どんな主張をするにしても、とりあえずは法律を守りましょう
通常の3倍の重力下にあってなお一人、立ち上がった男。その身に纏うのは権能の陰……身体能力を強化されている。
シンプルだが強烈なやつだな。首都圏に来た時にアンジェさんやランレイさんが相手していた者達と同じくらいの強度の権能を、どうやらその男は授かっているらしかった。
「やって、くれたな……! フランソワ、シェン!!」
「雁首揃えて悪魔憑きは一人だけね……ぱっと見、何かしらサークルの資料とかがあるわけでもなさそうだしここは外れかしら?」
「かもしれん……しかし一人でも戦いになり得る者がいてくれたのを私はまず喜ぼう! 武術家として、技の振るいどころがないでは立つ瀬のない話だった!」
何人と構成員がいて、その中でもまともな戦力と言えるだろう悪魔憑きはたった一人だけ。部屋の内装もとにかくお遊び的で仕事の"し"の字もないことから、アンジェさんはここの拠点を外れと判断したようだった。
正直わかるよ……これで客を取っての違法賭博をしているとかならまだしも、明らかに身内で遊んでいるだけっぽかったからね。
秘密基地というべきかな。まるで子供達が大人に隠れて寄り集まって、自分達だけの場所を作ってそこで遊んでいるかのような印象を受ける。
昨日のウーロゴス上空にいた、酒盛りしてた人達もそうなんだけどどうにも不真面目と言うか、面白半分って感じを受ける場面が多いな、サークルは。
瀬川のような何かしらの目的意識があってか、本気でこちらに向かってきてそうな手合もいるんだけど。
どうも末端くらいになるとただの気まぐれや感情的な理由から、やりたい放題しているだけの構成員もそこそこいそうなのがなんか、面倒だなあってなるよ。
眼の前の悪魔憑きも、どうやらそっちのタイプみたいだし。
「よくも、よくも俺らの遊び場をッ……! よくも俺の仲間達をッ!! なんなんだてめーらは、せっかく楽しく遊んでいたってのによう!!」
「なんだも何も能力者犯罪捜査官よ。あんたらがサークルの隠れ蓑になってんのはすでに分かってんのよ、捜査の手が入るのなんて当然じゃない。連中のダミー企業がとぼけてんじゃないっての」
「何が能力者犯罪だ、WSOの犬ころがでかい面しやがって!! だからてめえらはクソなんだっ、能力者に都合の良いふざけたルールを非能力者に押し付けて、まるで正義の味方気取りだっ!! ふざけんな、俺達は能力者至上主義社会に断固として立ち向かうぞ!!」
「そういうのは合法的な手段で活動している人達が言うことだな……犯罪しといてそんなもん、言いわけにもなりゃしねえぜアンちゃんよ」
やはりここは、こいつらにとっての遊び場でしかないみたいだ。世の中の仕組み、大ダンジョン時代のあり様そのものに異論を唱える彼に、アンジェさんのみならず神奈川さんも反論する。
サークルの目的、探査者社会の崩壊ってところにもかかってくる話だな……探査者という特殊な存在に対して敵意を持ち、WSOが中心となって築いた現行の社会基盤を根底から否定して破壊しようというのがどうやら彼らにとっての正義らしい。
正直そうした主張については、俺の立場からはそういう考え方もあるかとしか答えようがない。どう言い繕っても今あるこの社会のきっかけに位置しているのは俺達システム領域だからね。
アドミニストレータ計画を成就させるためにもたらしたこの時代についての賛否についてはどうあれ受けるしかないし、今となってはせめて、より良い次の時代につながってくれるよう微力ながら力を尽くしていくしかできないところでもある。
ただ、だからといって社会秩序の崩壊を目論んだり実際に行動に移すような存在に対しては、さすがに今を生きる人間として認められないって話なわけで。
ましてやウーロゴスやらダンジョンコアやらを悪用するなどシステム側から見てももっての外な行為だからね。
ゆえに今、目の前で主張を続ける男についてもとりあえずは犯罪を止めて平和的な訴えかけをするべきでしたね、としか言えないのだ。
これについては後ろの精霊知能達も似たようなスタンスだもんで、思想言論そのものにはなんとも言わないものの、ただただ既存社会を崩壊させようとする迷惑行為については敵意を抱いているみたいだった。
男はそして、小刀を構えた。
悪魔の権能によって高重力にも逆らい、負担に汗を流しながらもそれでも、戦う姿勢を見せたのだ。
「一人でも刺し違えてやらあッ……! 舐めてんじゃねえぞ、ボケカスがぁーっ!!」
「任せるわ、ランレイ」
「任された、アンジェ……星界拳!! とくと目にせよ我が斬撃脚ッ!!」
もはや形振りかまわずといった様子で駆ける男に、アンジェさんは特になんの反応も示さずランレイさんの名を呼び。
ランレイさんは応えて即座に動いた。男の何十倍もの速度で瞬時に距離を詰め、長身から超スピードの斬撃を放ったのだ。
すなわち足、斬撃脚。
こと殺傷力においてはリンちゃんさえ超えかねない威力のそれが、男の小刀の刃、その根本をしっかりと捉え──
パキン、と小さな音を立て、それを切断させていた。
まさに斬鉄。星界拳の非常識なまでの体術が為せる、奇跡めいた業である。
「星ィィィ界ッ! 八卦脚ッ!!」
「ぐぅおおおああああああっ!?」
そしてそのまま片足で放つ猛連撃、星界八卦脚。
足刀を使わず加減しての技が、問題なく男の身体を次々と蹴り抜き、そしてあっけなく彼の意識を刈り取るのだった。
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