表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/1857

救世主神話・覚醒編

 マリーさんの渾身の必殺剣により、ドラゴンは首に大ダメージを負い、しかも地に倒れ伏した。

 これまでにない規模の大振動。山のような巨体が地に叩きつけられたのだから、その衝撃たるや想像を絶する。

 

「うわわわっ!」

「大丈夫ですか、公平くん!」

 

 思わずバランスを崩した俺に、すかさず香苗さんがやって来て支えてくれた。助かる〜。

 しばらく続いた振動が収まる。埃も舞っていたが鎮まり、後に残るは倒れたドラゴン。顔が、目の前にある。瀕死だ。

 

「──久しぶりに橋を落としたねえ。これなら後は煮るなり焼くなり、だろう」

 

 言いながら、天高くからマリーさんが着地して戻ってきた。

 なんて人だ、この人……小山を一つ、その技一つで崩してみせた。もう、戦いどころか隠居生活していてもおかしくない御年と姿で。杖に仕込んだ刀、一本だけで。

 

 これが、S級探査者マリアベール・フランソワ。

 畏怖を禁じ得ない俺に、彼女は穏やかに笑って言った。

 

「さ、後は任せたよ公平ちゃん……今の技、この年になるとかなりの負担でね。命がどうこうってわけじゃないが、もうしばらくは戦闘不能さね」

「マリーさん……ありがとうございます。決着は、俺のこの手で必ず、付けて見せます」

 

 見れば、ドラゴンの首は鱗ばかりか皮まで深々と裂かれている。それこそ骨が見えるほどで、鮮血も勢いよく吹き出している。

 失血死するかどうかは、微妙だが……町のことを思えば、やはり俺がやらなければならないだろう。

 

『お婆ちゃん、大概ですねー……ですがこれで殺し切れます! 公平さん、アドミニストレータとしての責務をどうか、どうか!』

 

 リーベもそう、促してくる。

 ああ、そうだな。今の俺のフルパワーならどうにか、切断できる。やるさ──邪悪なる思念を倒すのは、俺の使命だ。

 

「……一つ、アドバイスさせてほしい」

 

 アドミニストレータとして決意を漲らせる俺に。

 肩を一つ叩いてきて、優しい眼差しでマリーさんは呟いた。

 

「前にも言ったが、あんたの心はあんただけのものだ。他の誰かに強制されて、何かを決めないようにしなよ? 良いかい、お婆ちゃんとの約束だ。自分の正義を信じるんだよ」

「マリー、さん?」

 

 前にも聞いた言葉を、前にも増して強く言ってくる。

 戸惑う最中に、続けて声がかけられる。

 

「そして────おい、システムさんだかなんだか知らねえが大概にしろよ」

『!?』

「この子はテメェらが好きにして良いタマじゃねえんだ……見込むのは分かるがいい加減、裏から縛るような真似してんじゃねえ」

「ま、マリーさん!?」

 

 こ、怖ぁ!?

 いきなりめっちゃ低い声、荒い言葉使いで、めっちゃ鋭い憤怒の眼差しで俺を、いや、俺の後ろにいるモノたちに向けて啖呵を切るマリーさん!

 

 え、何? 警告してるの? この人。

 システムさんや、リーベに向けて。俺を、良いように使おうとするなって。

 アドミニストレータであることを強要するなと、怒ってくれている、のか?

 

「てめえらの事情なんざてめえらだけの都合だ。ガキ一人に全部、押し付けようなんざ承知しねえからな──っとと、ファファファ。失敬失敬」

「ま、マリーさん……?」

「いやあ、ファファファ! 怖がらせちゃってごめんねえ。頭に血が上るとつい、若い頃に戻っちまう。気負い過ぎな子を見てると余計にね、変なこと吹き込むバカに物申したくなるのさ」

 

 いや昔そんなんだったの!?

 今日一番の驚きだ、何なら今年一番まである。そんな姿を見せたお茶目なマリーお姐様は、やだねぇやだねぇと顔を赤らめ、そっぽを向くのだった。

 

『……アドミニストレータであることを、強要していた? システム側が、リーベが……?』

 

 脳内で、今の言葉を受けて深く考え込むリーベの呟きを拾う。

 ……たしかに、気負っているところはあるよ。アドミニストレータとして、なんでもシステムさんたちの目線に立たなきゃいけないって、気はしてる。

 

『そんな! ……少なくともリーベにそのつもりはありませんでした。でも、そう捉えられたんですよね。私を感知できない、そこのお婆ちゃんですら感じ取るほどに』

 

 かもな。

 でも、気にするなよ……勝手に思い詰めてたのは俺だ。

 今のでなんか、吹っ切れたけどな!

