そして、風は再び吹き抜ける
──そうして朝、目を覚ます。清々しい朝の日差しが締め切られたカーテンから漏れる。いつもと違う光景だ。
起き上がりその場で伸びをする。めちゃくちゃなすっきり感。ベッドが良いとなんだか違うもんだなあ、やっぱり。
もしくは、ワールドプロセッサが何かしてくれたのか。
脳内のアルマが不意に話しかけてくる。
『やあおはよう、公平。何やら眠った後にも大変だったみたいだけど、コンディション自体はそれなりそうで良かったよ』
「ああ、おはようアルマ……気付いてたのか? 俺が魂だけシステム領域に行ってたこと」
『そりゃ気付くよ、自分の宿主だぜ? なんならすっからかんになった君の身体を動かせないか試してみたけど駄目だった。分かっちゃいたけどね』
「えぇ……?」
怖ぁ……ナチュラルに乗っ取ろうとしてるんじゃないよ、人の身体を。まあ無理なんだけどね普通に。
コマンドプロンプト転生体でも、高レベルでもやはり山形公平の身体は人間だ。そこに収まるには人間用の規格をした魂じゃなきゃいけないわけで、ワールドプロセッサ級の魂そのまんまなお前が入り込める理由などないわけだ。
『だろうね、はあ……もし身体が動かせたのならルームサービスの料理片っ端から頼んで食いまくってやろうと思っていたのに。残念だよ』
「こっちは安心だよ。戻ってきて目が覚めたら、下手すると食い過ぎでぶっ倒れそうになってましたなんて洒落にもならない。今日大仕事なんだぞ」
『だったらもっと食べて精をつけろよ。腹が減っては戦はできぬって言うだろ』
ああ言えばこう言う。とにかく飯が食いたくて仕方ないんだなこいつ、と呆れながらも俺は立ち上がり風呂場へ向かった。
普段やらないけど朝シャンってやつだ。時計を見ればまだ朝6時前、それなりに余裕があるからね。あと一人部屋だしせっかくなので、このゴージャスな宿を少しでも堪能したいのだ。
風呂場で熱めのシャワーを浴びれば、いよいよ目も覚めてくる。身も清められるし一石二鳥だなあーって思いながらも俺は、ワールドプロセッサやミュトスとの話し合いを思い返していた。
話自体はそう長いものでもないし簡単なものだった。つまりはミュトスはいつでも投入できるけど、それはそれとして時期はワールドプロセッサが見定めると。
彼女を切り札として扱うがゆえの慎重さでもって、最善のタイミングで現世に降臨させるという通達だったのだ。
『ふーん、まあ切札にしたいのは分からんでもないよ。僕だって三界機構は虎の子だったしね。それを一つに束ねた異世界の神だなんて、そりゃ温存しときたいでしょ』
アルマが所感を述べるがなるほど、こいつにとっての三界機構とワールドプロセッサにとってのミュトスはほとんど同じ立ち位置だと言えなくもないのか。
ある種の秘蔵っ子というのかな。それなりに手間を掛けて生み出した分、あるいは愛着とかもあるのかもしれない。俺が課金して引き当てたSSRキャラみたいなもんかもな、ソシャゲの話で恐縮だけども。
変に納得しつつも着替えてしばしリビングのソファに座っていると、7時になるかならないかって頃にホテルマンさんが訪ねてきた。モーニングを持ってきてくださったのだ。
わーい朝食、しかも事前に追加でハンバーグとか頼んじゃったりしてるので朝からガッツリだ! アルマじゃないけど今日はやっぱり大仕事だしね、食べなきゃ食べなきゃ。
オムレツにソーセージ、各種パンにサラダに温かいスープとオシャレなモーニングの隣にででーん! と大きなハンバーグ。うひゃー堪んない!
ふかふかベッドで疲れも取れた、朝シャンで身も心もスッキリした。そして朝から極上のご飯でエネルギーチャージだ。
いやあなんだか罰が当たりそうだよこんな贅沢。良い思いさせてもらった分、きっちりサークルも過激派もミュトスの権能も相手するから許していただきたい。いただきまーす!
『敵方も飛んだとばっちりだね、ちょっぴり豪勢な朝を迎えた程度のことで気合い入った最高存在が敵対してくるなんて……と、美味しい!! おおおスープからして違う、味わいが! なんて濃厚かつ多層的な味わい、舌の上で紐解かれるかのようにいくつもの味が折り重なってとろけるように混じり合う……!』
スープを一口飲んだだけでもう分かる、このクオリティの高さ! アルマじゃないけど飛び上がりそうだ、めっちゃ美味しい!
そのまま味わいつつも食事をいただく。最高の味、栄養……備え付けの冷蔵庫に置いてあるミネラルウォーターでさえびっくりするほど清らかで美味しいんだ、幸せな気持ちになるよ。
たっぷり30分かけてご飯を食べきる。よっぽどお腹が減ってたんだな、これでも腹八分目ってくらいだ。食い過ぎで動けなくなるなんてことにもならなさそうで良かったよ。
ごちそうさまでしたと両手を合わせて祈り、次いで歯磨きする。集合時間までもうあと30分だ、そろそろ切り替えていかないとね。
──と。そんな時にステータスの変化を感知した。
称号が変わったんだな。とりあえず確認する。
名前 山形公平 レベル999
称号 風はふたたび吹き抜ける。あらゆる闇を照らす、光を放ちながら
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
名称 神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─
称号 風はふたたび吹き抜ける。あらゆる闇を照らす、光を放ちながら
解説 すべてを白日の元に晒し、そしてすべてを救う者。誰もがあなたを讃えるでしょう──ここに救世主あり、と
効果 なし
《称号『風はふたたび吹き抜ける。あらゆる闇を照らす、光を放ちながら』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……それではよろしくお願いいたします、コマンドプロンプト。動き始めた時を、どうか護ってください》
なんともはや、エール的な称号がきたな。単なるメッセージなのは間違いない。
ていうか俺、もうレベル4桁行くじゃん怖ぁ……最終的にどこまで行くんだろう、半年未満でこのペースだとおじいちゃんになる頃には5桁いきかねないよ。
思えば遠くへ来たもんだ、といささか複雑な気分になりつつも歯を磨き終え、いよいよ出発だ。
財布にスマホ、部屋の鍵も持ってよし、じゃあ行こうか。
「救世主なんて柄じゃないけど、できる限りを尽くそうか、と」
『そのできる限りってのが君の場合、めちゃくちゃな範囲なんだよね……精々頑張りなよ救世主。僕から取り戻した世界だ、精々大切にしてやれ』
邪悪なる思念からの皮肉めいたエールさえ受け取り、俺は玄関の扉を開けた。
さあ、ここからだ。新しい戦いの幕が開く────!
これにて第二部後日談編終了!お疲れ様でしたー!!
明日から本編第三部・星明りの聖剣編の投稿を開始しますー
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いしますー
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【ご報告】
攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
書籍版、コミカライズ版併せて発売されております!
書籍
一巻
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二巻
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コミック
一巻
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Webサイト
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