誰だよお前は、いきなり好き勝手解説してんじゃねーぞ
「……………………う、ん?」
気が付くと、青いはずだった空は白い天井に変わっていた。なんでか、あのー、変な模様が付いてる白いタイルが敷き詰められた天井だ。
網目ともまた違う気がする。なんだろうねこれ?
ひどく体が気怠い。
ものすごーくエネルギーを消費した、マラソンを終えた後に倒れ込む選手の気持ちが分かるかもしれないくらいの疲弊具合だ。
周囲を見回す。広い一人用の病室で、俺の腕には点滴なんか刺さってる。怖い。
近くのテーブルに、俺のスマホが充電中のまま置かれていたから確認すると、最後に確認した、ドラゴンとの決戦の直前から既に一日、経過していた。つまりツアー最終日の、朝だ。
何があったっけ? ええと? たしかドラゴンを、マリーさんがロンドン橋落ちたみたいな感じで落として。そう、その後、リーベとシステムさんがめっちゃ叱られて。
『う……反省してますよー……システムさんも落ち込んでましたし。本当にごめんなさいー……ご無事、ですか? ここは病院です。急激なエネルギーの消費で公平さんは倒れて、運び込まれたんですよ』
脳内に声。ああ、リーベ。おはよう。
倒れたのか、俺……ていうかシステムさん落ち込んでたん? お前もそうだけど気にすんなよ、俺が勝手に背負い込んでただけなんだから。
もう、俺は俺の思うアドミニストレータの道を見つけちゃったから……たぶん、なんでもやるとは言えないかもだけど。
『良いんです。それこそがアドミニストレータなんですから……己の信ずる正義に拠って立つ、ワールドプロセッサの監督管理役。システム側が何かを強要するなんて、あってはいけないことだったのに』
ワールドプロ、なに? サッカーの話?
またなんか一人でぶつくさ言ってきてるリーベはともかく、俺はさらに記憶をほじくり返す。
たしかマリーさんのお言葉で俺は、なんだかすっきりしたんだ。肩の荷が下りて、過度な力みが抜けた。
自分の本当の意志に、素直に従いたくなったんだ。
そう、ドラゴン。
あの、大きくさえなければ無害に収まるかもしれないあれを、ただ生きていたいだけのアレを。端末の勝手で生み出され、人間の都合で殺されようとするあの生き物を、俺はどうしても救いたかった。
生きたいと、願うものを救える限り救う──そうだ。それこそが俺の見出した、アドミニストレータとしてのたった一つのかけがえのない正義。
「だから、俺は……何をしたんだっけ? 思い出せんってか、記憶がない」
『! そうですよ公平さん、アレは一体何だったんですか!? 前より遥かに明確に、しかも慣れた感じでコマンドプロンプトに接続してましたけど!?』
「……コマンド、プロンプト?」
『あ〜覚えてなさそ〜。あなたはあの場で、コマンドプロンプトに接続したんです。新しく作ったスキルで、ドラゴンを再構成したんですよ』
…………え。何それ怖ぁ。
まったく覚えがない。というかコマンドプロンプト自体がナニソレ感極まる。接続して? 新しいスキルを作って? あまつさえ、ドラゴンを再構成?
何じゃそりゃあ。怖いにもほどがあるんですけど。
嘘だと言ってよ、リーベェ!
『本当ですよー。何ならステータスを確認してください。システムさんからの称号も、新しく与えられてますからー』
まじかよ。俺は急いでステータスと告げた。
名前 山形公平 レベル174
称号 正しき心はあなたの胸に
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
称号 正しき心はあなたの胸に
解説 すべて、思うがままに。山形公平として信念を貫く姿こそ、新たな時代のアドミニストレータ
効果 瞑想時、精神異常完全回復
《称号『正しき心はあなたの胸に』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……あなたが何者であるのか、いずれは問う時もありましょう。けれど、私たちはあなたを信じています。惑わせることになり、申し訳ありませんでした》
──うーむ、分からん。
アナウンスで謝られ、称号で何やら好きにしろ的に言われ。しかも何やら、そのうちお前は何者なんだと聞かれそうな始末。いや俺、山形ですけど。
いつの間にかよく分からん、映画タイトルみたいなスキルが生えてるけどこれなんだろうな、俺が作ったとかいう、ドラゴン浄化スキルは。
スキル
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
解説 「今回限りだ。次はきっと、最後の最期で」
効果 邪悪なる思念より生まれた生命体を分解。再構築し、無害な生命体へと変える
そしてこれだよ。誰だよ解説の人。お前どこから出てきた。
口振りからするとシステムさんもリーベも心当たりないんだろうし、となると本当に正体不明だわこの解説の人。
『公平さんに何者かが取り憑いている感じでもないですし、かと言って二重人格のような感じでもないでしょう……一応メンタル値を確認しましたが、至って平常そのものですし』
「じゃあ誰なんだよこの解説の人、怖ぁ……」
『システムさんも知りませんしリーベちゃんだって怖ぁ〜ですよー! もう、公平さんの変なのホイホイ!』
誰がホイホイだ! それを言ったらお前も変なのだろーが!
起き抜けに漫才をする、ベッドの上の俺だった。
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間2位、週間2位、月間1位、四半期2位
総合月間4位
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