 

『公平さん……?』

 

 ありがとう、マリーさん。俺のしたいこと、見えたよ。

 ドラゴンに近付く。彼? 彼女? は死にかけの体で、何が起きたか分からないままに涙を流している。

 

「ぐるううううー……ぐるー……」

「……邪悪じゃないよ」

 

 その瞳の、たった一つ宿す願いを見た。

 無邪気に遊び、ぼーっと呆けて。気持ちよさそうに寝て。

 そんな当たり前の姿が、何もかもを壊していくのを見た。

 

 香苗さんがきょとんとするのを背後に感じつつ、俺は続ける。

 

「お前は、邪悪なんかじゃない。端末の悪あがきで生まれて、それでも生きたいだけなんだな。自分にとって居心地の良い場所で、陽の光を浴びて……風を目いっぱい受けて」

「公平くん……?」

「それは、結果的に誰かの迷惑になったとしても……絶対に邪悪なんかじゃない。出自も、有り様も関係ない。ただ生きたいと願うことが悪なら、この世界の何もかもが邪悪だ」

 

 システムさんも、リーベも含めてな。

 

『…………公平、さん』

「だから俺は、お前を救うよ。システムさんの思惑も、邪悪なる思念がどうたらも。誰彼も構わない! 使い捨ての道具みたいに生み出されたお前が、それでも生きていくことを望むなら……俺にその力がある限り、山形公平は、アドミニストレータとして手を伸ばす」

「ぐるー……ぐる、ぐぅうー……?」

「それが俺の正義だ。人も、モンスターも何もかも関係ない。誰かの勝手な都合で苦しむ魂があるなら俺は、いつだって手を差し伸べる!」

 

 

 ──その瞬間、心が、何かに触れた。

 

 

 分からないけど理解していて、理解できないけど分かる、何かを引き出す。

 

 世界から音が、視界が消えた。いや、消えたのは俺自身かもしれなかった。

 何もなく、何もかもがある場所。そんなところにいる。パズルのピースが一つ、埋まるようなくらいの当然さで。

 俺はこの、異様な感覚を平然と受け入れていた。

 

 

 ──起動。呼び出し。検索。編集。改変。承認。実行。

 

 

 そのすべてが当たり前の動作。生まれた時から息の仕方を知っているように、理屈でなく感覚が分かる。

 

 ああ。ちょうど良いのがあるな。

 《風浄祓魔/邪業断滅》。

 これに備わるロールバック機能を、ロールフォワード機能に改竄。

 該当生命体を意識のみ残して分解。構成に使われた端末の右腕を再構築。そこから端末が行った生成プロセスを辿り、しかし姿のみ変えようか。

 

 より無害で、よりこの世界に適合した姿に。

 生きていきたいその心が、果たされる姿に。

 対価としてのリソースは、他ならぬこの巨体から賄おう。

 

 ほら、できた。

 

 

 スキル 

 名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で

 解説 「今回限りだ。次はきっと、最後の最期になる」

 効果 邪悪なる思念の一部から生まれた生命体を分解。再構築し、無害な生命体へと変える

 

 

 ──俺/私は。

 

「《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》」

「ぐる、ぅ、ぁ──」

 

 たった一つのかけがえのない命に、救いをもたらした──

この話を投稿した時点で

ローファンタジー日間2位、週間2位、月間1位、四半期2位

総合月間4位

それぞれ頂戴しております

また、ブックマーク登録15000件いただきました

本当にありがとうございます

引き続きブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今話を読んでると、ちょっとだけ仮面○イダーアマゾ○ズの二期主人公・千翼とこのドラゴンがダブって見えました。彼の近くに公平が居たら···と考えちゃいますね。 某赤い弓兵さんの大元の青年やその…
[良い点] マリー姐さんの啖呵が読者を巻き込んで突き刺さる
[気になる点] マリアベールさんのイメージCV…あの「レジェンド声優」さんが頭に浮かんだんですけど(システム側に啖呵を切るシーンで)、各キャラたちの声ってイメージされてるんでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