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アレクサンドラ・ハイネン─すべてを嘲る偽りの聖女─

 どさり、と重い音を立てて男が地面に落ちる。過激派の中でただ一人無傷にて立つ女、アンドヴァリことアレクサンドラ・ハイネンが投げ捨てたのだ。

 穏やかな微笑み、薄く伸ばした目。とてもじゃないけど気絶した人間を無造作に放るような人には思えないのに、彼女は当然のように男を、まるで粗大ゴミかのように扱う。


 この女のやったことを悟り、俺はシャルロットさんの腕を掴んだまま叫んだ。


「盾にしたのか!? さっきの爆撃で咄嗟に近くの人を身代わりにして、自分はノーダメージで収めた! なんてことするんだ……!」

「私を苛烈と言うならばあの女は残虐非道と呼べるでしょう。表向きの聖女面など所詮は偽装……アレは出会った頃からまるで変わらず、ひたすら利己的に動き生きるだけの物の怪」

「あれがアンドヴァリか……!」

 

 シャルロットさんの《光魔導》バードケージ・プリズンサジタリウスの爆撃を、無傷でやり過ごすためにあの女は近くにいた者を盾に使った。

 さっきの男のことだな……そうして用済みになったから文字通り捨てたんだ。おそらくは自分を信じてついてきたんだろう信者なり騎士なりを、容赦の欠片さえなく切り捨てたんだ。

 

 たしかに、残虐非道と言っていいようなやり口だ。俺のみならず周囲に聞かせるように話すシャルロットさんの顔にも、どこか嫌悪じみた悪感情が滲み出ている。

 それを受けての敵の首魁、アンドヴァリもまたクスクスと笑って応えた。

 

「ふっふふふ……ずいぶんな言い草ですねえシャルロット。まあ外れてはないんですけども。いかにも私は利己の化物。聖女の仮面を被りつつ、本心ではいかに己の夢と理想を実現するかにだけ血道を上げてきた、面従腹背のいわば夢追い人」

「弟子にさえ語ることのなかった夢ですか。そんなもののために築き上げてきた地位も名誉も捨ててテロリズムに走るとは、とんだお笑い草とはまさにこのことですね」

「ふふふふ! 笑ってしまうのはこちらのほうですよお……弟子にさえ? あなた自分のことをそんなに私にとって大切なものだとでも思ってたんですか? うふっふふふっ! そんなわけないじゃないですかあ、私の傀儡として用意しただけにすぎませんのに!」

「そうですか? ではあなたは今からその、大切でもないただの傀儡でしかない弟子にすべてをご破算にされるのですね。なんだ、やっぱりお笑い草じゃないですか」

 

 怖ぁ……言葉のやり取りで殴り合ってる。師匠と弟子にあたる関係なのは間違いないんだろうけど、互いにあまりにも温度が低すぎる。

 微笑みながら毒を吐き散らすアンドヴァリと、無表情にそれを切って捨てるシャルロットさんと。レスバトルでは拮抗状態って感じだけど戦うとなるとさて、どうか。

 

 普通に考えるとS級探査者たるアンドヴァリにシャルロットさんが勝てる可能性は、低いように思えるんだけども。ただこっちはこっちで仲間が多いからね。

 アンジェさん、ランレイさん、愛知さん。それに瀬川から一旦距離を置いて神奈川さんも戻ってきて、俺とシャルロットさんに並びアンドヴァリと向き合う。

 

「アンドヴァリ、いいえアレクサンドラ・ハイネン! とうとう姿を見せたわね腹黒が、観念しなさいなっ!!」

「あらぁ、噂の能力者犯罪捜査官チームのお揃いで。マリアベール・フランソワさんのお孫さんに、シェン一族の探査者。そして……S級探査者ですかあ。初めましてですね、皆様。ダンジョン聖教六代目聖女アンドヴァリ、アレクサンドラ・ハイネンです。以後お見知りおきを」

 

 刀の切っ先を向けて吼えるアンジェさんに、呑気なトーンで微笑み返すアンドヴァリ。余裕の現れだな……何があろうと絶対に自分はこの場を切り抜けられるという、自信に満ち溢れている。

