ナニカが来たりてコブラツイスト
唸りうねる大地、自然公園。
発動したアンドヴァリの《土魔導》の技に対して、いきなりのことで足を取られバランスを崩す。俺だけでない、この場にいる敵味方すべてが同様だった。
「これは、アンドヴァリ……!」
「うわわわっ!? た、立ってられない!」
「聖女様っ! わ、我らをお見捨てにぃっ!?」
『千尋っ、まずい、一旦下がって!!』
アンドヴァリをそれでも視線で追う者。体勢を崩し、膝をついてやり過ごそうとする者。
思わぬ裏切りに目を極限まで見開き、絶望の嘆きをあげる者。そしてパートナーを想い叫ぶ者。
ダンジョン聖教も能力者犯罪捜査官も、はたまたダンジョン聖教過激派も……三者三様、揃ってあの女の行動は予想外のものだったみたいだ。
敵対しているシャルロットさんやアンジェさんはともかく、味方のはずのサークル構成員や信者達までも切り捨てるか、アレクサンドラ・ハイネン!
このまま見逃せるかと、俺はすぐさま因果を手に取り操作した。すでにシャルロットさんのスキル封印は解除してある、次は同じことをアンドヴァリに行うだけだ!
「《アンドヴァリのスキルは不発に終わったから、土魔導は発動し》────」
『アレクサンドラもどうかと思いますけどね。それでもあなたはあなたでやりすぎですよ、シャイニング山形』
「────何っ!?」
因果操作によるスキルの強制無効化を実行しようとした矢先、はげしく揺れる地面、グラつく視界の横合いから何者かの声がして、俺は咄嗟にそちらに対応せざるを得なかった。
右手を伸ばし、向けられる腕を掴む。いきなり現れた気配、人間のものじゃない──概念存在! 空間転移に近い権能で、一気に距離を詰めてきたな!
何者か誰何を問うまでもなく、俺はそのまま掴んだ腕を捻り上げてコブラツイストの体勢に移行。
完全にそのモノを封殺してから、改めて因果操作を実行する!
「《アンドヴァリのスキルは不発に終わったから、土魔導は発動していない》!」
『ぐうっ……!? じ、受肉していない私にさえ干渉するのですか!? シャイニング山形、あなたは、一体……ッ!?』
「お前の相手ならアンドヴァリを捕えてから存分にしてやる、今は黙っていろ!」
今度こそ完全に弄れた、原因と結果の改竄。崩落と言っていい有り様でなおも揺れ続けていた自然公園が、何事もなかったかのように元の姿に戻っていく。
すっかり日も暮れた夜の公園、過激派の連中は未だ倒れており、なんならそこに大地の揺れに耐えかねて倒れ伏しているサークル構成員達も加わっている。
こちらも似たような状況だ……アンジェさんやランレイさん、愛知さんは素早く体勢を整えたが、シャルロットさんはじめダンジョン聖教騎士団と神奈川さんはまだ若干戸惑っている。
激しい揺れから一転して静寂に切り替わったんだから当然か。とはいえ実力差がそれなりに見える形だな、シャルロットさんもA級相当だろうけど、トップランカークラスでもない塩梅ってところか。
興味深く一瞥してから、俺は周囲を見回した。
「逃げられた……か。ものの見事に気配すらないけど、空間転移に近い逃走手段でもあったか? いずれにせよ、してやられたな」
《土魔導》の発動そのものを無効にしたのだが、だからといって過ぎ去った時間までも操れるわけではない。
つまりは発動から無効になるまでは普通に時が流れているわけで、そうなるとアンドヴァリには都合数分ほど逃げる猶予があったわけで。
要するに、自然公園どころか俺の感知圏内からも綺麗サッパリ、やつの存在は消え失せていたのだ。
気づいてアンジェさん達も、悔しげに叫び声をあげた。
「ああっもうっ!! なんなのよあの女、平然と全部見捨てて一人トンズラするなんてっ!? 頭おかしいんじゃないの!?」
「おのれ……! いや、さすがにS級と言っておくべきか。かくも鮮やかに離脱するとは、見事なりっ!!」
「逃がした、か。こうなるといろいろ話が混み合ってくるな。日本政府に判断を仰ぐか」
「アンドヴァリ、目的は一体なんなのか……いずれにせよ必ずこの手で始末しますが、さりとて不可解なことばかりですね」
敵の首魁に肉薄できていた、捕縛寸前だったところをまんまと逃げられたショックは大きい。
大きいながらも、むしろアンドヴァリの異常性と手際の良さにこそアンジェさんやランレイさんは脅威を覚えたようだった。
愛知さんも日本政府に連絡するとか言ってるけど、これはたぶんシャルロットさんへの対応にも絡むことだろう。
アンドヴァリの捕縛をもって、シャルロットさんはじめダンジョン聖教との訣別をするつもりだったっぽいしな、この国。その前提条件が未達である以上、次なる指針を仰がなきゃ彼女としても動きづらい、か。
こうなるとやはり、アンドヴァリを逃がしたのは痛いよなあ。
「参ったなあ……」
『ぐっ、あっ……がああっ!?』
即座に因果操作できていれば話もまた違ったんだろうけど、おかしな横槍を入れるやつがいたからな。
それさえなければもしかしたら、アンドヴァリを捕縛できてこの場で少なくともダンジョン聖教過激派は壊滅させられたかもしれないのだ。
さすがにモヤッとするものはあるよね、うん。
壊さない程度に力を込める。
コブラツイストがさらにガチガチに絡みついて、そのモノ──概念存在らしき人間の姿をしたモノは、苦悶の声をあげた。
『くうっ、ああっ……!? やめ、……シャイニング、やま、が』
「まあそう言わずに、せっかく俺にちょっかいかけたんだからさ。精々たっぷり味わってほしいね、別に死にはしないんだからこれも人生経験ってやつだと思うぞ? 知らんけど」
『あっぐ!? が、あうううっ……!?』
邪魔しといて止めろ、なんてのは当然通さないので締め上げる。アンドヴァリに逃げられた今、なんのつもりだか知らんけどせめてこいつからはそれ相応の情報を引き出さないとな。
改めて俺は、そのモノを見下ろした。
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