伝道師でさえなければ日本政府的にも文句ない人材だったのにね……
警備さん達にも見送られ、いざいざと入るS級探査者認定式の会場、ホール。
めっちゃ広い空間に、整然と並べられたソファシート。コンサートホールみたいに舞台があって、そのど真ん中に講壇があり、左右に座席が並べられてあり、そして奥からは出入り用の通路がある。
上を見れば二階席もあって、かなりの人数が入れるようになってるみたいだ。
見ればあちこちにスタッフさんやら警備さんやらマスコミさんやらが何やら打ち合わせしており、座席に悠然と座るオペレータの方も何人もいる。たぶんヴァールやマリーさん同様にリハに来たお偉いさんだろうね。
「逆に珍しい光景だろうさ、公平ちゃん。本番はもちろんマスコミが生中継で全国配信するそうだけど、こういう準備段階を撮るなんてのはあんまりない」
「たしかに……ああでも、ドキュメンタリー番組とかではあるかもですね。香苗さんに密着! とか」
「その手の話もないではないが、今回は一切ないな。時勢が時勢だ、サークルだの過激派だのがやって来た時を思えばとても密着取材などさせられん」
歩いて舞台手前まで移動しながら話す。
たしかに珍しいってか、滅多にお目にかかれない光景だけど、たまにナントカの会場の舞台裏! みたいな番組だってないことはない。
そう思って例を挙げたところ、ヴァールは首を振って今回限りはそういうのはないと説明してくれた。
まあ、犯罪組織がカチ込んでくるかもしれない以上はリスキーだもんね、マスコミさんに密着されるとか。万一のことが起きてからだと遅いし、対応はもちろんするけど責任を取り切れるかと言うと難しいし。
ただ、それだけでもないみたいだ。
ヴァールは苦笑いして、続けて語った。
「後はなんだ、御堂香苗自身がその手の取材を鬱陶しがっているということもある。彼女からしてみればこの式典の存在そのものが気に食わんようだからな」
「あー、たまにそんなこと零してたのは知ってる。政治利用されるのが面白くなさそうだったよ」
「気持ちは分からんでもないがな、そこはA級トップランカーとして世界的に名を売っていたゆえ仕方のないことだ。"虹の架け橋"……ネームバリューを日本政府が利用したいのはワタシにも理解できる」
「予てから有名だったA級探査者がついにS級に! 日本人11人目、しかも大層な別嬪ときた! マスコミもそりゃあ食いつくさね、香苗ちゃん的にはまるで面白くないだろうけど」
彼女やマリーさんも仰る通り、元々香苗さんってば世界的な探査者だったからね。
A級トップランカーとして同世代の顔ばかりか、現代の若手探査者の代表みたいな立ち位置になっているわけだし、そんな人がS級探査者になったらそりゃ話題にもなるしマスコミも政府も食いつくわ。
それっていうのも結局のところ、探査者のメイン層がA級ってのが影響しているんだろう。
なんでもS級探査者になると途端に露出が減るというか、本当に雲の上の人みたいになっちゃってマスコミも触れづらくなるって話を聞いたことがある。
マリーさんにしろサウダーデさんにしろベナウィさんにしろ、テレビとかで見た覚えもあんまりないもんなあ。それだけS級探査者は特別な立ち位置にあるってことだね。
そこに加えてA級探査者の幅の広さ人口の多さが相まって、一般向けメディアに目立つ探査者ってのがA級の、それもトップランカー付近の探査者さんばかりに集中していくってわけだった。
とはいえ、とヴァールが続ける。
「彼女の場合、マスコミのほうも忌避しがちというかどこか触れるのに躊躇を感じるのは……やはり救世の光の伝道師だからだろうな。あまりにも厄介すぎる」
「今やネットを超えてリアルにも波及しつつある勢いですからねえ。もちろん大半は物珍しさと面白さ、好奇心からくるネタ扱いなんだろうけど、意外と本気ないわゆる信者ってのも確実に増大しているみたいだよ、公平ちゃん。マスコミどころか日本政府だって本音のところは、そんなに深入りしたくないはずだろうさね」
「怖ぁ……」
ぐうの音も出ないほどの自明の理に呻くしかできない。
美人過ぎるA級トップランカーが美人過ぎるS級探査者になるなんて絶好の取材対象だろうに、伝道師という側面がすべてを躊躇わせているんだからある意味壮絶な話だよ。
新興宗教の教祖が同時に日本で一番人気の探査者でしかも飛躍の時を迎えているなんて、日本政府もさぞかし判断に迷ったことだろう。
結果としてそれでも認定式を執り行い大々的に宣伝利用したあたり、やはり世界にアピールしたいって欲は強いんだろうけど……なんだろうね、何故か毒を食らわば皿までって故事成語が思い浮かばなくもないや。
「つってもWSOの理事がすでに揃ってチャンネルに出演するなりしてるからさ。第二のダンジョン聖教となるのではって評価もされつつあるね」
「揃って新興宗教同士、かち合わないことを祈るが……まあ御堂香苗のことだ、対立者には喜んで伝道を施しに行くのだろうな」
「なんならさっきの七代目聖女さん相手にも行きそうだなあ……」
自分で口走って想像する、伝道師vs七代目聖女。
あの過激というか極端すぎるシャルロットさんに、香苗さんのこっちはこっちで過激で極端すぎる伝道をぶつけるのだ。
……勝手に戦え! と言いたくなるな、うん!
「──七代目? シャルロット・モリガナのことですか公平くん? さすがですねもうすでに次なる救いを求める羊を見定めていらっしゃるとは救世主様のご慧眼にこの伝道師まこと感服する次第です」
と、噂をすれば影がさす。
舞台の奥のほうから唐突に俺に向けての言葉が聞こえ、そこから噂の伝道師さんが現れた。
いつものスーツ姿と美貌で、にこやかな笑みを浮かべる彼女──御堂香苗さんその人である。
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