いつミュトスを投入するか?今でしょ!
信じがたい事態、ミュトスの権能がもう一体離れた地点に現出した!
そのことに一瞬動揺する俺だったが、とりも直さず瞬間的に瞑想、気持ちを落ち着かせる──問題ない。クリアになった思考で、今真っ先になすべきことを成す!
「さしあたってはお前の確保だ、ダンジョン聖教過激派」
「!? 何────」
「《動くな、そしてそのまま意識を失え。次に目が覚めるのは、お前が完全に拘束されてからだ》」
スキルでも称号でもない、コマンドプロンプトの魂を利用しての威圧。単なる現世生物へのそれはもはや、絶対命令権にも等しい効力を持つ。
瞬時に男の意識を刈り取る。きっちりと次に目が覚める条件まで指定して、これでこちらは完了だ。あとは迫りくるガルーダを倒すのみ。
いきなり気絶した主を背負い、それでもガルーダは命じられたままに攻撃を仕掛けてくる。スレイブモンスター、ここまで人の手により制御できるか。
やはり極めて危険だと痛感しながらも、俺は真正面から鋭い嘴を尖端に突進してくるモンスターを、片手で軽く受け止めてピタリと止めた。
当然ながら一人の戦い、《風さえ吹かない荒野を行くよ》は発動している──高々A級モンスターくらい、止められなくてなんとする!
「変なモノを食わされた挙げ句に人間達のペットになる、なんてのも気の毒な話だな。せめて今、楽にしてやる」
「!?」
「輪廻へと向かえ。いつか己の意志で大空を羽ばたくために──《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》」
嘴を掴み、身動きを取れなくしてから放つ広域浄化スキル。この際だから半径1km圏内にいるモンスター、すべて巻き込んで全力で放つ。
たとえS級モンスターだろうがこの出力なら問題なく浄化されるだろう。事実、地上に蔓延っていたスレイブモンスターがあっという間に消え去っていくのを気配感知の称号効果で悟る。
当然目の前のガルーダも浄化され、光の粒子となって消え去っていく。去り際、どこか安らいだ目でいたのはせめてもの救いと思いたいところだが、さて。
気を失ったローブ姿の男の首根っこを掴み、俺は眼前に佇むミュトスの権能と、今しがた発生したもう一つのミュトスの権能、奴らの言うところのウーロゴスとやらを遠巻きに見比べた。
新しく現れたほうのウーロゴスは、やはり何かするわけでもなく棒立ちしている。
それでも放つ威圧は凄まじいのが恐ろしい話だけど、想像よりははるかに弱い圧力なこともたしかだ。
実際、眼下の地上では探査者達が、特に気圧されるでもなく攻撃を仕掛けたり態勢を整えたりしているみたいだからね。
二体目のウーロゴスを除けばひとまずは第一波は凌いだと考えられるが、さりとて脅威と謎は未だ残ったままだ。
まずは考えなければならない……どうなっている?
「偽物の線はない。二つとも間違いなく同一の存在だ……でも、それがまずおかしい。ミュトスの権能が二つ同時並行的に存在しているなんて、そんなことあり得るのか?」
『普通に考えてありえないだろうけど、目の前で起きているのが事実だからね。ウーロゴス……とやらがそういう性質の権能なのか、あるいは人間なりこの世界の概念存在なりがなんかやらかしたか』
「スレイブモンスターだのスレイブコアだのバグモンスターだの、そのへん考えるとありえなくないのが困るなあ」
脳内のアルマと話しながら、一旦地上に降りる。首根っこ掴んでるダンジョン聖教過激派の男を、おまわりさんに引き渡さないと。
ウーロゴス……ミュトスの権能部分。今のところ敵側もアレの制御はできていないようだけど、さっきの一体目のように本能的に暴れ出さないって保証もない。
俺のスキルですでに一体目を封じきっている関係で、二体目に同じことはできない。
となるのやはり、アレについては誰かしらが相手しなけりゃならないんだろう。そしてそれを担うべきは、おそらく。
──称号が更新されたのを感知する。
来たな、ワールドプロセッサ。どこまで知っていたんだ、こいつ?
名前 山形公平 レベル1000
称号 神話の名を冠した精霊知能を、今ここに
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
名称 神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─
称号 神話の名を冠した精霊知能を、今ここに
解説 分割されている権能についての話は、本人から話を聞くといいでしょう
効果 なし
《称号『神話の名を冠した精霊知能を、今ここに』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……想定外ではありますが、対応できないほどでもありません。ウーロゴスなるモノの始末は、あとはミュトスにお任せください》
ステータスを確認するのと同時、はるか空の彼方から一筋の流れ星が空を切り裂くのを、轟音とともに見る。
朱に染まる夕焼け空に奔る、蒼き閃光。そこから放たれるは数日前にも感じた気配、魂。
一条の矢となって駆けるそれは、二体目のウーロゴスの頭部を、脳天からまっすぐに貫くようにぶつかっていく。
一体目と同じならおそらくそこに、アレを喚び出した召喚士がいるはずだ。先にそっちを叩いたか──ミュトス!
蒼き光が宙を舞い、やがて人の形を取る。長い銀髪、白い肌に煌めく星のように輝く瞳を持つ女性だ。
調和と協調を司る水と豊穣の女神。それが三界機構と邪悪なる思念の端末のエネルギーを得て精霊知能へと生まれ変わった姿。
「コラコラコラ〜! 人の力を勝手に切り分けて、挙げ句に変な名前つけて運用したりすな〜っ!!」
「えぇ……?」
微かに聞こえる彼女の声。相変わらず珍妙なノリだが、それでもその力、存在は紛れもなくウーロゴスへのカウンターそのものだ。
精霊知能ミュトス。満を持して、ドンピシャのタイミングでの登場だった。
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【ご報告】
攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
書籍版、コミカライズ版併せて発売されております!
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二巻
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コミック
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Webサイト
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