寝たと思うじゃん?システム領域に呼び出されるんだな、これが
会議を終えた後、俺達は一旦部屋に戻り、それから幾ばくかの自由時間を可能な限り休息と明日への準備に費やした。
リーベやシャーリヒッタとホテル内を散策したりして気分をリフレッシュして、夕食に舌鼓を打ち、部屋に備え付けのバスルームの豪華さにこれまた怖ぁ……ってなり。
そして夜を迎え、よしじゃあ寝るかーとなったのである。
まだ21時になるかならないかってくらいの時間で、ベッドに入るにはいつもより結構早めなのは、それだけ明日に備えたいからだね。
「ベッドもふかふかすぎる……疲れが俺の全身から染み出して排出されていくかのようだ……」
『別に言うほど疲れることしてないだろ君。明日もどうせ雑魚どもを蹴散らすぐらいで、それにしたって他のオペレータなりなんなりが気合い入れまくってるからそいつらがやってくれそうな勢いだし』
高級ホテルならではというべきなのか? 柔らかすぎて重力があるはずなのに無重力感さえ覚える素敵なベッドに潜り込んでつぶやく俺に、アルマが茶々を入れてきた。
いやまあ疲れちゃいないけども。それでもこう、デトックス感あるんだよなんだか!
あと明日についてはたしかに、俺以外の各組織のみなさんや神谷さんが主に相当気合い入れてるから頼もしいのはたしかだね。
と言ってもそれが、俺が手を抜いたり気を抜いたりしていい理由にはこれっぽっちもならないわけなので当然気合い入れていくけどね。
そもそもミュトスの権能が現れた時、対処できるのはシステム領域のモノだけなんだから。舐めてかかるなんて絶対にできないんだな、これが。
『真面目だねぇ……ま、良いけど精々気張り過ぎで悪目立ちしないようにね、シャイニングなんたらさん?』
「山形ですけど! せめてなんたら山形さんにしてくんない?」
呆れ混じり、からかいの言葉を一つよこすアルマにツッコんで俺は微睡む。本当にふかふかで温かい、超気持ちいい……あっという間に寝れるー。
というわけで俺ちゃんは健康優良児そのものといった感じで、ベッドに入ってすぐにスヤァ……と意識を夢の彼方へと飛ばしたのであった。
『お休みのところ申しわけありませんが。こちらも最終確認をさせていただきましょうか、コマンドプロンプト』
────んうぇあっ!?
眠りの奥底から聞こえてくる、まさかの声に驚いて目を開けばそこはホテルの一室ではない、別の空間だった。
見覚えのある、ついこの間訪ねた場所。本来俺があるべき、存在そのものの故郷。
システム領域。それも最奥部、世界維持機構のアバター体が住まう空間。
気がつけば俺はそこにいて、この領域ばかりか世界そのものの主とも言える存在、ワールドプロセッサを前に突っ立っていたのである。
瞬時に事態を察して、唇を尖らせ彼女へ呻く。
「…………俺の魂だけ呼び出したのか。なんのつもりだ、ワールドプロセッサ」
「すみません、このような形での呼び出しになってしまって。明日の件について、こちらからも一応の段取り説明はしておいたほうが良いかと思いまして」
微笑みながら語るもやってることは相当高度だ。寝ている間に魂だけこの空間に呼び出すなんて、深層心理に接続できるタイプの権能を持つ概念存在や精霊知能であってもできない行為だ。
なんせ潜り込むんじゃなくて引き寄せているわけだからな。かと言って肉体と魂が乖離した、いわゆる幽体離脱ってわけでもない。きっちりそれらは紐づけしたまま、無理のない形で俺の魂だけこの場に召喚している形になるな。
そこまでして何がしたいんだ? 明日の段取りとは、具体的に何を指すのか。
疑問に首を傾げる俺へ、ワールドプロセッサはやはり笑って続けた。
「明日の戦いにおける、システム領域からの最重要ファクターである精霊知能ミュトス。その投入についての打ち合わせですね、主に。彼女は何しろ性能上、能力を発揮してもらうタイミングが難しいですから」
「あー……《イミタティオ・トリニタス・コスモス》か。一撃こっきりだけど、全段開放シャーリヒッタ級の威力を放てる」
言われてすぐさま思い出す、精霊知能となった異世界の神ミュトスに与えられたスキル。《イミタティオ・トリニタス・コスモス》。
なんと一撃だけであるが、あの三界機構の力を宿して放つという、とんでもない大技だ。異分子処断権限全段開放状態のシャーリヒッタにも、瞬間的な出力だけであれば並ぶってんだからすさまじい威力だよ。
ただし本当に一撃こっきりで、タイミングを外すとしばらくスキルの再使用ができなくなるのが目下のところの問題点だ。
それがあってワールドプロセッサは俺を呼び出したんだろうな。彼女を、分かたれし権能にぶつけるにあたって重要なのは間違いなく、どのタイミングでスキルを使うか、だからね。
「ええ。あのスキルこそは紛れもなく異世界の神の権能を打破する鍵。ミュトスが権能を取り戻し、再び制御下に置くためのものなのです────ミュトス、こちらへ」
「へへーっ!! ワールドプロセッサ様のお呼びとあらばいつでもどこでも即参上、たはー!」
「えぇ……?」
うなずき、当の本人たるミュトスを呼びつける。空間に穴が空いて、そこから呼ばれるがままに現れる一人の精霊知能。
銀髪を長く伸ばして一部、後ろに結った現代服の女性。身長が高いながらも今は背を丸め、胡麻をするのように両手を揉みつつそそくさとこの空間にやってきている。
そして開口一番のノリよ。たはーって。相変わらずなんとも言えないレトロなノリである。
なんでも半世紀ほど前のコメディ番組に影響を受けたらしいが、言葉遣いばかりか振る舞いまでそれっぽくなっている。大掛かりなコントに出てくるお調子者みたいな感じだもん、なんか。
──精霊知能ミュトス、その人のご登場である。
俺は片手を挙げて、彼女へと挨拶した。
「や、ミュトス。こないだぶりだね、元気だった?」
「ははーっ! 元気だけが取り柄のしがない元神現精霊知能でございますれば! お久しぶりにてごぜーやすコマンドプロンプト様、今日は不肖このミュトスめのことでお越しいただくなんて恐縮の至りでございます!」
「そ、そう……」
怖ぁ……反応に困るよ、なんだこのノリ。
テンション高くも調子よくペラペラ喋るミュトスの、陽キャとか陰キャとかとはまた別口の独特なコミュ力を感じて戸惑う。
この子、これで前身は調和と協調を司る水の女神だったんだそうな。なんだかギャップあるよね、うん。
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