突撃!御堂のスゴイ家
香苗さんは今日、ここに来るのに自前の車で来ていた。いつぞや俺の高校に来た時と同じ、すげぇ派手で真っ赤なスポーツカーだ。
その助手席に乗って俺は、軽快に車を走らせる香苗さんと共に、彼女の家を目指していた──まあ、やたら交通量が多いからちょくちょく止まるんだけど。
「この県はこれがあるから嫌なんですよ……信号も多いし、車の量も多い」
「じゃあなんで車で来たんです……」
「そっちの方が早いと思ったんです。実際、行きはスムーズでした。帰りを想定してなかったのは、ミスですね……すみません、手間を取らせます」
「いえいえ」
申し訳無さげに香苗さんが謝ってくるが、俺からしたら何ていうか、こういう初歩的っぽいミスをするこの人の姿は新鮮だから得した気分、っていうのも変だけどそんな感じになる。
思えばこの人、何をするにも卒がないんだよな。探査者としてのあれやこれやはもちろん、何のかんので大人としてもしっかりしてる。
狂信者としての言動だけはどうかと思うが……あれも本人からすれば順調だろう。何しろ着々と例のチャンネルの登録者数、増えてるし。望月さんも似たようなことしてるからか、相乗効果でブーストしているみたいだ。
そう考えると割と完璧超人、やりたいことをやりたい放題している。そんなこの人がちょっとしたとはいえ、明確なミスをしてるところなんて初めて見たかもしれないな。
「ゆっくり行きましょうよ。香苗さんとこうしてるの、結構楽しいですよ、俺」
「………………」
「香苗さん?」
「……安全運転で行きます」
「そうしてください」
顔をほんのり赤く染めて、香苗さんは照れたように黙った。
……とんでもないこと言ったな、今、俺。
釣られて顔が火照る。何やってんでしょうかリーベさぁん、助けて〜
『口説いた直後に別な女の子に助けを求めるの、正直かなりクズいですから、止めといた方が良いですよー?』
アッハイ。気をつけます、すんません。
乙女心に詳しいリーベ様からお叱りを受け、俺も押し黙る。
ちょっとした静けさの中、車だけは走る。
不思議とこんな空気が嫌じゃないのが、なんだか余計に照れくさかった。
そうして車の走ること約、1時間。
県の組合本部を越えて、俺たちが泊まっていたホテルからさらに大通りから離れた路地に車は進入した。古い、いかにも名家でございって感じの大きな屋敷があちこち立ち並ぶ。怖い。
えっ、こんなとこに香苗さんのお家、あるの? ごく普通の一軒家とかがこの先にあるのかな? あるって言って欲しいな〜。
そんな俺の、健気な願いにも拘わらず。車はやがて、一際大きな屋敷の前に止まった。なんか門の前に警備員さんいるぅ……
「着きました。ここですよ、公平くん」
「デカぁ……」
「降りましょうか。駐車は後は、警備員の方がしてくれます」
もはや顔パスってか、香苗さんのお家だから香苗さんの顔見たら当然なんだろうね。門が勝手に開いていく。
警備員さんたちがやって来た。香苗さんの言うように、マジで車を駐車場まで片付けるつもりみたいだ。金持ちだよぉ……
もはやなすがまま、車を降りる。呆然と立ち竦む俺の手を取り、香苗さんは門をくぐって中へ入っていった。
門をくぐると正面には大きな屋敷の入口一つ、左右を見ればなんとも見事な日本庭園。いや俺、別に日本庭園に詳しくはないんだけど、素人目に見てもすごいと思う。
ていうかデケえ、そしてすげえ! 嘘、何? 香苗さんあなた、何者なんでございまして!?
「香苗お嬢様! ようこそお帰りなさいました」
「お帰りなさいませ!」
「あわわわ……」
入口には執事服のお爺さんと、左右に割烹着の女中さんがずらりと勢揃い。整列して、香苗さんを出迎える。
もう目眩でぶっ倒れそうだ。帰りたい。何ならまだ入院してても良かった。俺はどこに連れて来られた? ここはどこだ?
混乱する俺を尻目に、香苗さんはお爺ちゃんと気軽に話をしている。
「お久しぶりですね、じいや。私の、救世主を連れて帰りました」
「聞き及んでおります。山形公平様……ですね?」
「へっ!? あ、は、へ、へひ、はい山形ですぅへへ、へへへ〜」
ああああ緊張でヘラヘラしちゃったああああ! シャイニング山形のインタビューと同じことしてる、俺ええええ!
痛恨だ! 最悪だ! 女中さんたちの視線が刺さる、死ぬぅ!
立ち尽くし、けれどあからさまに取り乱す俺を、香苗さんが背中を擦って落ち着かせてくれる。
「公平くん、大丈夫ですよ。じいやは、顔は怖いですが心根は優しい人です」
「……緊張を解そうかと思っとりましたが、逆効果でしたかな。というか、救世主と仰られますが中々、なんというか……少年ですなあ」
悪いことをしたとじいやさんが頭を掻いた。いいえ悪いのは僕です。緊張するとヘラヘラしだす僕が悪いんですごめんなさい。
フォローするかのように、香苗さんがすかさずじいやさんに答えた。
「この方はこういう方なんです。どれだけご自分がすごいのかの自覚なく、ただの少年のように振る舞う」
「ふむ。あの巨大な竜をも救い、そして代償に倒れられたと仰っておられましたな、お嬢様」
「はい。誰かを救う時には、自身の何もかもを燃やして手を差し伸べるのに……ふふ、何でもない時には、ただの男の子なんです。優しくて素敵な、可愛い私の神様です」
そう言って、頭を撫でる香苗さん。俺としては恥ずかしいので止めてほしいけど、もう何を言ってもドツボにはまっちゃってるので何もできないししない方が良い気がする。
俺たちを見て微笑む、じいやさんが不思議と印象に残った。
この話を投稿した時点で
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