消えた神谷はどこへ
ダンジョン聖教五代目聖女、神谷さんの独自行動。まず間違いなくアンドヴァリやシャルロットさんを追っての行動なんだろうけど、一昨日の様子を見るに明らかに激昂してそうなのが一抹の不安を抱かせる話だ。
ヴァールやマリーさんも難しそうな顔をしている。立場ある人間にしてはやることが極端だと、その表情はありありと物語っていた。
「神谷……昔から外面は冷静沈着でもその実、誰より激しやすい性格ではあったが。もう隠居に近い形に落ち着いているのだから無茶はすまいと思っていたのだがな」
「自分が見込んだ弟子が盛大にやらかして、しかもそのまた弟子まで暴走しているときた。あいつにとっちゃまったくもって身内の不始末ってんなら、自分の手で責任を取らなきゃならないって思ってるのかもですね。ったく、いつまで自分のこと若いと思ってんだか。昔みたいな動きはもうできないって、こないだだって話していたところですよ」
このお二人にここまで言わせるほど、昔の神谷さんもかなりの直情的な性格だったのか。そして実際、御年70歳を越える現在にあってもその傾向は変わらず、と。
そんな彼女にとって弟子、孫弟子のやらかしは自分の手で糺さねばならないって考えに至るのは、ある種当然の話なのかもなあ。
真面目だからこその選択とも言えようその行動は、俺にもなんとなく分かるものだよ。
とはいえ今回は相手が悪い。シャルロットさんもA級だし、何よりアレクサンドラだ。いくら先々代の聖女といえど先代の、それもS級にもなった相手を追跡して捕縛するなんてかなりの無茶だ。
勝算はあるのか、そもそも?
「完全に単独で行動してるのか、神谷さんは。護衛とか仲間の方は一人もいないのか、まさか」
「うむ……彼女達さえ泡を食ってあちらこちらを探し回っているようだ。せめて騎士達くらいは連れて行けと神谷には言いたいところだったが、とはいえ言い方は悪いが頭数ばかり揃えたとて、アンドヴァリの前でどれだけ抵抗できるか」
「S級で、しかも昨日のスキルを見るに範囲攻撃とか普通に技のレパートリーに入ってそうだものな。シャルロットさんにしろ多人数相手にも立ち回る技は持ってるし、そうなると数の優位なんてよほどの実力者揃いでないと成立しないか」
「そして騎士団の実力者達は基本、当代聖女たるシャルロットの側についている。まあ、あちらもあちらで高は知れているが……こうなると神谷の入り込める余地などほとんどないと言っても良いだろうな」
う、うーん絶望的というか、やはり無理無茶無謀の三拍子って感じだ。
少なくともシャルロットさん陣営も本来は同じダンジョン聖教だもんで、戦力の大多数を彼女のほうに回されてるっぽいのが痛いな、こいつは。
あるいは一度シャルロットさんのほうに合流して、一丸となってアンドヴァリに挑もうってつもりかもしれないが……その場合でも予備戦力が何しに来たんだって言われ方になりかねないし。
エリスさんも渋い顔をしている。初代聖女たる彼女にとり、三世代の聖女がこうして揉め合う姿はさぞや辛いものだろうな。
「……アーデルハイドくん、ヴィルタネンくん、神谷くんの頃は手を取り合っていた聖女が今となっては相争うかあ。ハッハッハー、時の流れは残酷だねえ」
「エリス先輩……」
「まあ、仕方ない。ともかくそんなことになっているんなら、私達なりアンジェリーナさんチームなりでさっさとサークルとか過激派の拠点に踏み込まなきゃねー。目的地点がこっちとあっちで同じな以上、虱潰しにでも動いていればそのうち行き当たるだろうさ」
物憂げな顔で、それでも諦めずに冷静に今後の展望を語る。エリスさんはさすが、今は聖女としてでなく能力者犯罪捜査官としての立場で先を見据えているみたいだ。
そしてそれにヴァールも同調した。今すべきはただ嘆くこと、不安がって心配することではなく動くこと、行動すること。
すなわちサークル、およびダンジョン聖教過激派の拠点をとにかく捜査して回るのだ。その先に必ずアンドヴァリも、サークル幹部陣もいるのだから。
一つうなずき、彼女が言う。
「そうだな。だからこそ我々はここからは速やかに、事態に取り組まねばならんのだ」
「そう、ですね。悩んでいる場合ではない。とにかく、動かねば」
「……よし、ではここからは各チームごとに別れて動いてくれ! アンジェリーナチーム、エリスチーム、そしてワタシチームの三つにだ!」
話は決まった。高らかに号令をすれば、各々言われた通りのひとまとまりとなって集まり、それぞれに動きあう。
俺達もさあ動こうか、アンジェさんチームのほうに向かおうかとした……ところ。香苗さんが近寄ってきた。なんか話があるような感じだ。
なんぞや?
「公平くん。またも離れ離れとはなんとも残念ですがことは犯罪に関わる事態。伝道師としては惜しいですが探査者として人間としてはそうも言っていられないのでしょう。重ねて言いますが残念です」
「は、はあ。まあ俺も、ご一緒できないのは残念ですけど……どのみちしばらく拠点はホテルですし。毎日の朝夜は会えますよ、きっと」
「そうですね……ご武運をお祈りします。どうか、ご無事で」
「香苗さんこそ。お怪我のないようにお願いしますね」
やっぱり俺と行動したかったみたいで、しきりに残念がっていらっしゃる。
俺としても、ここ半年ほどほぼ毎日側にいてくれたこの人と離れるのは違和感があるけど……別に今生の別れでもないしね。
また朝夕には会えるよと言うと、彼女も微笑んでうなずいてくれるのだった。
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