腹黒三代目と猪五代目を足したような七代目……?
嵐のように言いたい放題していって、そうして消えていったダンジョン聖教七代目聖女シャルロット・モリガナ。
残されたほうは堪ったもんじゃなく、気まずい沈黙があたりを支配する。いや、ヴァールと島根さんがそれぞれ別の方を向いて、スマホ越しに何やら白熱してはいるけども。
「郷田さん、これはどういうことですか!? なぜダンジョン聖教が我々の連携を一切無視した行動を取り、あまつさえそれを日本政府から警察上層部まで許可しているというのです!」
「正式な外交ルートを通してすぐさま日本政府とダンジョン聖教へ抗議してくれ。それと日本政府の内閣総理大臣ならびに外務大臣には、直接ワタシに連絡しろと伝えるように……ああ至急にだ。式典を護りたいのか掻き乱したいのかどちらだ、とでも付言しておいてくれ」
「怖ぁ……」
「結構カッカしとるねえ、ヴァールさん」
能力者犯罪捜査局の局長たる郷田さんに抗議しているんだろう、島根さんも結構ヒートアップしてるんだけどもそれよりやはりヴァールの噴き上がり方が怖い。
淡々と無表情のまま、おそらくWSOの外交担当が誰かに命じてるみたいだけれど、ダンジョン聖教はもちろんのこと日本政府にも結構お怒りみたい。
そりゃ、これから始まる認定式を護ろうっていう警護体制をここまで整えておいて、実はそれに関与していた肝心のこの国の政府が横槍上等な集団の好き勝手を許してましたーなんて冗談じゃないものな。
マリーさんもこっち来て呑気につぶやくけど、この人もこの人でさっきシャルロットさんに鋭い目を向けていたことを俺は見逃さなかった。怖ぁ……隣でリーベが慄いているよ。
おずおずと、恐れも知らぬ質問を投げかけていく。
「あ、あのー……怒ってますー?」
「え? ああいや、ちと怪訝には思っちまったけど見られちまってたかい。ファファファ、面目ないねえ……まあ、私としちゃむしろ感心しとるよ、当代聖女はなるほど三代目の色が濃いんだなってね」
「三代目? 聖女の、ですか」
マリーさんはああ、とうなずいて遠くを見つめた。懐かしむ顔だ……三代目聖女の方ともお知り合いなんだな。
エリスさんから始まりラウラ・ホルンさん、マルティナさん、フローラ・ヴィルタネンさんときて神谷さん。そしてアンドヴァリことアレクサンドラ・ハイネンとシャルロット・モリガナって系譜か。
わずか100年のうちにかなりの代、入れ替わり立ち替わりで《聖女》を継承していってるよなあ。
改めて感心する俺をも含めてマリーさんは、三代目聖女についてとシャルロットさんとの類似点を語ってくれた。
「ああ、マルティナ・アーデルハイド。三代目聖女にして初代ダンジョン聖教の聖騎士団長でもあった女でね。物腰こそ柔らかだったが中身は真っ黒、常にダンジョン聖教の利になることだけを考えていた、まさしく女狐って感じの女だよ」
「えぇ……?」
「その点で言えばあのシャルロットってのは態度は正反対だが、ダンジョン聖教至上主義らしいところで似通う。まあにしたって強情過ぎだがね、敵増やしてどうすんだか。そういうところはどちらかと言うと若い頃の神谷似だねえ、ファファファ!」
昔の神谷さんあんなんだったの!? ……口には出さず驚く。
なるほどダンジョン聖教至上主義ってのはなんとなく納得だ。さっきの発言からでも常に自分達の都合ばかり口にしていたし、そういう気質は俺にも伝わってきたよ。
にしても頑迷と言うか、極端に過ぎたきらいはあるけどね。それだけ聖女という立ち位置が重いものなのかもと解釈することもできるけど、さすがにああいう態度で来られては共感もしにくい。
身内の恥とも言えるアンドヴァリ打倒に血道を上げるのは結構だけど、それでこちらの邪魔をされては敵わないわけだし。
と、ヴァールも島根さんも電話が終わってこちらに向かってきていた。二人とも難しい顔で、悩ましげにしている。
とりあえずお疲れ様ですと会釈をすると、ヴァールが俺に向けて愚痴るように言ってきた。
「見苦しいところを見せたな……シャルロット・モリガナがまさかあそこまで強硬派だとは。神谷やアンジェリーナからも聞いていたし電話越しのやり取りも何度か行っていたのだが、それにも増して苛烈なのは計算違いを認めざるを得ないな」
「何より日本政府がダンジョン聖教の暴走を許したらしいことのほうが問題です。一体何を考えているのか」
「ワタシからも正式な形で政府に抗議したが、返事はとりあえず待ちだな。それまではアンジェリーナやランレイ、神奈川という鈴をつけて連中の暴走を見張るほかない」
二人して聖女の強硬姿勢と日本政府の対応に疑問を抱いている。抗議を入れたけど今すぐ声明が返ってくるわけもないし、このへんについては今のところ保留って感じかな。
ただ、島根さんも郷田さんに確認を取っていたけど……警察は警察でいろいろ混乱しているみたいだ。
困惑した様子で、彼との電話の内容をかいつまんで話す。
「そもそも一年前の時点で、ダンジョン聖教から似たような宣言は受けていました。しかし警察と連携をしっかりしてくれていたのと数ヶ月前からは、アンジェリーナ・フランソワ氏率いる能力者犯罪捜査官チームと行動をともにしていたことから今さら何をしだすのか、という感じはします。郷田局長も唖然としていましたよ、何故このタイミングでと」
「ある意味、最悪のタイミングで真意を表したと言うべきなのか? ……そうなると日本政府からの許可というのも、一年前のものをここに来て意図的に歪んだ解釈を持ち出したと取れなくもないのか」
顎に手を当て考え込むヴァール。どうやらダンジョン聖教と日本政府、警察の間にも齟齬がありそうな気配かな、これは?
なんにしろ困った話だよ……好き勝手やるにしても、どうか人々の迷惑にならない範囲でやってほしいよね。
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