絶対に許さないぞ山形公平、絶対にだ
俺が因果操作を封じたことにより、事実上瀬川聡太に手出しできる者がこの場にいなくなった。
バリア突破の条件は分かっているものの、どう考えてもこの場にその条件を満たせる人がいない。よほど戦士として成熟した境地に立つ人、それこそマリーさんやサウダーデさんクラスじゃないと無理だろう。
ましてや鉄火場の中、空気そのものが殺気立っている現状では余計に余人には不可能だ。
アンジェさんやランレイさんにさえ、愛知さんにさえできないと思われる。なぜなら──
俺はコブラツイストを解除し、それでもセーレの腕を掴んで逃さないようにしながらも瀬川のバリア、このモノが与えた権能の正体を告げた。
「《敵意が込められた行動の影響を受けない》……瀬川聡太のバリアの正体はそれだな、悪魔セーレ?」
『…………はい。彼には、彼に対してのみならずいかなる種類であっても敵意や殺意、戦意の篭った行動によっては一切止められることのない権能を与えました。誰にも傷つけられないように、誰にも害されないようにと』
あっさりと答えるセーレ。まあ俺との契約がある以上、もはや隠し立てなどできないだろうしな。
そう、瀬川聡太の異常なまでに堅牢なバリアの正体はとどのつまり、あらゆる敵意のシャットダウンこそが本質だ。敵対者からのすべての行動の影響を受けないわけだから、今まさに敵意バリバリで攻め立てているこちら側がやつに有効打を入れることなど不可能なのだ。
だからさっき、俺は因果操作を用いて聖剣から神奈川さんの敵意を切り離した。そしたら瀬川にダメージが通ったわけだね。
斬りかかりながらも話を聞いていたアンジェさんやランレイさん、神奈川さんが弾き飛ばされながらもこちらを向いた。さすがだ、瀬川に仕掛けつつも俺とセーレのやり取りに耳を傾けていたのか。
「敵意、戦意の篭った攻撃を無効にする……!? ふ、ふざけんじゃないわよ!? そんなのどうしろってのよ、本当にチートじゃないこいつ!」
「つまり無我無心の境地に到る必要があるのか……! 試してはみるが、未だそこまでの境地に至れている自信は、正直に言えばないな」
「どうやってそんなことを見抜いたのか。瀬川に力を与えたそこの悪魔もすさまじいけど、シャイニングさんも相当異様だね」
激高して叫ぶアンジェさんと、苦々しくも未だ到れてないだろう境地に呻くランレイさん。
愛知さんも、俺がそこまでドンピシャでバリアの性質を言い当てたことに驚愕してじっと俺を見てきている。
お二人や愛知さんが実力不足ってわけでは決してないのが余計に質が悪いんだ、これが。
バリアさえなければこの人達なら、瀬川程度なら逆に傷一つ受けることなく叩きのめせることだろう。本当にセーレの権能によってのみ、やつの厄介さは成立しているんだ。
戦う上で常に付きまとうもの、敵意や戦意。それらを排してまさしく明鏡止水、無我夢中の境地で攻撃を仕掛けるなんてのは、どう考えても達人中の達人にのみ可能な所作といえる。
俺の知り合いの中で現状、そんな領域に到っている可能性があるのは武術の心得がありかつ、数十年にも亘り研鑽を続けてきたマリーさんあるいはサウダーデさんくらいしか思い当たらない。
そしてそのお二人も今ここにはおらず、別々の場所でそれぞれ仕事をしているから呼び出すわけにもいかない。
ゆえに現状、俺がセーレとの契約を履行する形で瀬川への手出しを控えた時点でやつをどうにかすることは事実上、不可能になったわけだね。
シャルロットさんがふう、と息を吐いた。
「どうやってかは理解しかねますが、悪魔の力を瀬川聡太は借り受けている、と。過去、あの男が一度だけ手傷を負った場面を目にした機会がありましたが、思えばアレも戦闘由来ではなくたまたま瓦礫が当たった結果でした。そのようなからくりがあった、と言うのですねシャイニング山形」
「信じるかどうかはお任せしますが、こちらとしては断言します。あの男には捕らえよう、倒そうと思っている限りはまず届かない」
「…………騎士達よ。攻撃を止め、周囲の敵をこそ拘束なさい。何をも知らぬ走狗どもでしょうが、少しでも敵の情報につながるならばそれで良し。公安警察に引き渡し、吐かせるだけ吐かせるのです」
「っ! 探査者側も、他の構成員を捕まえて警察に引き渡しの準備を! 瀬川はこの際もう無理です、こちらも逮捕できるだけ逮捕するようにお願いします!」
一瞬だけ考え込んで、すぐにシャルロットさんは号令を発した。現時点では瀬川の攻略法が見出だせないから、代わりに周囲のサークルや過激派の構成員を捕まえて取り調べる方向に切り替えたか。
それを受けてアンジェさんも、能力者犯罪捜査官として周囲の探査者達に指示を投げた。ダンジョン聖教だけにすべては任せられないって鼻息荒いのは、やはり先程の苛烈な行動が尾を引いているんだろうね。
ランレイさんや神奈川さんも、悔しげに歯嚙みしながら瀬川をただ見つめた。
いつの間にやら脇腹の傷も癒え、静かに転移が始まる──最初にまずダメージを治療し、次いで逃走させるか。いずれもセーレの権能だな、本当にどれだけ加護を与えたんだ?
「セーレさん! 僕は……!!」
『聡太、ここからは私抜きです。あなたは一人、現状を切り開かなければなりません』
「…………っ、セーレさん」
『少し早いですが巣立ちです。やってみなさい、思うがままに。それがどんなものであれどんな形に落ち着くとしても、私はあなたを見守っています。我が契約者よ、どうかその行く末に己の信念あらんことを』
優しく微笑み、瀬川に言葉を投げかける。悪魔と言うにはあまりに温かい、慈愛に満ちた微笑み。
瀬川は唇を噛み、血が出るほどに噛み締めて。それでも頷き、そして俺を睨んだ。憎しみの瞳だ。
それを真っ向から見返しながら──やつは、権能によってここではないどこかへと転移していった。
最後に一言、捨て台詞を残して。
「シャイニング山形……お前だけは、絶対に許さない……!!」
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