聖剣たるもの、ビームの一つも撃てねばなるまい！
──それからというものの、俺達は毎日サークルの拠点を次々と訪れては、おまわりさん達と協力しあって捜査や構成員の逮捕に精を出していた。
最初のところみたく構成員がいて戦闘になるパターンも当然のこと、中にはもぬけの殻だったり、あるいは構成員はいたものの非戦闘員ばかりだからすぐ降参して連行されるような拠点まであった。
そういう、すぐさまことが片付く拠点も込みで考えると当初の予定よりはるかに早く、拠点捜査を行えたところはあるだろう。
実際、8月29日の今。17箇所目の拠点制圧を俺達は行っているのだから。
「ふざけんなや、てめぇらァァァ！！」
「死ねゴルァ、神奈川ぁぁぁぁぁぁっ！！」
最後に訪れたのは首都近郊、廃ビル。もう何十年と放置されているらしいそこに構成員が不法侵入して拠点として扱っているらしい場所だ。
毎度のように踏み込めば、ここ数日猛烈な勢いで拠点を潰して回っている俺達のことは最初から警戒済みだったんだろう。構成員が数十人、取り囲んで襲いかかってきていた。
全員が全員、刃物なり銃器なりで武装しての立ち回りだ。
どうもダンジョンコアの密売による資金で武装しているらしく、これまでの拠点でも夥しい数の武器が押収されたりしている。
ここ本当に日本ですよね？ 怖ぁ……と一般市民としては震えざるを得ないし、そうでなくとも人々の生活を脅かす者達への憤りは禁じ得ないところだ。
アンジェさん、ランレイさんに神奈川さんもそうした怒りは覚えているようで、極力手加減しつつも荒々しい剣筋、あるいは拳筋で次々構成員を仕留めていく。
特に神奈川さんだ。聖剣を手にし、その力を存分に引き出して振るっていく！
『千尋、威力は最低限度の非殺傷段階に固定してるよ！ 行ける！』
「ありがとよ、ステラ……！ 行くぜ、パス・オブ・ヘヴン/エレメンタル！！」
ステラによる威力調節の下、決して行きすぎない程度の殺傷力で放たれる剣閃。横薙ぎに振るわれる聖剣から迸る灼光が、構成員を飲み込み圧倒した。
うわー、剣からビーム出す人だ！ 漫画やゲームだとマジでありふれた話なんだけど現実だとなかなかお目にかかれないから、正直ちょっぴり感動だ。
これまでにもマリーさんの大断刀・コーンウォールとか、チョコさんのオリジンブレイバー・ネームレスディバイドみたいな前例は見てきたけど……やっぱ生で剣からビーム撃つのってロマンだよなー。
あっという間に構成員達が吹き飛ばされるのを眺めつつ、俺はここ数日で判明した聖剣の力について想いを馳せた。
聖剣。これ自体に固有名詞はないらしいけど、使う技には当然名前がつけられている。
パス・オブ・ヘヴン。聖剣が持つ破邪の光、概念存在特効の力を発動して振るう必殺技ってやつだね。いかにもヒーロー的でかっこいいや。
基本は直接斬る技なんだけど、バリエーションとして今みたいな遠距離攻撃も放てるんだとか。他にも一点集中型とか連撃技もあるみたいだけど、そのへんはまだ見ていないね。
一年もの間、専属でこれを振るってきた神奈川さんの慣れっぷりもあって堂に入った姿なんだけど……ここまで強烈な力だと当然、リスクもある。
放っていたビームを唐突に途絶させ、神奈川さんが荒く息を吐いて数歩後ろへと下がった。
力を使い切ったんだ。パス・オブ・ヘヴン、その力は強力なれど、放つ聖剣使用者にも相応の負担を強いるから長時間の戦闘には不向きなんだな。
ましてや継続して広範囲に放つバージョンの技ならなおのことだ。
「っと……！ 駄目だな、ガス欠だ。アンジェ、ランレイすまん、後は頼む！」
「オーケー千尋！ よくやってくれたわね、サンキュー！」
「残るは我らが受け持とう！ 我が斬鉄脚の露と消え果てるが良い！！」
『千尋、大丈夫？ ……リーベさん、治療お願いします！』
「はいはーい、《医療光粉》ー！！」
ステラの求めに応じてリーベが翼を展開、癒やしの波動を放つ。その間に神奈川さんから任されたアンジェさん、ランレイさんが残った僅かな敵を縦横無尽に蹂躙していく。
この調子だとすぐに片がつくだろう。俺はしゃがみ込み《医療光粉》の恩恵を浴びる神奈川さんを見た。
これが、現状での神奈川さんの一番の弱点だろう。とにかくガス欠になりがちなのだ。
そもステラと紐づけさせて因果を成立させているものの、元々は異世界の存在そのものだ。そんなものの力を本来は非能力者たる神奈川さんが使えば、過度な負担も当然かかるのは自明の理だ。
しかもこれで聖剣の出力はまだまだ引き出されきっていないってんだからね。ステラのほうで制御しているからなんだけど、これをもし全力で使ったりしたらたちまち神奈川さんの生命力は吸い取られていってしまうだろう。
その危険性は本人達も重々承知のようだった。悔しげに唇を噛み、神奈川さんは呻いた。
「情けない……どうにかならんかね、エネルギー消費の激しさは。こっちが多少体力をつけたところでどうもなってくれないのがな……」
『無茶しないで、千尋……あなたは本当によくやってくれているもの』
「そうだぜ神奈川ァ。むしろよくそこまで聖剣を振るえてるもんだ。さすがは一年も付き合ってきただけあるよなァ」
自身の消耗の激しさを嘆く彼を、励ますステラとシャーリヒッタ。
俺や、隣に立つミュトスから見ても同じ意見だ……よくやってくださっているよ、この人は。
ガス欠を気にする気持ちも分からなくはないけど、限界は誰にでもあるからね。無理しちゃいけない。
アンジェさんとランレイさんがすべての構成員を仕留めきる。
かくしてサークルの拠点は、今判明してる限りではすべて潰滅させたのであった。
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