黄昏時の強襲
なんやかやしている間に17時も近い。そろそろ認定式が始まる頃合いだ。
この間にも特に、俺の気配感知に引っかかるような怪しいナニカはいない。あまりにも静かで、拍子抜けするほどだ。
厳重な警備体制に恐れをなして、人様に迷惑をかけるのを控えてくれた……なんてわけでももちろんないのだろう。
むしろここからだな。仕掛けるとしたら、認定式が始まりそうな今くらいからが一番の狙い目だろう。自分達の力によって式典を壊し、国や世界を虚仮にしたいのならそうするはずだ。
「────うん?」
『どうした、公平?』
「いや、なんか今ちょっとだけ。本当に微かだけど町の方で、違和感が」
そんな折。俺は、微かに引っかかる感覚を覚えて窓から町のほうを見た。本当にわずかな、ごく一瞬の違和感。
ナニカがいた? いや、生まれた? 水泡が一つ、生まれては消えたかのような一度きりの気配の点滅を感じ取ったんだ。
何か来る。
察して注視する俺の予想に応えるかのごとく──気配が一気に、信じがたいほどの大きさに膨れ上がるのを察知した。
なんだこれは!?
「普通の気配じゃない! 何か現れるぞ!」
『……おいおいおい。なんだいあれは』
身構える俺と、唖然とするアルマ。見据える先、町中にナニカが現れようとしている。
黒いモヤのような、気泡のようなモノが無数に現出していた。弾けては倍になって増えるバブルのように、凄まじい勢いで天にも昇る大きさへと肥大化していったのだ。
……首都圏の高層ビルをも超える大きさ。ドラゴンだった頃のアイの何倍もの高さをした、黒い化物。
輪郭がない、気体のような朧気な姿。目もなければ口も、耳も鼻もない、けれど全体としては人の形を模している、巨大な虚影。
何よりも、見るからに感じるとてつもない威圧、権能。それは紛れもなく概念存在たるモノにのみ放てる類のもの。
間違いない。俺はついに現れたバケモノを前に一人、叫んだ。
「ミュトスの権能……! いきなり投入してきたのか!!」
『やるねえ、おそらくは最高戦力だろう切札を初手から切るとは。これはインパクト抜群で全員の目を惹き付けるだろう、狙い目だね!』
「そのようだな……! モンスターの気配がする。海を含めた四方から、無数に攻めて来ている!」
意志なき権能、ミュトスの半身。異世界の神の権能部分のみをいきなり投入したのは、間違いなく奇襲を仕掛けるための策にほかならない。
事実、ミュトスの権能が現れたのと同時に俺の感知圏内に、大量のモンスターとオペレータが現れた……スレイブモンスターとサークル、あるいはダンジョン聖教過激派の連中だろう。
海からさえも迫りきている。電撃的な侵攻だ。
速やかにヴァールにメッセージを送る中、俺はミュトスの権能を観察した。
権能だけ、にしてはあまりにも存在が安定している。この世界との因果はやはりないみたいだが、何やら恣意的なものを感じなくもない。
それの意味するところとは、つまり。
「過激派が、なんらかの方法で異世界の権能をある程度制御下に置いた……?」
『因果を発生させない形でか? 無理があるよ。よっぽど無茶なことをしでかさない限り、そんなことは不可能だ』
「そりゃそうだけど、その無茶をしでかしそうな連中なんだよな…………うん!?」
アルマと話しつつもヴァールに現状報告をして、とりあえず近くに行って権能を確認しなければならないとスマホをしまった矢先のことだ。
その権能に動きがあった……ヒト型の腕を大きく振り上げたのだ。まるで振り下ろして叩くか、横一面に薙ぎ払うかの予備動作のように。
まずい。俺は咄嗟に慌てた。
権能の突然の登場に報道すべきと思ったのか、マスコミのヘリが多数やつの近くを飛び回っているのだ。
意志あってのことか、はたまた別の何かに由来してのものかは分からないけどこれはまずい。次のモーション次第でヘリが墜ちる、大惨事になる!
間髪入れず、俺は俺の力を引き出した。
人の身にてシステム・コマンドプロンプトの力を駆使できる補助装備、神魔終焉結界を発動したのだ。
「神魔終焉!! ────開け空間、やつの眼前へと繋がれっ!!」
瞬時に変わる俺の服装。大陸服に蒼いコート、コマンドプロンプトとしての山形公平の戦闘装束だ。
これにより使用可能となった権能、空間転移を駆使してミュトスの権能、そのすぐ前に空間をつなげてゲートを開く。
つまりは空中だ。構わず俺はそこへ飛び込み、安全地帯とも言えた式典館の控室から瞬時に最前線、それも今にも人死にが出かねない修羅場へと割って入った。
次の瞬間目の前に広がる、あまりに大きな暗いガス状のナニカ。空中へと躍り出て目の当たりにする、あまりにも大きな影だ。
本当にでかいな……概念存在の権能そのものだから実体はないけど、どうしたことが権能を使って擬似的な具現化を果たしている。
どうやってるんだこんなこと? 疑問は尽きぬままだけど、とりあえずは直近の危機を凌ぐのが先決だ。
振り上げられたその腕が、今まさに下ろされんとしたタイミングだけは掴み、俺は問題なくスキルを行使した。
『────────』
「《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》! ミュトスの権能全体を包み拘束する、封印空間を作り出す!!」
俺の持つ結界作成スキル《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》。これをもって権能全体の周辺に、動きを固定して動けなくする空間を作る。
因果があろうとなかろうと、今そこに存在するという事実がある以上はそこから逃げ出すことはできない。
案の定ミュトスの権能の動きはピタリと止まった。抵抗する気配もない、完全に一時的な封印に成功した。
ふう、と一息つく。そんな俺に、いくつかのヘリコプターが近づいてきていた。
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