嵐とともに顕れよ、戦神の軍馬!
明かされたS級探査者、愛知九葉さんの正体──能力者犯罪捜査室エージェント。
能力者犯罪捜査官と似てそうだけど、こっちは日本の公安警察に所属、というか契約の上で協力している立ち位置としての役職らしい。
つまりはこの人、警察関係者ってわけだね。
「ミアさんから御堂さんの護衛を依頼されたのと同時に、私は日本政府からある特命を受けていました……ことが起きた今なので話しますが、アレクサンドラ・ハイネンの逮捕とシャルロット・モリガナの身柄確保ですね」
「アンドヴァリの逮捕は分かるが、シャルロットの身柄確保だと? どういうことだ、愛知」
「日本政府としても彼女はやりすぎている、ということですよ統括理事。過激派を巡っての盟約を盾にして独自行動を繰り返す彼女に、国としては舐められっぱなしではいかない、アンドヴァリが片付いたタイミングでダンジョン聖教にも牽制しておきたいんです」
「怖ぁ……」
ずいぶん薄暗い話が出てくるなあ……淡々と語る愛知さんに、ちょっぴり背筋の寒くなるものを覚える。
要するにシャルロットさんの独断専行ぶりに、日本政府も結構頭にきているっていう話のようだ。なまじ入国時に言質を取られているから表立っての抗議もしにくいもんだから、エージェントとして愛知さんを派遣してアンドヴァリもろとも締めようって腹積もりらしい。
まあ、メンツって組織にとっては大事だから分からなくもない。特に今日の発言を見るに、シャルロットさんも相当独自の思想で動くタイプの人みたいだからね。
過激派を相手しているうちはまだ良いけど、そのあとにも何かしら理由をつけて強情に無茶な動きをしかねない。それを危惧しての日本政府の動きなのかもしれなかった。
ヴァールがふむと考え込む。
「そういう話か……理解はするが、しかし身柄確保とは穏やかではないな。表立っては同盟者、国内の過激派相手に共同で取り組む相手だろうに。それだけシャルロットが暴走しかねないと判断されたのは分かるが」
「……正直、私が出張る話でもないとは個人的に思います。アンジェリーナ・フランソワさんやシェン・ランレイさんが近くにいる今、何かあれば彼女らが止めてくれるとも思いますからね。それに何より用済みになったから処分する、とでも言いたげな政府の物言いはあまり好きにはなれません」
「それでも立場上はやらんといかんってわけかい。若い身空で大変だね、あんたも」
「畏れ入ります、特別理事」
マリーさんの言葉に軽く微笑む愛知さん。俺とそう変わらない歳だろうに、どこか仕事人としての哀愁さえ漂う。苦労人だなあ。
狡兎死して走狗烹らる──と、いうのとはまたちょっと関係性が違うからアレなんだけど、シャルロットさんはまさしく用済みになる寸前なのか。彼女の日本内での動きそのものが表沙汰にはなってないのだから、すべてが終わったら速やかに排除されて真相は闇の中に近くなると。
うーん、怖い。暴走気味のシャルロットさんは物理的に怖いけど、仮にも盟約を結んだ相手を躊躇なくまとめて討つつもりの日本政府は精神的に怖いかも。
でも言い分もごもっともだからね。いくら協力関係ったってそれを隠れ蓑に好き放題されちゃ堪ったもんじゃない。普段はどうか知らないけど、今日のシャルロットさんの言動がヴァールやマリーさんまで閉口させるほどにひどかったのも事実なのだ。
難しいなあ、いろいろ。
「というわけで私はこの場を離れます。リスティさん、御堂さんの護衛をお願いします」
「あ、ああ……任せてくれ九葉くん。君はこれから、アンドヴァリのほうに?」
「ええ。どこにいるかは知れませんが、シャルロットさんを追えば自ずと見つかるでしょう────条件は五つ」
「…………!?」
リスティさんに後を任せつつ、おもむろに都市部のほうを見てつぶやいた愛知さんに、とっさのことながら俺は聞き漏らさずに目を見開いた。
召喚スキルの発動の前段階、召喚条件の確認と適用だ。五つ……概念存在の中でもかなり高位のものを呼び出すつもりか!
愛知さんの周囲に風が舞い始める。
何か、とんでもないのが出てくる前触れだ。俺達はすぐさま後退して、一人佇む彼女を見つめた。
「一つ、ダンジョンの外であること。二つ、雨でないこと。三つ、戦闘に介入する場面であること。四つ、レベルが700以上であること。そして五つ──この召喚が、北欧以外で行われること」
「召喚条件が五つだと……!? 山形公平、これは!」
「ああ、喚び出すつもりだ。神か悪魔そのもの、あるいはそれに連なるモノを! 条件面を考えると、おそらくは北欧神話圏の存在だ!!」
「……ピタリと言い当てるなんて。シャイニングさん、君は一体」
召喚スキルを用いる際、満たす召喚条件の数によって喚び出すモノのランクは変わる。一つだけなら下位のモノ、そこから増えていくにつれて上位のモノへ。
今回、愛知さんは5個もの召喚条件を満たした。これは相当な数で、つまりはそれだけの格があるモノを喚び出すつもりなんだろう。そんなのって神か悪魔、もしくはそのへんに関連するモノにほかならないんだよね。
そして彼女は召喚条件の五つ目に"北欧以外での召喚"を掲げた。こんな文言が必要な以上詳細はともかく、北欧に絡んでいる存在なのは明白だ。
ここからいろいろ類推したところ、唖然とした愛知さんに目を丸くして見られてしまった。いらんこと言い過ぎたかな、怪しまれちゃったかも。
ともあれそれも一瞬のこと、愛知さんは右手を天に掲げ叫んだ。
彼女の周囲に吹く風がいよいよ激しさを増していく。夕暮れの中、吹きすさぶ局地的嵐の中で光が煌めいた!
「以上をもって現れろ、北欧神話が大神の僕よ! 今一時我に力を授け、その威を発揮されんことを希う!!」
「来るか、概念存在……!」
「────来てくれ、スレイプニル! ともに駆けよう、この空この地、この世界を!!」
宣言とともにピタリ! ととまる暴風。不気味なまでの静けさがあたりを覆う。
……しかしてすぐに轟く雷鳴。ここから少し離れた式典会館の中庭に、突如として響く馬の嘶き!
「────────ッ!!」
天をも揺るがす轟音に目を向ければ、そこには5mほどの巨大な馬。
八本足という、現世には絶対に存在し得ない巨大な軍馬がそこにいた。
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