勝利条件:敵の全滅 敗北条件:式典館への敵の侵入
さて式典館に到着した俺達はひとまず、ヴァールについていく形で館へと向かう。
話によるとすでに主賓の香苗さんはじめスタッフさん達もいて、念入りなリハーサルを行なっているそうな。大変そうだなあ。
「にしても大きいな……この館。端から端まで使って認定式するのかな」
「さすがにそれはないわよ、公平。正面から見て右側にホールみたいな建物あるでしょ? あそこが公会堂みたいになっていてそこでやるのよ。他のスペースは今回、控室とか待機室、あと来賓用の休憩スペースだったりするわね」
「か、香苗さんの宿泊もここの建物の一室なはずですぅ……主賓扱いで、ですからぁ」
「えっ、すごっ! 香苗さん、こんなすごいとこで寝泊まりしてるんですね!?」
アンジェさんとランレイさんの説明を受けて驚く。香苗さん、式典館で宿泊してたりするんだなあ。
道理であの高級ホテルでも見かけなかったはずだよ、さすがは主賓だ。
というわけで俺達も建物に入っていく──中は綺麗な大理石の床に真っ白な壁、シャンデリアとか貴族風の家って感じのエントランス。
奥には広々したホールが見えていて、西洋風の屋敷にありそうな緩やかなカーブを描いて2階へと続く階段なんかもある。
総じて中世ヨーロッパにこんな感じの館ありそうってなる内装だ。つまりは言うまでもなくゴージャスってわけだね。
そして、これは敷地内外問わずのことだけど、すでに多数の警備が設置されていて、館の中にも結構な数のスタッフさんやおまわりさんがいた。
全員揃ってヴァールに敬礼する。
「お疲れ様です、チェーホワ統括理事!」
「御苦労。島根室長は?」
「大会議室にてお待ちです! こちらへどうぞ!」
おまわりさんの一人が力強く応えて案内してくれるのを、後からゾロゾロついていく。
式典警護の現場総指揮は完全に島根さんが行っていて、ヴァールはあくまで個人協力の探査者達のまとめ役って立場だ。とはいえ統括理事を顎で使えるわけもなく、だから独立遊撃部隊としての役割が与えられたわけだね、俺達には。
奥のホールを通って階段を登り2階へと上がる。そうしていくつか部屋のドアが並ぶ通路の一番奥、一際大きな扉を開ける。
つまりは大会議室ってことなんだろう、パイプ椅子とテーブルが並ぶ室内がそこにはあり。そして一番前、ホワイトボードの前には昨日見た警察庁能力者犯罪対策局の室長、島根さんがいらっしゃったのである。
やはり敬礼しつつも、彼は真剣な面持ちを崩さずに告げた。
「お疲れ様です、みなさん。お待ちしておりました、さっそくミーティングを開始しましょう」
「うむ、時間が惜しい……各員好きなところへ座ってくれ。立っていても構わんがミーティングの内容はきちんと聞くようにな」
テキパキと話を進める島根さんとヴァールに促され、俺達もサクッと席につく。立っといても良いよと言われたけど特にそういう人もいないね。
資料が配布されていく。この式典館の内部構造と敷地内外のマップ、そしてどの地点にどういった戦力の配置がされているか分かりやすく絵で示してくれているね。
これはありがたい。迷いはしないと思うけどさすがに広くてちょっぴり不安だったからね。
万一迷子になってここどこー!? って館の中なり周辺エリアなりで叫んじゃった時でも、落ち着いてこの地図を見れば一目瞭然だ。
……いやまあ空間転移すればすぐに解決するんだけども。あれはなるべく人目につかない形で使用すべきだし、最終手段ってことにしておきたい。
なんにせよ助かりつつ目を通していく。同時に島根さんが昨日よろしく、俺達に向けて話しかけてきた。
「個人探査者のみなさん、お疲れ様です。さっそくですが現状の進捗と状況、そして今日一日の今後の予定を簡単に説明させていただきましょう。まずは資料の一枚目、式典館内の配置状況をご覧ください」
言われて一枚目を見る。今いるこの館の、いわゆる間取りが書き起こされた資料だ。俯瞰的に見るとやっぱりメチャクチャ大きくて広いし部屋も多い。
そして配置状況も書かれている……主にWSOのエージェント、SPさんが多めに動員されているね。警察や全探組のスタッフさんもいる。
「式典館はいわば本丸、ここまで敵が詰めてきた時点でほぼ敗北と言っていい状況でしょう……式典どころではなくなりますからね」
「それゆえここには主にゲストやVIP連中の避難に適した探査者を配置している。我々の中からも数人、式典館内にてまずは警戒してもらうことになる」
当たり前だけど、式典館の中にまでモンスターがやってきちゃった! なんてことになったらもう式典なんて中止にせざるを得ない。
即刻ゲストの方々には避難していただく形になるわけで、S級探査者認定式を成功させるという目的にあっては完全に敗北してしまっていると言えるだろう。
そんなパターンをも考えて、この館には主に最悪の事態を避けるための避難誘導要員を多めに設置しているとのことだった。
加えてここにいる面々からも何人か投入するんだとか。ヴァールがじーっと、俺を見てきた。
「…………? え、俺?」
「まあ、そうなる。あなたと後釜はひとまずこの館内にて待機だな。敵が切札をいつどこで切ってくるかも分からないため、ひとまずはここに詰めていてもらう……せっかくだ、御堂香苗にも会いにいくといい。彼女もそれを望んでいる」
「えぇ……?」
いきなりまさかの主賓への忖度に戸惑う。
切札──間違いなくミュトスの権能だろうそれを警戒しての理屈も分かるんだけど、わざわざ香苗さんを引き合いに出さなくてもいいんじゃないかと思わなくもない。
い、良いのかなあ、そんな私情込み込みの話。
恐る恐る周囲を見れば、なんだかみんな、知らない人まで含めて生温い目で俺を見ていた。
なんなら"あー、なるほどねえ"みたいなことをつぶやく人までいる。
怖ぁ……何がなるほどなんだろう?
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