踊れ瀬川ァ!鳥のようなダンスをォ!!
瀬川聡太の脇腹を薙いだ神奈川さんの聖剣、潜在的な力を発動して放ったらしいその技の名はパス・オブ・ヘヴン。
クリーンヒットだ……しかして傷は浅い。バリアを貫通してなおこの程度で済んでいるあたり、どうやら肉体のほうもかなり強化されているみたいだな。
いや、本当に過保護というかめちゃくちゃ世話焼いてないか、この悪魔? いくらなんでも特定個人相手に施すにはやり過ぎなくらい恩寵を施してるんだけど。
これも契約の範疇なのか? 一体どういう契約の下にここまで優遇してるんだか知らんけど、それだけ瀬川が特別な立ち位置にいるってことなのかね。
「ぐうっ!? ……ば、馬鹿なっ!」
『聡太!? そんな、私の権能が!?』
「入った!? ってか、今の感覚は一体……」
斬られたほう、瀬川が驚きに大きく目を見開いて咄嗟に脇腹を押さえるも、むしろ斬ったほうである神奈川さんのほうが驚いている。
ダメ元で放ったんだろう一撃が通ったことへの驚愕もあると思うけど、それ以上に斬撃の際に襲ったんだろう異質な感覚が、彼を戸惑わせているものと見た。
そう、俺の因果改変による影響だね。《聖剣に敵意は乗らない。だからその斬撃にも敵意はない》──神奈川さんの、瀬川への敵意が聖剣に込められないまま攻撃が放たれたと原因を改竄して、結果であるパス・オブ・ヘヴンにも敵意が乗らないようにしたのだ。
元々敵意ありきで攻撃していた彼からすれば、違和感を覚える攻撃だった形になる。そりゃー異様だろうさ。
とはいえ、今の因果改変は俺にとっても結構リスキーだった。何せ本来この世界のものではないモノ、ステラと紐づけしているからかろうじて因果が存在しているものに対して無理矢理介入したんだ。ぶっちゃけ反動がかなり来ている。
具体的に言うと頭痛に腹痛、全身の筋肉痛に吐き気に倦怠感。おそらく発熱もしてるだろう。重めの風邪を引いた時みたいな感じだね。
一時的なものだろうから小一時間すれば収まるだろうけど、まあまあしんどくてため息を漏らす。
まいったな、やるしかなかったとはいえあの程度でもこのレベルか。瀬川のバリアを破るために必要だったとはいえこれはキツイ、毎度こんなことしてられないよ。
このやり方はさっき限りとして、後は実際に戦う人達にどうにか打開策を練ってもらえたらと思うけど、どうなるやらね。
「…………うーん。結構来るな、負担」
『お前の本体ならまるで問題ないだろうに、大変だね脆弱な人間の肉体は。あんまり多用しすぎるなよ、反動で味覚とか失ったら誹謗中傷しまくるぞ』
「えぇ……?」
思わずぼやく俺に、脳内のアルマさんが心配してるんだか脅迫してるんだかよくわからないことを言ってくる。
たしかに、予想外に肉体が脆弱なのは認めるけど誹謗中傷はやめてほしいよ、ネットの荒らしじゃあるまいに。
まあもう二度としないから勘弁してほしいと答えていると、コブラツイストで拘束しているセーレが悲痛な叫びをあげた。
斬り裂かれた瀬川へと、呼びかけたのだ。
『聡太ぁっ!! 逃げなさいっ、私のことは良いから早く!!』
「せ、セーレさん……!」
『私がいなくても歩きなさい、あなたの道を! あなたならやれる、私はそう信じている! ────行け、瀬川聡太ッ!!』
「……………………必ず、迎えに来ますっ!!」
致命傷でないにしろ結構な傷を負って、しかも絶対だったはずのバリアを破られての動揺もある。このままではセーレの奪還は不可能だと、瀬川自身も感じ取ったんだろうな。
悪魔からの言葉を受け、やつはすぐさま退いた。それに追い縋り斬りかかる神奈川さん以下探査者達だけどバリア自体はまだまだ健在だ、反射されて吹き飛ばされている。
うーん、これが任意発動型ならさっきの因果改変、そもそも権能自体を無効にできたんだけどね。《セーレの権能は発動しないから、瀬川聡太のバリアは発動しない》って感じで。
でも実際にはやつのバリアは常時発動型だから、それを無効にするとなると下手すると数年前に遡って過去改変しなきゃいけなくなるわけで。
さすがに死ぬわ、そんなことしたら。
偽りの神の器の時も、そもそも因果がなかったことを差っ引いても《玄武結界》が常時発動に近い形で展開されていたので手出しできなかったんだが……瀬川のパターンも似たような形で因果方面からの対策はちょっと厳しいかもしれない。
まあ、タネは割れてるから対応はいくらでもできるんだけどね。
「逃がしません……《光魔導》バードケージ・プリズンサジタリウス。攻撃が効くかは分かりませんが、鳥籠そのものに今は意味がありましょう」
逃げようとする瀬川を追撃するため、ついにシャルロットさんまでスキルを発動する。
再度現れる鳥籠……バードケージ。攻撃は二の次として、本命は現出するそれそのものによる瀬川の退路封鎖か!
意外に使い勝手が良さげだな、彼女の《光魔導》。どうも鳥籠ってのが不穏だけど、それは俺の気にするべきことでもないか。
とにかくバードケージが構築されていく。瀬川はそれを、脇腹を押さえながらも回避した。
「っ! 聖女シャルロット!!」
「気安く名を呼ばないように。ちなみにバードケージはいくらでも作れますよ──バードケージ・ヴァルゴスプリズナー」
「ぐ、ぅぅっ……!?」
「その怪我、そう長くは動けないでしょう。力尽きるまで続けるのも悪くはないかもですね。そら踊りなさい、あなたはどこへも行けない籠の鳥。雨に打たれて倒れても、顧みられない渡り鳥」
怖ぁ……めちゃくちゃサディスティックじゃん。
言葉通り、次々にバードケージを乱立させるシャルロットさん。それを必死のステップで回避する瀬川も、言う通り怪我して血を流したままなので、いずれは力尽きるだろう。
これは、終わりかな。
すっかり夜も更けてきた自然公園に、光の鳥籠が眩いばかりに乱発される中。
『────権能、発動。《私は約束を護るモノ》』
俺に拘束されたままのセーレが、そんなことをつぶやいた。
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