夕闇の空を裂く光。ミュトス・魔天!
発動するミュトスのスキル。この世でたった一人、彼女にのみ与えられたその名は《イミタティオ・トリニタス・コスモス》。
効果は至極単純で、しかもとんでもないものだ──三界機構の力をその身に宿す。
かつて異世界を運営し、しかし邪悪なる思念に喰われてしまった三体のワールドプロセッサの魂と力を組み込まれた彼女だからこそ使うことができる、究極権能と言っても差し支えないスキルの発現だった。
力の発動とともに、ミュトスの身体が変異していく。
頭部に竜を象ったヘルムが現れ、首元までをプロテクトしていく。さらに背中には純白の、どこか金属質な翼が生えて黄金の光を炎のように噴き出しながら展開する。
「顕現──ッ!! 我が名はミュトス、ミュトス・魔天!!」
「ミュトス・魔天……! 魔天の力を引き出したのか、ミュトス!」
「はいっ!! 三つの力の中でもとりわけ空中戦とスピードに特化した、いわば空戦形態です!」
頭部と翼のみながら、まさしく在りし日の強敵たる三界機構は魔天のフォルムを継承した姿、ミュトス・魔天。
こないだ披露した断獄形態、ミュトス・断獄がパワーと近接戦闘に特化していたように思うけど、こっちは空中戦と速度特化による高速戦闘モードってわけか。
こうなると災海形態も気になるけど、それはそのうち見せてもらえることだろう。今はとにかく目の前の、二体目のウーロゴスをどうにかするだけだ!
翼から焔を噴射して、ミュトス・魔天は超速度で敵へと向かう!
「行っきまーす! ──でりゃああああああっ!!」
「っ、速いっ!!」
ジェット機がエンジンを吹かしたような、あるいは音の壁を叩いたような。鈍く重いドンッという轟音をあげて、次の瞬間にはウーロゴスの右腕が千切れていた。
そのはるか向こうにはミュトス・魔天。わずか一秒足らずで攻撃し、しかも後方へと下がったんだな。まさしくヒットアンドアウェイの極みだ。
彼女はそのまま、直角に方向転換しながらジグザグにウーロゴスの身体を貫き千切っていく。
その度に巻き起こるソニックブームが余波として周囲に広がろうとするものだから、そこは俺が対処しておこうか。
「速度はこんなもんか? ────そいやっ!!」
極限倍率10万倍の出力をもって強化した腕を振るい、こちらも衝撃波を発生させる。
ミュトス・魔天が生み出すものとまったく同じ速度と強さ、それゆえにソニックブームの振動もまるで同一だ。
彼女が動く度に放たれるその衝撃に、こちらも同じものを当てて相殺する。
さすがに超スピードで動くもんだから次から次へと来るけど問題ない、最悪こっちは指パッチンでも出せるからな。
そうしてミュトスの動きによる二次災害が発生しないようにフォローしつつも、俺はウーロゴスを具に観察した。
身体中を穴だらけにされているけれど、よく見ると真ん中にいたオペレータ以外にも何人か姿が見える。
ミュトス・魔天もちょくちょくとっさに軌道修正しているのは、万一にも彼らを傷つけることがないようにしているんだろう。
しかし、そうか……数十メートルもの巨体だ、維持するにもこうするしかないのか。オペレータの気配がないのも、そろそろ察せられるところがある。
腕を振るって衝撃波を相殺する傍ら、俺は顔をしかめてぼやいた。
「中のオペレータ連中、死んではいないようだけど気配がないな。察するに仮死状態か、エグい真似をする」
『この世界の人間ってさあ、やらかす時は結構エグいことやらかすよね。人の欲望ってやつがそれだけ際限ないってことなんだろうけど、なかなかおもしろいとは思うよ』
「趣味悪っ。ていうかお前が言うな、悪趣味の総本山のくせに」
ウーロゴスに組み込んだ、いわばバッテリー役のオペレータ達はみんな揃って仮死状態にでもされているのだろう。俺の称号効果でも感知できなかったあたり、そうとしか考えられない。
なんてことしてるんだ、ダンジョン聖教過激派。自分達の目的のためなら何をしても良いって、本気でそう思っているのだろうか? 脳内のアルマも呆れを顕にしているよ。
もしかしたら組み込まれている人達は、過激派に無理矢理連れてこられて部品の一部にさせられただけの人なのかも知れない。
あるいは盲信の果てに仮死状態さえ受け入れることにした者達か……真相は定かでないものの、こんなことは一刻も早く解消しなければ。命をまるで機械のパーツのように扱うなんて、赦すわけには行かない。
「空間転移! ……ワームホールよ、ウーロゴスに取り込まれた者達を切り離せ」
ミュトスの活躍によりウーロゴスも頭から足の先まで概ね穴だらけだ。オペレータの姿もあらかた見切った。
頭と胴体、両手足に一人ずつの計6人。各部位に一人ってことか、問題なくワームホールを展開する。
空間を繋げる先はエリスさんと葵さんのいるところだ。あの人達は地上の敵を警察に引き渡しているからね。
同時に俺の目の前にも彼女らの眼前につながる空間を開くことにする。
「もしもしエリスさん? 葵さん?」
「うわおビックリ!? ……え、公平さん?」
「人がどっさり!? ……え、これ公平くんが?」
同タイミングでウーロゴス内のオペレータを転移し、かつ俺と会話する用の小窓も開いたもんだから先方をびっくりさせちゃったみたいだ。
申しわけないと軽く謝りつつ現状報告。ウーロゴスの仕組みからオペレータの仮死状態にまで言及すると、さすが話が早い能力者犯罪捜査官のお二人はすぐさま俺の要請に応じてくれた。
「アレクサンドラ・ハイネンも無茶をするね……! 分かった公平さん、こいつらはこっちで預かっとく。もう一体のほうも続々連れてきてくれて良いよ!」
「我々は現地警察と行動をともにしてますから、連中の引き渡しはあなたとミュトスさん? に代わって行います! 公平くん達は思う存分やっちゃってくださいね、はっはっはー!」
「助かります……ミュトス!」
地上での受け入れ態勢は整った、これなら行ける! 空間転移を終えた後、即座にミュトスを呼べば彼女は瞬時に俺の元に戻ってきた。
必殺技を未だ放ってないものの、そもそも力を顕現させるだけでエネルギー消費は激しいみたいだな。
息を切らす彼女を労りながら、俺は二体目のウーロゴスにはもはやバッテリーがないことを説明していった。
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