超重力に耐えた先には、シェンの斬撃脚が待っているぞ!
発動したアンジェさんの《重力制御》が、特になんの変哲もない雑居ビルの五階を満たしていく。
この場に存在する絶対的法則、すなわち重力という因果に触れる極めて特殊なスキルの発動だ。
「ぐあああっ!?」
「こ、これが例の、謎の制圧スキルかぁッ……!?」
「く、くそ、腕が、足が……身体がああああ」
高重力力場。概ね常の3倍ほどの重力が加わっていると見る。人間ばかりかテーブルも椅子も、ゲームの筐体もパソコンも麻雀卓でさえも軋んでひしゃげる圧力だ。
これにはスキルラボラトリーの面々も耐えきれず、次々と地面に叩きつけられるように強制的に平伏させられ、全身にかかる負荷に苦悶の声を上げていた。
かくいう俺達のほうにも、負荷がかかっているけどこのくらいなら問題ない。
それなりに高レベルだしね。唯一、聖剣を持たなければ普通の非能力者と大差ない神奈川さんだけが心配だったけど、それもすぐに杞憂だと知れた。
もうすでに聖剣を手にしてるんだもの。早いね、ステラ。
『スキル発動、《聖剣》。一時権限譲渡対象、神奈川千尋……千尋、どうぞ』
「ああ、ありがとなステラ。これがないと俺までぺしゃんこだからなあ」
『すごいスキルだし仕方ないよ。いつでも言ってね、なんでも力になるからね、私の千尋』
ステラが持つスキル《聖剣》によって顕現したそれを、神奈川さんが手にする。そうすることで"聖剣から逆説的にステラのステータスを読み込む"挙動が引き起こされ、彼はごく限定的にだがオペレータとしての力を得る。
聖剣が特例中の特例みたいな存在であり、本来の管理者であるステラのステータスに紐づけられる形でスキルの枠に落とし込まれているから再現可能な……ある種、バグめいた裏技だった。
昨日の夜、一応確認させてもらった神奈川さん/ステラのステータスを思い返す。
名前 神奈川千尋 レベル119
称号 聖剣使い(疑似)
スキル
名称 聖剣
名称 空間転移
名称 頑健
名称 気配感知
名称 剣術
称号 聖剣使い(疑似)
効果 スキル《聖剣》によって顕現した聖剣を手にしている間、《聖剣》の本来の保持者のステータスを得る
スキル
名称 聖剣
効果 聖剣を顕現する
──とまあこんな感じで、やはり異彩を放つのは称号の《聖剣使い(疑似)》だろう。
"ステラが生み出した聖剣をトリガーにして、神奈川さんへステータスを譲渡する"という一連のプロセスを、スキル《聖剣》とセットにする形で表現したって感じだな。
神奈川さん本人にとって重要なのは称号のほうで、スキル《聖剣》自体はステラの制御下に置かれているって形になる。
そんでもってレベルも、さすが一年間戦ってきただけあって3桁に到達している。これならアンジェさんが今放っている《重力制御》の効果にも耐えきれるわけだね。
3倍の重力が支配するフロア全体に、敵ばかりが平伏して呻く光景。
俺のすぐ後ろで、精霊知能の三人がそうした手際を直に見、驚きの声をあげた。
「マジかよ……!? 重力をこうまで操るスキルが、ただの一人のオペレータに与えられたってのか!」
「それだけ、アンジェリーナ・フランソワという探査者の素質と可能性がすさまじいということでしょうねー……! それこそ祖母、マリアベール・フランソワさえ凌駕しかねないほどにー!」
「元いた世界でも、こんなことができる存在は最高神かその親族くらいのものでした! やだ、この世界インフレしすぎ!?」
やはり重力を自在に操作するスキルが人間の手に渡っているのが、シャーリヒッタからしても驚くべきことのようだ。リーベも前から知っていたものの、その威力の高さに改めて目を剥いている。
そしてミュトス……異世界の神たる彼女の元いた世界では、たとえ概念存在であってもここまでのことをしてしまえる存在は一握りだったみたいだね。
こちらの世界で言えば織田や、織田のご家族さんにあたるモノ達くらいってことか。それが人間の手で成し得たということにギャップを感じているようだ。
システム領域をも唸らせる芸当を、見事に披露してくれたアンジェリーナさん。
彼女は不敵に笑い、腰に提げた刀を撫でつつも高らかに告げた。倒れ伏し、それでもまだ意識がある者達への言葉だ。
「さぁーて、抵抗するなら今のうちよ悪魔憑き! どうせいるんでしょ、さっさとなんなりとして立ち上がってきなさいな! 刀か脚か、どっちの刃で切り裂かれたいか選ばせたげる!」
「アンジェリーナ、次は私の番だろうッ! お前ばかり活躍しては星界拳士の名折れに他ならん、せめて悪魔憑きの一人二人は蹴り裂かねば釣り合いも取れまいッ!」
「はいはい、ランレイったら焦れてるわねえ。ってことで悪魔憑き、来るならシェン・ランレイの斬撃脚をたっぷり堪能できるから覚悟しなさい!」
倒れ伏す者達のなかに、いるかもしれない悪魔憑き。たしかに悪魔の権能を借りればこの重力下でも、どうにか動くくらいはできるかもしれない。
もっともその場合、すぐさま次はランレイさんの脚技が飛んでくるわけだが。鋼鉄をも引き裂く豪脚、剛足刀の斬れ味を、わざわざ受けたい者などいるんだろうか?
────いるなあ、一人。
部屋の奥のほう、重力に押されて机に突っ伏していたスーツの男が、どうにか立ち上がるのが見えた。
その身に纏うのは紛うことなき、概念存在による権能での強化だ!
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