山形専用保管庫に悪魔セーレをシューッ!!
撤退していくダンジョン聖教。おまわりさんといくらかやり取りをしてから速やかに姿を消したシャルロットさん率いる一団は、まったく淀みなく統率された戦闘集団って感じがいかにもする。
シャルロットさんとは、今後の戦いにおいても度々出くわすことになりそうだな……アンドヴァリの弟子であり後継者という立場柄、やつのやり口にはそれなりに精通しているだろうし共闘できるならしたいところだけれど。
どうにもWSOに思うところがあるみたいで、敵対とはいかないまでも独立独歩のスタンスっぽいのがなんとも難しいところだね。
今日に至るまで多少、行動を一緒にしていたらしいアンジェさんやランレイさんが俺の近くにやってきて、シャルロットさんへのアレコレをぼやいてくる。
「ああもう、あの猪突馬鹿ったらやりたい放題してくれて! ごめんね公平、あんたの手を煩わせちゃって!」
「あ、いえ。こちらは大丈夫です、アンジェさん」
「シャ、シャルロットちゃん……いつもはもっと優しいのに。や、やっぱり師匠と戦うの辛いのかなあ、可哀想……私なら師匠と戦えるのう、嬉しいけど。積年の恨み、晴らせるしぃ……」
「えぇ……?」
怖ぁ……アンジェさんはともかくランレイさんが地味に物騒だ。師匠って星界拳のかな? いろいろスパルタに鍛えられたのかな、気になる。
ていうかシャルロットさん、やっぱり今日はちょっと様子がおかしかったのか。まあ一大決戦を控えた上、相手はかつての恩師だものな。ナイーブになるのもうなずけるところはある。
と、神奈川さんに透明のままのステラもやってきた。すでにスキル《聖剣》は引っ込めていて、一時的にステラのステータスを借りる形でオペレータになっていた神奈川さんも非能力者に戻っているね。
こちらもこちらで、ライバルとも言える瀬川を相手に思うように戦えなかった悔しさを滲ませつつ、俺に会釈してきた。
「山形さん、お疲れ。あの、さっき瀬川にクリーンヒット入れられた時って、あんたがいろいろしてくれたんだよな? ステラがもしかしたらって言ってるけど」
『敵意を遮断するバリアに、いきなり一撃だけ入れられたのってそれしかないですよね。あなた以外にできる事象でもないですし』
ステラもだけど、瀬川のバリアを貫通できたのが俺の因果操作によるものだというのは気付いてらっしゃるね。当たり前か。
聖剣と神奈川さんの感情を切り離して、無理矢理"敵意のない攻撃"に仕立てたんだ。彼の思想信条や思考そのものには介入しなかったものの、あの斬撃だけは本人からしても違和感のあるものだったことは間違いない。
ちなみに因果操作で神奈川さんから敵意そのものを取り除くこともできなくはなかったけど、さすがにそれは憚られた。
いくら厄介なギミックを突破するためとはいえやって良いことと悪いことがある。他者の感情や意思を無理矢理捻じ曲げるなんて、俺個人の信条として断じて認めるわけにはいかないやり方だよ。
そんなわけで精々のところ、聖剣と使用者の感情を切り離すってのが俺にできる最大の妥協点だった。
あれでもし効かなかったらと思うとゾッとするよね。うまい具合に策がハマって一安心しつつもカップルに返事する。
「お疲れさまです二人とも。あー、まあちょっとだけ介入はしました。すみません勝手なことをしてしまって」
「いやいや、マジに助かったよ。ありがとう、おかげであの野郎にようやく一撃かませたぜ。敵意ある攻撃が効かないなんて、どんだけふざけてるんだかな、アイツ……」
『お力添えをいただいたのに瀬川聡太を逃してしまいました……申しわけありません山形様、お手間を取らせておいて』
「ステラも気にしなくて良いよ。むしろこっちこそごめん、こいつとさっき結んだ契約の関係から今回だけは瀬川を見逃がした」
『…………』
半透明の悪魔、セーレを指差す。
黙りこくってじっと周囲に視線を巡らしているけれど、どことなく不安げというか所在なさげではあるな。
精神体だから俺以外の誰にも干渉されないわけだし、もうちょい普通にしてでも良いと思うんだけどまあ無理か、敵陣真っ只中みたいなもんだろうし。
この悪魔についてはこの後、WSO統括理事たるソフィアさんに引き渡す……という体でおそらくだけど俺預かりになるだろう。こいつと契約結んでいるのが主に俺だし、受肉しているわけでもない精神体に干渉できるのも俺くらいなもんだしな。
と、いうわけでワームホールを開こうかね。接続先は現世ではなく概念領域でもなく、さりとてシステム領域でもない。
概念領域もシステム領域の狭間にある、数億もの次元層からなるデータ格納用領域。そのほんのちょっぴり隙間に拵えといた、俺専用の空間だ。
いきなり何を言ってるんだとなるかもしれないけど別にいきなりでもないんだな、これが。
モンスターのドロップした素材、いつも適当に謎空間に放り込んでるんだけど実はそれがここなんだ。神魔終焉結界にワームホール生成機能を組み込む際、同時に俺ちゃんの俺ちゃんによる俺ちゃんだけの専用空間を拵えておいたのだ。
時間の概念、テクスチャの外側にあるその場所なら概念存在一体、放り込んで隔離しておくにはちょうどいい空間だろう。
ちなみに現世存在は素のままでそこに入ったら死ぬので注意してほしい。本来この世界の万物に備わるデータを格納している領域なので、酸素なんてあるわけもないしなんなら実体なんて保てやしない。
つまりは精神体のセーレだから心置きなく案内できるのだ。
時間も流れてないから、こいつからしてみれば入ったと思った瞬間出されて、そしたらそれなりに時間経過してましたーみたいな感覚になるだろうけどね。
そのへんの細かい話は抜きにして、ざっくり悪魔に協力を求める。
「というわけでセーレ、少しの間だけとある空間で眠っていてもらう。入った瞬間意識がなくなるだろうけど、たぶんこの世のどんなところより誰からの干渉も受けないセーフゾーンだ、安心してくれて良い」
『分かりました……新たなる契約者よ、約束を守り聡太を見逃してくれたあなたに、改めて感謝を。ありがとうございます』
「礼はいいから話せることはちゃんと全部話してくれよ? じゃ、一旦だけお休みだ。ワームホールよ、開け」
契約したからか従順になったセーレの眼前にてワームホールを開く。最初は多少躊躇ったみたいだけど、そう時間もかけずにすぐ、中へ入っていく。
これで悪魔の捕縛も完了だな。やれやれ……長い一日も、ようやく終わり迎えられそうだよ。
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