救世主ヌクモリティ
気まずい空気の中、面接ってわけじゃないけど俺と、御堂家の方々との会話が続く。
話してみれば祖父の才蔵さん、父の博さん、母の栄子さんは結構、気さくなんだけど……
「なるほど、一月前にいきなりスキルが。それから探査者になり、あっという間に救世主として名を広めているわけですね」
「あの、決して広めようとして広めているわけでは……その、ご息女様が主立ってですね」
「ええ、香苗からも毎日のようにメールなりアプリなりでメッセージが来ますのよ? 今日の公平くんはここが救世主だった、ここが最高だった。明日はこれこれこういう伝道をしていきたい、とか。おほほほ」
「は、ははは」
香苗さん、当たり前のように狂信者ムーヴをご家族にもかましていらっしゃる。それをおほほほで済ます栄子さんも中々というか、博さんたちもニコニコしている。それで良いのでしょうか。
唯一、光さんだけはずっと押し黙って俺をじっと、見つめている。敵意はないけど、ねっとり感は抜群だ。
何だろうね、この人……と、思っていた矢先。
当の本人から質問が飛んできた。
「あの、山形さん」
「えっあっ。は、はい」
「姉とは……どういった経緯で? 新人教育で見初めたと本人からは聞いてますが、とても信じられません。姉ほどの探査者が、新人教育だなんて」
出てきたのは、まあ、当たり前の疑問ではある。
A級トップランカーとして国内外でも有名な彼女が、どうして新人探査者研修の教官だなんてやっていたのか。そう言えば他の教官の人たちも首を傾げてたな。
本当になんでだろう? 香苗さんを見ると、やれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。
「決まっているでしょう、光……ええ元々、私は新人教育に関わる気はありませんでした。当たり前でしょう、私とて毎度、新人の面倒を見てあげられるほど手透きではありませんし。何より担当役の方々の仕事を奪うことにも繋がります。それは良くない」
「だったら……」
「公平くんだからです。彼だからこそ私は、わざわざ頼み込んでまで新人教育に横槍を入れました。彼に探査者の基礎を教え、あまつさえ処女探査にまで同行したのは、完全にそれが、山形公平という人だったからに他なりません。一目見て、そうしなければならないと確信したのです」
「えぇ……?」
ドン引きだよ。光さんも俺も。
この人何言ってんだ、マジで。赤い糸とか運命とかそんなレベルの思い込みじゃないぞ。俺を見てそんなことになるとか一切意味が分からない。別になにかしてたわけじゃないだろ、俺?
真顔でとんでもない告白をしてきた彼女は、さらに続けて、静かな眼差しで光さんを見る。
「それこそ、あなたが慕う曽祖父……ひいおじいちゃんの教えでもあります。この人だと確信したならば、絶対に迷うなと。時が来れば分かると」
「ひいじいちゃん、の」
「かつては私とて理解できませんでしたが、一目彼を見た時にすべてを悟りました。私は、彼のために生まれたと。彼の教えを広め、彼に添い遂げる。それこそが御堂香苗の使命なのだと。心から魂から、理解できたのです」
ひいおじいさんの教えであり、香苗さん自身の意志でもある。それが本気だと知り、光さんはもう絶句していた。
俺も正直、言葉がないが……だけど一つだけ言わないといけない。
もしも彼女がひいおじいさん、将太さんの言葉に縛られて振り回されていて、そのことに気付いておらず、知らぬ内に染まってしまっていたならば。
絶対にそれは違う。そんな彼女に好かれても俺は、何も嬉しくない。たとえ嫌われても袂を分かっても、そこは言わなければ。
意を決して、俺は指摘した。
「香苗さん、さすがにそれはおかしいですよ……ひいおじいさんが偉大だとしても、それに振り回されちゃダメです。あなたはあなたなんです。御堂香苗っていう、たった一人のかけがえのない人なんです」
「……? えっ、振り回されているように見えますか? 私が。むしろ散々にあなたを振り回している自覚はありますが」
「えっ」
覚悟を決めた言葉に、なぜかキョトンとしている。いや、こっちがキョトンなんですけど。
次いで、彼女は俺の思い違いを正してきた。
「曽祖父の教えはあくまで教訓というか、指導的なものですよ。思想的なものでは一切ないですね。私は私100%で、あなたを信奉しています」
「……………………怖ぁ」
盛大な空振りを恥ずかしがる間もない。この人、心の底から、誰の影響もなく俺を……その、なんか、信じている。
ていうか振り回してる自覚あるのかよ! 何だかんだ常識的なところもある人だなあと思ってたら、意識的に暴走してるのか!
唖然とする俺に、香苗さんは頬を赤らめ、堪えきれないニヤケ顔を見せて、潤んだ瞳で笑いかけてきた。
「私は私、御堂香苗というたった一つのかけがえのない人、ですか……ふふ、ふふふ。嬉しいです。ふふふ」
「え、いや、あの」
「本当に、なんて暖かな人なんでしょう。これだから公平くんは、ふふふ。ふふふふふ!」
照れながら笑う彼女に、俺まで照れくさくなってくる。ご家族の前だよ耐えろ、耐えるんだ!
まあ、そのご家族はとっくの昔に面白がっているんだけどね!
「光、そろそろお客人の前で失礼だぞ」
「お主の負けじゃ、諦めい」
「父様、じいちゃん……」
「香苗がここまで言うんだ。それに本人の人柄も、素晴らしく立派じゃないか。俺は彼を、気に入ったよ」
「……っ!」
ぐぬぬ、と言いたげな悔しげな顔で。
光さんは、俺を見ていた。
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間2位、週間2位、月間1位、四半期2位
総合月間5位
それぞれ頂戴しております
本当にありがとうございます
引き続きブックマーク登録と評価の方、よろしくお願いいたします




