探査者達よ、大志を抱け!
全員乗り込んだということで、バスが出発する。
目的地までは一時間もかからないそうだけど、市街地を走るわけなので信号とかにも引っかかるだろうから実際はやっぱり一時間くらいかかるんじゃないかな。
というわけでその間、もちろん敵の気配がないかを気にしつつも軽い雑談が車内のあちこちで行われていた。
もちろん俺の周囲、アンジェさんやランレイさん達もだ。むしろそれ目的で俺を挟むような形で座らせたところさえあるしね。
「いやーめっちゃ便利よ《重力制御》! おかげで私の竜断刀にも磨きがかかったし、公平やリーベ、ヴァールさんには本当に感謝しない日はないくらい感謝してるもの!」
「わ、私も! 《闇魔導》を組み合わせての双魔星界拳、すっごく調子良いの! こないだ里長様、お父さんや兄さんにも褒められたし! えへへ、あ、ありがとうございます!」
「いえいえ……お二人の頑張りあってこそじゃないですか。俺達はただ立ち会っただけで、むしろこちらこそすごく勉強させてもらいましたよ。ありがとうございます」
やはり最初の話になるのは共通の経験ってことだろう。つまりは夏休み前半に行ったお二人との探査で、その際にアンジェさんとランレイさんがスランプを克服して新たなるスキルを獲得したことだった。
アンジェさんが手にしたのは《重力制御》。その名のごとく周囲の重力を操作するスキルで、なんと因果改変に片足突っ込んでいるという超絶レアでチートなスキルだ。
実際にそれを使って攻撃するところは惜しくもまだ見てないんだけど、それをもって元々の戦闘スタイルである剣技に磨きがかかったと仰るならば相当なことになっているんだろう。お披露目されるのが楽しみだ。
一方でランレイさんも件の探査で新スキルに覚醒しており、なんと魔導シリーズ、それも好敵手と見なす香苗さんの《光魔導》と対になる《闇魔導》だ。
この人の場合、このスキルによって発現する現象は影を集めて影法師を生みだすというもので、思念によって自在に操れるらしくて自前の星界拳がそのまま二倍になるというすさまじい事象を以前、見させていただいた。
双魔星界拳……このスキルによる影法師とともに放つ、新たなる星界拳の形だ。
実質一人で連携するわけだから当然一糸乱れぬシンクロが容易で、すなわち相乗効果で威力も跳ね上がるというとんでもない流派である。
これにより元々殺傷力の高かったランレイさんの星界斬撃拳は、もはや一撃一撃が必殺の威力を誇るものへと進化した、というのが俺の見立てだった。
「新スキルに目覚めてからはなんだか実力の伸びもすごくて、メキメキレベルも上がってるわ! それこそA級トップランカーももう目前よ!」
「わ、私もリンに負けてられないから……! 頑張ってまずはトップランカー、そしてゆくゆくはS級を目指すの! アンジェちゃんとなら、き、きっと到達できるはず!」
嬉しそうに語るお二人を見ると、なんだかこちらまで嬉しくなるよ。夢に向かってひた走る姿は、陰キャ陽キャ関係なくどこまでも眩しくて尊敬できるものだ。
こんなにも喜んでもらえたんだから、立ち会い程度でも一緒にダンジョン探査して何かしらのきっかけになれたってことは、俺にとっても誇らしいことだよ。
後部座席じゃないけど前の席、自然と話を聞いていたんだろう。何人かの探査者さん達がこちらを見て反応している。
中にはマリーさんやリンちゃんといった身内の方もいらっしゃるね。やはりお孫さんやお姉さんの現状は気になるものなんだろう。
しばし耳を澄ませる。
「ファファファ! アンジェのやつ、すっかりスランプを脱したみたいだねえ。かつての香苗ちゃんのポジションまで見えてきてるってのが本当かどうか、私も見させてもらうとするかね」
「《重力制御》とは……聞いたことのないスキルですね、先生。字面や彼女の様子から察するに相当強力なものと見受けられますが、こうなると俺としても楽しみだ。もちろん、ランレイ殿の双魔星界拳もだな」
「姉ちゃん、壁を超えた。双魔星界拳……すごい! スキルと星界拳を組み合わせたまったく新しい流派! 負けてられない、私の真道と姉ちゃんの双魔、ともに磨き上げてシェンの名をさらに高める!」
マリーさんの弟子にして当代一の武術家でもあるサウダーデさんをも交え、身内への期待やさらなる飛躍を口にする各人。
その声色は明るく、未来のS級探査者の誕生を待ち侘びるかのような期待感に満ちている。
正しく成長した人は、周囲にも良い影響をもたらすってことなのかもしれない。
アンジェさんとランレイさんが進化めいた成長を遂げられたことで、より頑張ろう、より見守ろうって気持ちになったんだろうね。
「ランレイ、私達ならきっと到れるわ、S級に! 素敵ね、頑張るわよ二人で!」
「う、うん! アンジェちゃんとなら、きっとどこまでも行ける気がする!」
そうした声をも受けて、さらに意気軒昂に誓う二人。本当に相性の良いコンビだな……互いに互いをリスペクトして、見ていて清々しいほどだ。
今回、アンジェさんチームに所属している神奈川さんもこれには感心した様子でぽつり、つぶやいていた。
「すごいな……熱血って感じだ。俺も普通の探査者だったら、こんなふうに燃えてたのかね」
『千尋は今でも熱いと思うよ? 私のために、みんなのためにサークルと戦ってきてくれてる。聖剣ありきの探査者にしちゃった私が言うのもなんだけど……そんな千尋を、私は愛してるよ』
「……ありがとよ。俺もだ、ステラ」
小声で愛を囁きあう、実にご馳走様って感じのやり取り。
たしかに普通のオペレータとは事情が異なるけど、神奈川さんは巻き込まれたにもかかわらずサークルと戦う道を選んてくれたんだ。他ならぬステラを愛し、彼女の望む受肉を果たすために。
あなただって立派で素敵ですよ。
俺は内心で、そうつぶやくのだった。
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