 こうなるとダンジョン聖教騎士団もさすがに俺に構ってる場合でなく、アンドヴァリならびにサークル構成員へと狙いを定めていく。

 

 俺も、シャルロットさんの腕を放して向き直った。向こうからすれば俺なんて有象無象も良いところだ、その油断に付け込めたら良いんだが。

 似たような考えか、神奈川さんも機を伺っているのが横目で見えた。この人、思った以上に抜け目ないな。さっきもステラのサポートを全力で活かして格上との戦闘を成立させていたりしてたし、戦いについての立ち回りがすごく上手いように思う。

 

 頼もしい話だ。

 ともかくアンドヴァリに視線を投げかける俺に、けれど彼女は真っ向から見つめ返してきた。

 まさかの、俺個人を認識している?

 

「……何よりも、困った方がいますねえ。シャイニング山形さん、でしたっけ? ああ、本当に困りますねえ」

「っ、何?」

「あなたについては結構、情報が寄せられてますから無垢な新人面は通りませんよお? 倶楽部幹部の切り札をことごとく潰して見せた謎の権能持ち、妖怪をカテゴリごと大ダンジョン時代から排除した手腕。何よりこうして面と向かって見ると分かっちゃいますねえ────あなた、厳密には能力者ですらないでしょう」

「!!」

 

 微笑みを消し、薄く目を開けてこちらを見抜いてくる。さすがにS級らしい眼力のようだけど、まさか妖怪との顛末まで知っているのかこの女。

 となると、自分で言うのもアレだけど相当警戒されちゃってるかな、俺。おそらく悪魔なりから聞いたんだろうが余計な真似をしてくれる。

 

「人間かどうかさえ怪しい、推定妖怪以上のナニモノか。そんなのを相手取るにはさすがに、今日はいろいろ失敗しすぎましたねえ……認定式後のパーティーさえも終わり時ですし、ここは潔く負けを認めて退却と行きますかぁ」

「逃がすとでも? アンドヴァリ、あなたはここで死ぬのです。かつての師弟のよしみ、私が責任を持って息の根を止めて差し上げます」

「殺すなってのシャルロット! こいつは捕まえて、無力化した上でいろいろ聞かせてもらうんだからね!!」

「過激派のみならずこの場にいるサークルどもも一人とて逃さん……! 我が星界拳、恐れぬならばかかってこいっ!!」

 

 あからさまに逃げの手を打ちそうな気配を出してきたアンドヴァリへ、すかさずシャルロットさん、アンジェさん、ランレイさんが身構える。

 他の面々も同様だ……サークル構成員達も含めここにいる犯罪能力者全員、一人だって逃がすつもりは誰にもない。もちろん俺もだ。

 

 闘気が場を満たし、決戦の空気をも醸し出す。

 だけど、アンドヴァリはそんな雰囲気をコケにするようににこやかに笑うのだった。

 

「いいえ逃げますよ、私だけ。ここにいる他の方々はどうぞどうぞ、好きなだけ殴る蹴るして連れ帰ってくださいな。なんなら始末してくれても良いですよ、どうせ生きていても仕方ないような人達ですしねえ」

「…………は? せ、聖女様?」

「うふっふふふ。それでは私はもう帰りますので──さようなら。《土魔導》、ジオロジカルボイジャー・ハーディーン」

 

 冷徹極まりない台詞を微笑みながら吐いて、次いでぼそりとつぶやくように、静かに宣言するスキル発動。

 《土魔導》……! まさかと思ったのも束の間。すぐに大地がうねり、その形を著しく変えていく。

 敵も味方も関係なく、周囲一帯の自然公園全土をすべて巻き込む、完全無差別の暴挙だぞ、これは!

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― 新着の感想 ―
ドラマとか小説で犯人と対峙した時、しゃべっている間に無力化すればいいものを、なんで逃げる時間を与えるのかな?って思いますよね(笑)
[気になる点] 自分をやべぇと言わせることで相手のやべぇ度跳ね上がらせる山本くん〜 やべぇ····(.;゜;:д:;゜;.) [一言] 敵味方無差別攻撃は古き良き悪の親玉のお約束〜。 都合よく名前…
[一言] あれだけのことをして、さすがに幼気な有象無象気取りは無理があるぞ、山形君
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