも元からしてとんでもない酒飲みさんみたいだ。システム領域には酒なんてなかったから気づけもしなかった。
俺の胸元に収まるアイでさえ、ドン引きした様子で鳴いている。おもしれー女神……かどうかはともかく、やたら個性的なミュトスなのであった。
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