ひとつめ─神聖なる黄昏─
二体現れたミュトスの権能、ダンジョン聖教過激派曰くのウーロゴスなる存在に対して、片割れは封印拘束してもう片割れは内蔵されていたオペレータを切り離すことに成功した俺とミュトス。
二体目のほうについてはこれでもう、放っておいても現世にて姿を保てなくなるだろうけど……この絶好の機を見逃すわけもない。
ミュトスが本来の力を、一部とはいえ取り戻すためにもここからが正念場だ。彼女にそのことを伝え、今こそ切札を切る時だと示す。
「内部のオペレータはすべて取り除いた。後は君が一撃を入れるだけだ!」
「あ、ありがとうございます……! いやーたはは、移動するだけでも結構疲れますねーこれ! まあ今から力の一部を取り戻したら、たぶんマシにはなると思いますけども」
「今の君だと必殺技を放てば一撃こっきりでスキルが解除されるけど、今から取り戻す力でそれをどこまでカバーできるかだな……まったく権能を分割するなんて、よく思いつくもんだ」
ここに至るまで、ミュトスは魔天の力を借りつつも決定的な力の行使は欠片ほどもしていない。
さっきまでのウーロゴスへの攻撃は実のところ単なる往復移動をしていただけで、その余波によるソニックブームでやつに風穴を開けていたに過ぎないのだ。
それでも身体への負担は大きいようで、大粒の汗を流しつつミュトスは軽いノリで笑った。
結構しんどそうだけど、おそらくは今しばらくの辛抱だ……消えゆくウーロゴスをその前に取り込めば彼女本来の力が一部蘇り、スキルによる負荷も少しは軽減するだろうからね。
とはいえあくまで一部だが。こちらの想定とは異なり、まさかのウーロゴスは複数体いる。
権能を分割しての運用だなんて、信じ難いことをする。そりゃたしかにそっちのほうが制御できない力でも使いようが出てくるんだろうけど、だからって本当にやるようなことでもないしそもそも普通はできないことだ。
「魂のない、権能だけだから可能だったんだろう……二体だけとも思えない。おそらく連中はまだ他にも数体、ウーロゴスを隠し持っているものと思えるな」
「つまりそのー、私が本来の力をすべて取り戻すには分割されてるウーロゴスをその度叩いていかなきゃってことですよね? どひー重労働ー!!」
「ま、まあ倒すごとに君の負荷は減っていくから……三界機構の力もより強く引き出せるようになるだろうし、今が一番の堪え時だと思って、ね?」
「とほほー、しょんぼりー……」
ガックシと肩を落とすミュトスが気の毒だ。何が哀しくて元は自分の力を好き勝手された挙げ句、無闇矢鱈と自傷行為めいた苦行に乗り出さなければならないのか。
ダンジョン聖教過激派、アレクサンドラ・ハイネン……先代聖女アンドヴァリ。好き放題やってくれているお礼は近々、させてもらわないといけないみたいだな。
精霊知能ミュトスの上役たるコマンドプロンプトとして、そんなことを静かに決意しつつも俺は、いよいよ彼女に促す。
「さあ、決めるんだ……失われた力の一部、君の一欠片。取り戻せるのは他ならぬ君自身でしか成し遂げられないんだ」
「はい……! ミュトス・魔天、行きます!!」
翼を広げ、再度超スピードで突き抜けるミュトス・魔天。先程までとは違い単なる移動ではない。
放たれる強大なエネルギー。先日システム領域にて見せてくれた、必殺技を出した時とまるで同じだ。
あの時は断獄だったけど今回は魔天。空中戦特化の三界機構が放つ、ミュトスの3つの奥義が一つ!
「三界機構の名の下に今、ここに必殺を告げる!!」
「いけ、ミュトス……! 魔天の力を今こそ示すがいい!」
空気の壁をいくつも、何重にも破り加速を繰り返す。その果てに赤を超え青を超え、閃光放つ白色の焔を纏う彼女はさながら流星の煌めき。
ウーロゴスのはるか上空、あるいは成層圏近くまで到達したのかもしれない──そこから一気に落下してくる、ミュトス。
魔天の力を借りて今、彼女の必殺技が唸りを上げた。
天を裂き真っ直ぐに降ってくる一条の光が、その名を叫ぶ!
「────ディヴァイン・ラグナロクッ!!」
瞬間的に、光だけが先にウーロゴスを貫いた。次いで数秒遅れて聞こえてくる轟音。今までの数百倍もの衝撃波がいくつも発生したのだ。
空を、リングのように広がるソニックブームが波紋のように広がる。通常、ありえないような光景だ……どこか神々しさすら感じさせる。
まあ一緒に物理的な衝撃も伴うもんだから、そこは俺が封じ込めるんだけどね。
腕を振るい、衝撃波を周囲に被害が及ばない段階で相殺する。魔天の奥義、範囲が広いんだな……断獄の力を用いた必殺技は一点突破型の破壊力重視だったのに対して、こちらはよりたくさんの敵を想定している感じか。
感心しつつも衝撃波を無効にして、空が静まるのを待つ。
直撃を受けたウーロゴスはすでに跡形もなく消滅、いやミュトスの体内に取り戻されていた。
フラフラと俺のところまで戻ってくる彼女に、声を掛ける。
「お疲れ様、ミュトス。力はどのくらい戻った?」
「は、はらひれはらほれ〜。ちょっぴりって感じです、でもこれで《イミタティオ・トリニタス・コスモス》の持続時間、そこそこ伸びました〜」
やはり取り戻せた力はほんのごく一部か。どんな感じに分割したのかは定かでないにせよ、やはりウーロゴスは二体以上はいそうだな。
深刻な事態になってきたと思いながらも、俺はミュトスを労うのであった。
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