戦い終わって、とりあえず飯だ飯!
式典館に戻ると、すでにS級探査者認定式は完全にお開きとなってお偉いさん方も帰っていったみたいだ。
機材やらの撤収、後片付けなどでスタッフさん達が奔走する中を、俺達は手っ取り早くワームホールを使って戻ってきていた。
「ただいまーってノリでもないけど。はあ、やっと終わったー」
「……この距離を一瞬でとは。すごいな、シャイニングさん」
「やっぱチートねこれ、マジ欲しいわ私もこのスキル! ね、ランレイ!」
「う、うん。えへへ……世界のどこからでも一瞬で自宅に帰れる、素敵……」
式典館内は昼間、俺とヴァールとマリーさんが控えていた部屋に直通ルートで到着。愛知さんにアンジェさんにランレイさん、加えて神奈川さんとステラも一緒だ。
初めての空間転移に愛知さんは唖然として俺を見て、アンジェさんとランレイさんはもう経験済みということで相変わらず羨ましがってきている。
この二人の場合、ステラの空間転移を利用する場面もあったろうから慣れた様子ではあるね。同様に神奈川さんも、当たり前のようにワームホールを潜り抜けていった。
着いた先の部屋にはすでに先客もいた……ヴァールとマリーさん、そして香苗さんだ。予め連絡しておいたんだけど、きっちり出迎えてもらえるのはありがたくも面映いね、なんだかさ。
「山形公平。それに愛知、アンジェリーナ、ランレイ。神奈川にステラもよく無事に帰ってきてくれた」
「ファファファ! お帰りみんな。疲れたろ、ひとまず椅子に座ってお茶でも飲んで落ち着きなよ」
「お疲れ様です、みなさん。今日は朝から晩まで本当にお疲れ様でしたね」
三人揃って温かく迎え入れてくれて、促されるままに俺達は椅子に座って一息つけた。
体力的には全然余裕だけど、やっぱ気疲れしたよ。下手を打てば一般の方々の生活や人命にさえ、危害が加わりかねない状況だったんだものなあ。
特に初っ端のウーロゴスは本当にヤバかった。あともうちょいでヘリが複数市街地に墜落なんてことにもなりかねなかったんだ。
今さら危機的状況だったことに気付いて背筋が震えるよ。誤魔化すように茶を飲めば、すっからかんの胃袋にスーッと冷たさが染み渡っていった。
ていうか、腹減ったな。
時刻もなんやかやもう21時過ぎだ、昼から何も食べてないんだからそりゃお腹も空くよね。
意識したら腹の虫が鳴って、俺は静かに溜息を漏らした。
「なんか美味しいものでも食べないと労力に見合ってない気がする……今日の晩御飯はどこかで豪勢めにしたいなあ」
「お疲れ様です公平くん。それでしたらホテルに戻り次第、最高級のディナーを用意してもらいましょう。今日は一日、認定式のために東奔西走してくださって本当にありがとうございました」
「あ、いえ。香苗さんこそ今日は大役お疲れ様でした。いろいろありましたけど、なんとか無事に終われて良かったです」
「ええ、そうですね」
ぼやく俺に、すかさず香苗さんが話しかけてきてくれる。今日の式典の主役ということで一番疲れているだろうに、そんな素振りを少しも見せずに俺を気遣うなんてこの人らしい。
だからこそ俺も彼女を労えばお互いくすくす笑い合う。なんだか我ながらくすぐったいやり取りだなーって思っていると、コホンと咳払いを入れつつヴァールが全員に告げてきた。
「──さて、諸君。改めてご苦労だった。おかげでS級探査者認定式は成功に終わり、サークルやダンジョン聖教過激派の野望は挫かれしかもその戦力を著しく削ることができた」
「この場にいる面々だけでなく、戦いに加わったすべての者達の奮闘あっての成果だよ。本当にありがとう……WSO統括理事ならびに特別理事として、心から感謝申し上げるよ」
マリーさんともどもそう言って、深く頭を下げて感謝を示してくる。責任ある立場としての振る舞い、その重みをも感じさせる所作だ。
こうして告げられると、改めて長い一日が終わったんだなーって気持ちになるよ。アンジェさん達も同じ想いのようで、一気に肩の力が抜けて空気が弛緩していく。
そんな俺達をさらに労うように、WSO統括理事は言ってくれた。クールな無表情もどこか柔らかく、微かに口元が微笑んでいる。
「もろもろの報告、および積もる話もあろうがひとまずはホテルに戻り明日の朝、会合を開いて話すこととする。今日のところはこの場にいない者も含め全員、疲労困憊だからな……ミュトスやシャーリヒッタさえ疲れているのだから、これは一晩ゆっくり休んでもらってからのほうが良いと判断した」
「え。マジかあの二人、なんか怪我とかしたのか?」
「気疲れだよ、単なるな。忘れがちだが彼女らは今回が初戦で、しかもほぼ初対面の面子の中に混じっての連携作業がメインだ。実力的にはなんら疑うことはないが、精神的にはな」
なるほど。ミュトスにしろシャーリヒッタにしろ、基本的にはこれまでずーっとシステム領域にいたのが今回、初めて現世での活動に参加した形になる。
しかもいきなりすごく大規模な、多くの人と連携してこの国の秩序を守るための戦いにだ。いくら精霊知能ったって疲れるよな、俺だっていくらか疲労してるわけだし。
聞けば他の面々、サウダーデさんやベナウィさん、エリスさんや葵さん、リンちゃんだって戦い通しだったからひとまず休ませたとのことだ。
それにもう夜も深まってきてるしね。こんな時間から疲れ切った人達を集めてさあここからさらに話し合いだ! ……なんてのはさすがに無茶だ。
「というわけでみんな、今日のところは宿に戻ろう。御堂香苗の言うようにディナーは手配してある。いくらでも好きなものを好きなだけ食べて、風呂にでもゆっくり入ってしっかりと寝て。今日の疲れを癒やした上で明日の朝、話の続きを行うぞ」
それゆえのヴァールの指示に、俺達も一も二もなくうなずいた。
長い一日が、幕を下ろしたんだ。
次回から新エピソードですー
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