食事一つとっても"彼ら"にとっては大ダメージな話
というわけで朝飯の時間だ、やってきたステーキやらハンバーグやら洋風和風のモーニングにさっそくありつくことにする。
当たり前だけど昨日一昨日とそう変わらない見た目と美味しさの肉の塊だ、ああ朝から全然ペロリといけちゃうねこれ!
頬張れば柔らかな肉質と滲み出る肉汁が舌の上でとろけて絡まって、噛むまでもないほどだけど噛めば噛むほど旨味が歯にさえ染み入るほどに口内へと広がっていく。
感動的なまでの美味しさに脳を揺さぶられる衝撃を受けていると、脳内のアルマが楽しそうに、実にご満悦といった様子で俺に話しかけてきた。
『んーふふふ! やっぱり素晴らしいよここのステーキは、本当に毎日三食食べられる! やっぱり公平、ここには足繁く宿泊するべきだよできれば毎日最低週三日!』
相変わらずすごい無理を言ってくる。せめて週一にしてくれそれでも無理なんだけど!
実際、マジで一日三食毎度これを食べることになったらそれはそれですぐに飽きて、別のものを所望しだすんだろうに。まあテンションが高くなるのも理解できるくらい本当に美味しいわけだし、気持ちはわからなくも無いんだけどね。
リーベやヴァール、シャーリヒッタにミュトスも各々頼んだ食事を美味しそうに、そして楽しそうに食べている。
それぞれ洋風、和風にハンバーグ。個性が出て良いね、こういう注文の差異ってのは。
「んー! 美味しいですー! 熱々のトーストにバターを乗せて、オムレツもふわふわで!」
「和食の味わいはソフィアの好みだが……ワタシとしても悪くはないな。あの子に代わるべきかもしれんが、まあTPOというのもある。せめて美味しくいただくとしようか」
「あー、美味い! 由紀サンの手作りもすげー美味かったけど、ここのはまた味わいが違って面白いぜ!」
実にモーニングって感じで、見るからに柔らかなオムレツにデミグラスソースがかかってるのを、熱々のトーストと交互に頬張るリーベ。
白米に味噌汁やお漬物、納豆に焼き魚とまさしく日本食って感じのラインナップを淡々と、しかし器用に箸を使って丁寧に食べていくヴァール。
熱した鉄板の上、じゅうじゅう焼ける肉の音が堪らないハンバーグにナイフを入れ、フォークで突き刺し肉汁滴らせつつも頬張るシャーリヒッタ。
ハンバーグはこないだ、首都圏行きの前日に母ちゃんが作ってくれたなあ。高級ホテルのソレにも負けないと言ってくれるシャーリヒッタを見れば、きっと母ちゃんも喜ぶだろう。
かくいう俺ももちろん、家のハンバーグは大好きだけどね。やはり実家の味は落ち着くし、舌に馴染みがあるものね。
俺自身もステーキに舌鼓を打ちつつ眺める三姉妹。いずれも美味しそうに食べていて、見ているこっちがなんだかほっこりするよ。
そしてもう一人、俺と同じステーキを俺の倍の量、頼んだミュトスを見る。
──いそいそとナイフとフォークを動かし、肉を口に入れてはよく噛み、そして満面の笑みを浮かべる彼女がそこにいた。
「っかぁー美味しいー!! いやーへっへへへ、もうなんか笑顔が溢れちまいますってこんなの、この世界スゴすぎでしょもー!」
「お褒めに預かり何より……ステーキみたいなのって、君の元いた世界にもあったと思うんだけど、やっぱりぜんぜん違う感じ?」
「まるきり別物ですよコマンドプロンプト様! まず味以前に噛み応えがもう……! 固くないし筋張ってないし、本当にコレお肉ですかっ!? って感じで、どひゃー!!」
俺のふとした疑問にも、テンションマックスで答えつつ肉を噛みまくるミュトス。
なるほど、味より先に肉質からして違うか。そうだよな、現代社会においては牛さんのクオリティからしてこだわってるものな、お肉屋さんや牧場の人達は。
この子がかつていた異世界の場合、魔天にしろ断獄にしろ災海にしろ、あるいはアルマの世界にしろ……
中世ファンタジー的世界観とか発展してても近代の産業革命期頃って感じで、今のこの世界ほどに文化文明が発展しているわけじゃなかった。
もちろん、それぞれの世界も宇宙は広い。探せば超文明とかあるかもなんだけど、いずれの世界の現世も人間あるいはそれに近しい存在が現世のメインプレイヤーだった頃に邪悪なる思念に取り込まれている。
それゆえにどうしても基準としては、彼らの文明が途絶えた時点をその異世界の発展度合いとして見るしかないんだよね。
で、そんな観点からするとこの世界の食文化は未知にしてもはや失われた未来そのものの食事なわけでして。
クオリティ的な意味でも、もう訪れることのない未来を想起させる的な意味でも、ミュトスにとってはいろいろ感慨深い味なんじゃないかなーって思うかもしれないね。
実際、食べながらミュトスもそんなことを言ってるし。
「私の中にいらっしゃる三界機構の方々が、非言語ながら思念だけで訴えかけてきてます。喰われなければ、我らが不甲斐ない敗北を喫さなければ──我らの世界にも、こんな実り豊かな未来が待っていたのだろうか、と」
「ミュトス……」
「…………きっと、そうなんでしょうね。でも、もうそんなイフも失われた。だから今、こうしてここに私がいる。本当に、運命とはなんと冷徹で残酷なものなのでしょうか……」
三界機構をその身に宿すため、俺がアルマの思念を受け取るように彼女も彼らの思念を受け取っているのだろう。
察するに余りある無念だ。罷り間違えば俺達だって彼らの仲間入りを果たしていたんだ、その悔しさを理解できないはずもなく。
しんみりとした空気の中、俺は、三界機構それぞれが辿るはずだった未来に。
もう訪れることのない彼らの未来に、想いを馳せた。
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