華麗なる御堂家
しばらくのんびりと──正直あんまりできてない。緊張と不安がやはり、大きい──過ごしていた俺だったが、ついにその時は訪れた。
客間に、香苗さんのご家族様が来られたのだ。ご夫婦一組に、老爺が一人。そして俺よりちょっと年上の、お兄さんが一人の計四人だ。
「山形公平くん……だね? 香苗がいつも世話になっております。父の、御堂博です」
「母の、栄子です」
「山形公平です……いえ、ご息女様にはこちらこそ、大変なお世話になりまして」
50代そこそこくらいの夫婦。香苗さんの両親、博さんと栄子さんだ。
博さんはキッチリとした、スーツ姿に堂々とした居住まいで、こんな若造にも丁寧に接してくれている。栄子さんの方は、落ち着いた色合いの優美な着物を着て、たおやかに微笑んでいる。
なんてこったこれが上流社会のご夫婦様……うちの両親とは比べ物にならない。
考えてみれば香苗さんが初めて顔合わせした時、父はカスいセクハラをして、母は冷や汗ダラダラにそれを折檻するというコントもののやり取りしかしていない。そも、玄関の前だったし。
うちの家族が晒した恥を思い返して、俺はこれ以上ダメージを受ける前に次いで、ご夫婦様の隣のご隠居様を見た。
こちらはまた威厳バッチリでいらっしゃる。うちのじいちゃんよりちょい年上くらいだから、もう80歳は超えてそうだ。紋付袴に身を包み、こちらをジッと見て来ているお爺さんだ。
「お初にお目にかかる! 儂は香苗の祖父、そこの博の父! 御堂才蔵と申す。山形殿、お会いできて光栄ですぞ!」
「は、はい! 山形公平です! こちらこそお初にお目にかかります。あえて光栄です、ハイ!」
「……うむ! さすがは香苗の見初めた男子、話には聞いとったが良い瞳をしとる! マリアベールが気にいるわけであるな!」
何やら瞳を褒められた。別に死んだ目はしてないつもりだけど、極端に生きた目もしてないと思う。ごく普通の男子高校生の目を捕まえて、この方は何を見出したんだろう?
それにしても当たり前のようにマリーさんの名前を出したな……しかも呼び捨て。この方、才蔵さんのお父上にあたる将太さんがマリーさんの先輩だったそうだし、家族ぐるみで付き合いがあったのかな。
ここまでは何だか、穏やかにやり取りできている気がする。いや、博さんにしろ栄子さんにしろ才蔵さんにしろ、興味深げに俺をガン見してきているわけだけれども。
娘が、孫娘が、男を連れてきたんだから気になるのは当然なんだろうな。たとえば、優子ちゃんが男を連れて家に来たら俺だって気になる。
ましてやその男を、まるで神のように崇めていたりしたらなおのことだ。
……だから、だろうなあ。
さっきから俺をめちゃくちゃに真顔で見てくる、若い男の人──俺よりちょっと上くらいだから、高校生か大学生くらいかもしれない──を、俺は中々直視できないでいる。
博さんが、その人に声をかけた。
「照れていないで挨拶しなさい」
「……はじめまして。御堂光です。お会いできて光栄ですよ、救世主様」
「……は、ハハハ。山形、公平です。こ、こちらこそお会いできて光栄です、ハハハ……」
「はははははは」
ヤバぁ……瞬き一つせずに見てくるよこの人ぉ。絶対照れてない。
敵対的でこそないみたいだけど、なんだろう。ねっとりとした意志を感じる。あとチラッと香苗さんに目を向けた時の熱量がスゴい。シスコンかな?
見た感じ、線が細いイケメンさんなんだけど、目の爛々した感じが色々と怖い。香苗さんはこの視線をどう、受け止めているんだ?
「光、その視線を向けるべきは私ではなく、こちらの山形公平様です。彼こそはこの世の救世主、何者にも代えられない偉大なる御方です。言われなければ分かりませんか?」
「……ですが」
「曽祖父の代わりなど誰にもなれません。いえ、誰も、誰かの代わりにはなれないはずです。お前は何か、私に夢を見すぎています」
「……っ」
何じゃらほい? 何かご姉弟で言い争う空気?
弟の光さんが、何やら香苗さんにひいおじいさんを重ねて見てる風な感じだけど、当の香苗さん的にはそれは違うぞ、的な?
誰かの代わりになんて誰もなれない、それには同感だ。能力とかできることが一緒だからと、その人を通して別の人を見るのはよろしくないと俺も思う。
けどね香苗さん。そういう感じになっちゃってる弟さんを俺に誘導させるのも大概だと思うよ? 俺、話に聞く将太さんみたいにはなれないと思うの。
「お前も公平くんを奉じなさい。彼こそは世界が待ち侘びた救世主。曽祖父も……待ち望んでいた方です。私には分かるのです。彼こそが、私が生涯を捧げて尽くすべき方である、と」
「か……香苗さん!?」
「ほう……」
「ふむ」
「あらあら」
ちょっと皆さん? 世迷言を言い出した娘へのリアクションがそれで良いんですか? 年下の男の子に生涯をうんたら言ってるんですよお宅の娘さん。
光さんは光さんで、何かショックを受けたみたいで項垂れてるし。
誰か、誰か助けてくれ! この空気、どうなってるんだ!
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